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シーン8 [盗作作家:我那覇]共謀②

「わたしにいくつの罪があるのか整理しましょう」


 トーク番組の収録が終わると、アオシマくんと本を作る時に入り浸った会議室に向かい、そこでわたしはノートを広げた。一番上に大きく【罪】と書き、ボールペンで箇条書きにしていく。


 ①盗作をすることで他人の名誉を盗み不当に利益を得た。


 ②盗作を出版させたため、出版社の信頼が失墜する。


 ③盗作が発表されたため、本当の作者が望む形での発表ができなくなった。


「ほかにありますか?」


 わたしの言葉に、アオシマくんはしばらく考えこんだ。


「この粒度の分類なら……他はないです。ぼくに対して後戻りの効かないタイミングで打ち明けて巻き込んだとか、そういうのはありますが」


「それはすまないと思っています。無理に許さなくていいですよ」


 わたしは心から申し訳なく思う。

 アオシマくんは何も答えない。

 会議室の中に、しばし沈黙が訪れる。

 窓から射し込む夕日が、テーブルの上に置いたノートを橙色に染めていた。


 十秒程度数えたところで、わたしは口を開く。黙っていても話は進まないのだ。


「①の不当な利益については、すでに名誉と利益を得てしまったワケですが、これは然るべきタイミングで謝罪して賠償するつもりなので一旦置いておきます」


 異論がないか、アオシマくんの目を見て確認する。無いようだ。

 わたしは①の横に保留、と書く。


「②の出版社の信頼の失墜については、まだ盗作の事実が明らかになっていないため、信頼失墜も発生していません。穏便に済ませるためにアオシマくんが頑張っているところですね。ここが踏ん張りどころです」


 わたしは②の横に頑張り中と書く。


「③の本当の作者が望む形での発表ができなくなった点については、これはもう償うことはできないのかなと考えています。先生が見つかったあとから、増補改訂版のような形をとれればまだマシかも知れませんが、それにしたってすでにわたしたちが作った本を読んでしまった人の、初めての読書体験は損なわれています。これはどうやったって取消したりすることはできません」


 言い終わるとわたしは③の横に不可能、と書いた。


「これが現在のわたしの罪です」


 アオシマくんは軽く頷きながら、確認するようにわたしが書いた文字を見つめている。


 わたしは次に、隣のページの一番上に大きく【功】と書いた。


「次にわたしの功についても整理しましょう。わたしの行動に良きことがあるのか。それをわたしが言うのもおこがましいのですが」


 ①発表されないまま消えてしまいかねない作品を掘り起こした。


 ②『ファントム・オーダー』は環境問題を取り扱うポリティカルフィクションであるため、広く読まれることには社会的な意義がある。


 ③物語の生み出され方がどうであれ、読者にとって面白い物語が一つ増えるのはよいことである。


「どう思います?」

「①②③どれも言い訳ですよ。作者以外に物語を発表する権利なんて無いです」


 アオシマくんはかぶりを振りながら答える。


「その通りです。わたしがしたことは悪いことです」


 わたしはアオシマくんに頷いて、【功】①②③に取り消し線を引きながら続けた。


「わたしは悪いことをしてでも、この物語の結末が見たかったのです」


 ノートにペンを走らせ、【功】④結末が書かれていなかった物語の結末を見ることができる。と書く。


「そしてこの【功】④で利益を得るのはわたしだけです。他の人はこの物語自体を知らなかったのですから、【功】自体が発生しません。今は状況が変わりましたが……」


「どうしてY先生は自分で出版社に持ち込まなかったんでしょうか」


 アオシマくんが疑問を口にする。


「それはわかりません。そもそも持ち込みをしていないのか、持ち込んだが落選したのか……ここに居ない人の意図を探ろうとしても無理がありますね。見つけ出して本人に聞くしかないでしょう」


 わたしはそう言ってペンを置こうとした。


「あの、実はもう一つ、可能性があるとぼくは思っています」

 アオシマくんが言うべきかどうか悩んでいる様子で話し始めた。


「なんでしょう」

 わたしはアオシマくんの言葉を促した。


「『ファントム・オーダー』の作者はやはり我那覇さんで、なんらかの理由で盗作だとウソをついている可能性です。……その理由は想像もつきませんが……」


「なるほど! それは……考えてなかったな。そう言われてみると、Y先生が今後も現れなかった場合、わたしがこの作品の作者ではないことを証明するのは難しい気がします。たとえば、続きを書くのがめんどくさいから、めちゃくちゃにややこしいうそをついてる可能性などが考えられるわけですね。それは正気とは思えないうそですが、だからと言って今のわたしの計画も正気を疑われるようなことだとは思えますし……うーん、面白い。アオシマくん。さすがです」


「そのため、ぼくは我那覇さんに付き合って、表面上だけY先生を探してるフリをするのが正解かな、と思っていました」

「いました、と言うと?」

「今日の収録後、剣崎さんとメールアドレスを交換していたのを見て、その戦略は危険だと思って放棄しました。今は穏便に進めるには、Y先生を見つけだす以外なさそうだと思っています」


「なるほど。ではこれからは積極的に探していただけるのですね」

「その代わり他の人に真相を話さないことを約束してください」

「わかりました。アオシマくんの捜査が行き詰まるまでは誰にも話しません。これからは週一くらいで報告会をしていきましょう」


 わたしはアオシマくんの目を見た。アオシマくんはまだ迷いがあるようだが、視線は合った。今はそれで十分だ。

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