決意
俺が彼女の唇を離したときには、彼女の意識はすでになかった。
「リュネ・・」
俺は彼女を見つめる。
熱と戦っていた彼女の顔には疲れの色が見えた。
俺自身にも、疲れが生じていた。
熱で苦しみ、意識もままならない彼女を看病し続けるのは、
意外にも胸が締め付けられて、
精神的にも体力的にも消耗が激しかったといえよう。
はやく意識が戻ってほしい。
そんな切実な願いがようやく届いたのか
彼女は今日、意識を取り戻した。
安堵と喜びが交じり合い、身体は高揚感に襲われる。
が、しかし、彼女の顔色はまだ調子が戻ったとはいえなかった。
熱も下がりきれず、浮かされた表情に時折痛みに顔をゆがめるリュネ。
リュネは常に規則正しい生活をしていたためか
風邪を引いたりすることは当然なかった。
だから今のように一度崩すと、元に戻すのが大変なのかもしれない。
だが、俺は決めた。
もう彼女を手放しはしないと。
彼女が一人暮らしをしているというなら、
いっそのこと、こちらに移り住んでもらおうか・・?
そういう考えがちらりと頭の中でよぎった。
一人暮らしをしていたから体調を崩したのだ。
一人では管理しきれない部分もあったのだろうから。
こちらに移り住んでもらえば、彼女の体調も管理できるし、
なにより俺の傍にずっと・・
ーーーお い て お け る
ーーいや、まだ・・だめだ。
コレは俺の願望にしかすぎない。
あわよくばそのままリュネをものにしてしまおうという魂胆が丸見えだ。
それに、この婚約は、俺の望みであって、彼女の望みでは・・、ない。
もう彼女の苦しむ姿は見たくない。
心から彼女に愛してもらいたい。
俺は彼女の心から変わってもらおうと決めた。
愛してもらうため。望んでもらうために。
まずは俺自身が、彼女に愛を表現しなければ。
そう強く思い始めた。
愛という感情を知ってもらうには見せて、
そういう感情になってもらうのが手っ取り早い。
なにより、その相手は自分でなければ気がすまない。
リュネは心根が優しく純粋だから人を惹きつける。
俺ならば、よって来る男など排除するのは簡単だ。
たとえ、あのとき、邪魔したレオという男であっても。
「・・にしても、疲れたな。
俺も・--寝るか」
疲れは一度認識すると
早々に逃れられなくなる。
疲れは睡魔をも呼び寄せた。
俺はリュネを抱きこんで、リュネをものにすると決意して、
リュネを寝かすベットに入り込んだのだった。