当たり前 後編
その日は確かちょうど・・
一年前の冬に開かれたパーティーだった。
俺は退屈していた。
寄ってくる女はどれもたいしたことはない
金や欲に目がくらんだやつらだ。
「リクト、ライト、行くぞ」
パーティが始まったすぐのころ、
俺と兄は父上・・陛下に呼ばれた。
臣下である貴族と挨拶を交わすためだ。
「陛下、今日の宴に
リメイル家は参加されているのですか?」
兄ライトが唐突に聞き出した。
「あぁ。久しぶりに参加してくれている。
もう何年も参加してくれていなかったが
リードが婿に入って・・娘も成長して出ざるをえなかったのだろうな」
陛下はひとつの悩みが解決したと安堵を見せた。
「そうですか。ではリュネ嬢も来ているのですね」
兄は確信を持った口調で言葉を口にした。
「あぁ。だが、ライト。
お前はあの娘と面識があったか?」
「いいえ。ただ、宴に参加しないことから
箱入りの姫なんて噂が流れているのできになりまして」
兄は女好きだ。
今回もそれの類で集めた情報なのだろう。
このとき俺はたいした関心もなかった。
「リクト、俺が集めた情報では
お前は今まであったこともないタイプの姫だぞ。」
兄はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「兄上、・・女なんて誰も同じようなものでしょう」
俺はうんざりとした口調で答えた。
それが間違いだと疑わなかった。
権力と金と地位がすべて。
それだけで意のままに操れるようなおもちゃでしかないんだ、女というのは。
俺はそれが当たり前だと思っていた。
「お前、その考え方・・絶対会えば崩れると
俺は確信してるほどなんだぞ?」
「兄上がそこまで言うほどの女ですか。
一体どういう噂が流れているのです?」
環境によって人は変わるものだ
・・だとすれば、本当にいるのかもしれない。
兄の自信は俺の固定観点を崩し始める。
「リメイル家は王家と対等な関係だ。
何人もの王妃や優秀な人材を政治に投与してきた偉大な貴族家。
その家の娘なのだから優秀に違いないってのがひとつだ」
「優秀・・」
兄の言葉に、俺は無意識に口にしていた。
本当に優秀なら少しは賢い考えを持っているのだろうか
「当主を早くになくしたローズ夫人も相当な美人。
きっと美しい姫なんだろうっていうのもひとつ。」
「・・・」
金さえあれば着飾ることなんていくらでもできる・・
俺は少なくともそう思ってたので聞き流していた。
「あー、あとそうだ、
同じ親族との関係しか持っていないそうだぞ、
他の貴族との交流はないらしい。一匹狼的な存在だってことで
際立った姫だな」
「友人関係がないってことか」
俺はそこで不思議に感じた。
やはり、兄が言うように今までと異なった奴なのかもと思い始める。
女というものは集団で群がることを好む。
一人では弱いくせに集団になると強気になる奴がいる。
そういう意味でも不思議だと思う。
「まぁざっとそんな感じだ。」
「兄上の言葉で珍しい変わった奴だということは分かりました」
「おいおい、そんないいかたないだろう。
ま、お前が気に入らなかったら俺が貰おうかな」
「俺が・・気に入ればくれるんですか?」
会ってもいないのに、よくもまあこんな話ができるものだ。
と思いながらもそう、兄に聞いてみる。
「俺は候補がいくらでもいるからさ。
お前はなかなか候補が挙がらないんじゃないか?
ねぇ、陛下」
「そうだな。今日来る娘がやっと候補に挙がるくらいだろうな」
兄上の言葉に神妙にうなずく父上。
なんかそういわれるといらだつのはなぜか。
「今まで候補に挙がらなかったのは俺のせいじゃないですから。
全部女のほうですからね」
とりあえずそう釘を刺す。
「まぁ、そういうな。
ほら、来たぞ」
陛下が正面を示した。
するとそこには、
リメイル家党首のリード殿とローズ夫人・・
そして、俺は見入ってしまった。
蒼いドレスを身に纏った
冷たく美しい蒼い薔薇のような感じをイメージさせるのに
赤い髪が見事に映える女を。それがリュネだった。
「陛下、本日は宴に招待してくださりありがとうございます。
今まで断り続けていたこと、申し訳なく思っております」
ローズ夫人がそう頭を下げて言った。
「いや、かまわぬ。最愛の夫をなくしたのだ。
仕方がないだろう。だが、リードと再婚できたのだ。
これからも新たな愛をはぐくんでくれ」
陛下の言葉にリュネは眉をひそめた。
しかし、それは俺以外誰も気づいていない。
「陛下、これからも陛下に忠誠を誓います」
リード殿が忠誠の証を示した。
「陛下、本日は娘を連れてまいりました。
リュネです。リュネ、挨拶を」
「お初にお目にかかります、陛下、殿下様方。
リュネ・リメイルです。どうぞお見知りおきを」
ローズ夫人の言葉にリュネは淡々と述べた。
それはもう抑揚のない声で。
冷静に、冷徹に。
「あぁ。こちらも紹介せねばな。
第一王子のライトと、その弟リクトだ」
「ライトです。どうぞお見知りおきを」
「リクトです。今後ともよろしくお願いします」
俺たちの挨拶を、リュネは無表情に見つめていた。
関心のないまなざしと、眼中にはないという意志の強い瞳。
それらがなぜか気に食わなかった。
そして、それぞれが解散し散らばった。
俺も女に囲まれ、リュネに話しかける暇もなくなる。
どうにかして話しかけたい。知りたいと俺は思った。
だが、半分眼中にもないのだとしらしめられた気がして苛立った。
次は決戦・・!
早くも・・嫉妬!?