熱vs俺
俺はそこまで思い出し、
何故、リュネの苦しむ顔が見たかったのかがようやく分かった。
俺は、彼女に、俺自身を見てほしかったんだ。
王族という地位を前提にした俺ではなく、
人間として・・一人の男としてみてほしかったからだったんだ。
彼女が俺自身を映す瞳ならば、
怒りでも、憎しみでも、恐怖でも、なんでもよかったんだ。
どれでもいい、自分さえ、瞳に映してもらえるなら。
自分を認めてもらえている、自分という存在を認めてもらってる。
それが俺の中で認識できれば、それで満足だったんだ。
だから・・!
だから、俺以外の何かで苦しむ彼女なんか見たくなかったんだ。
だから、早く助けてやりたいと思った。
そして、俺にとって、彼女が唯一の存在だったんだ。
俺を個人として映す彼女が、失われることーーそれが、怖かったんだ。
ようやく俺は、理解、できた。
彼女を失うことへの恐怖。
そして恐怖を感じる理由は、
・・・俺を個人としてみてくれるのが彼女だけだということ。
彼女が、リュネが、唯一の存在だからこそ、
愛しているんだ。
俺のものになってほしいと思ってしまう。
ただ俺を個人としてみてくれるだけで満足できなくなってしまったんだ。
人間は欲しだしたらとまらないーーそういう生き物だ。
俺も、もうリュネを手放せない。
否、手放すことはできない。
「ぅ・・っ”」
突然、彼女がうめきはじめた。
身体にぎゅっと力が入ったり、抜いたりを繰り返しながら
寝返りを打とうとする。
「リュネッ!」
ベットから落ちそうになる彼女を必死で支えながら、
彼女を呼ぶ。
「う、ぅうう!っう”」
何かが、彼女を何かが苦しませる。
痛いのだろうか。
顔を赤くして、体中熱を帯びて、必死に何かに抵抗しようとする。
「リュネ、おいっ、どうした!!」
「っーーっう”」
ベットから落ちるというのに、まだ寝返りをうとうとしてくる。
俺は彼女を抱きこんだ。
彼女の身体を押さえつけながら自身の腕の中に収める。
医者からもらった鎮痛剤を手に取った。
だが・・
「っ”うっ・・”ぅうっ」
唇をぎゅっとかみ締める彼女に意識はない。
彼女自身で飲むことはできないだろう。
しかし、飲ませなければ、彼女の体力は持たない。
「リュネ・・!」
「んぅ、んぐっ・・んん」
俺は鎮痛剤を口の中に放り込み、
彼女の唇に口付け、舌先で割って口内に入り込む。
「んっ・・んん!んぐ・・っ”」
必死に抵抗する彼女。
何をされてるかがおそらく分かっていない。
ただ何かから逃れようと必死なだけだと思う。
俺は鎮痛剤を、舌で上手に彼女の中にもぐりこませた。
そして、唇を離し、次は水を口に含み、同じことを繰り返す。
ゴクッ
彼女ののどがごくりとなった。
「ん・・」
唇をつなぐのは銀の糸。
俺はぺろりと舐めて、もう一度、次はゆっくり彼女に口付ける。
彼女の唇を舌で味わって、離した。
「ッ”・・・。
・・・っ」
次第に落ち着いてくる彼女。
しばらくは、薬が効いてくれるだろう。
「リュネ、早く元気になってくれ」
俺は彼女を再び寝台に寝かせ、額に口付けた。
しかし、しばらくは、
意識のない彼女の熱との戦いだったことを記しておく。