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シーン6 [編集者:アオシマ]偽装

「ご意見ありがとうございます。いただいたご意見は編集部として真摯に受け止め、よりよい作品づくりのために活かそうと思います。

 一点確認させてください。

 頂いたご意見の中に『ファントム・オーダー』は自分が書いた作品の盗作であるとの指摘がありましたが、こちらについては編集部で慎重に確認させていただきます。

 ところで『ファントム・オーダー』については続刊分もすでに書かれております。

 (何巻まで書かれているかは伏せさせていただきます)

 もし差し支えなければそちらで保持しておられる剽窃ひょうせつ元の作品の各巻のサブタイトルおよび概要を送って頂くことは可能でしょうか。

 お返事お待ちしています」


 これでよし。ぼくはメールを送信する。


 これでクレーマーか本物かは判別できる。大抵のクレーマーは返事を書いて来ない。そこで音信不通となる。そしてもし正解でないサブタイトルと概要が送られてきたら適当な返事で対話を終了する。『ファントム・オーダー』は二巻、三巻で大きく物語が動く。無関係な人が概要を推測することなど不可能だ。


 仕事は家に持ち帰らない主義だったが、この作業だけは、とてもじゃないが編集部でする気にはなれなかった。誰かに後ろからモニターを覗かれるわけではない。それでも、やましいことをしているという自覚が、背中に絶えず冷たい視線を感じさせて落ち着かないのだ。


 そう。ぼくには後ろめたい気持ちがある。

 ぼくは会社を、編集部を、仲間たちを裏切っている。

 ではぼくは我那覇さんの味方か?

 それも違う。

 ぼくはぼくの生活を守るためにだけ行動する。Y先生とやらをなるべく早く見つけられれば、事は明るみに出ることなく終わらせられるだろう。複数の作者によって書かれた物語など、世の中にはたくさんある。なにも珍しい話ではない。それにぼくたち編集者は日常的に作品に介入しているが、著者名にそれが反映されることはない。


 Y先生を原案者の形で雇うことにするか、ペンネームはそのままで作家を交代させるか、そこは交渉次第でなんとかなるだろう。


 ……ではもし見つけられないままだったら?

 この場合、二パターンが考えられる。

 一つは、Y先生とやらは我那覇さんの妄想であって、盗作だという告白がウソである場合だ。

 到底正気とは思えないウソだが、我那覇さんがすでに正気ではないとしてもぼくはまったく驚かない。この場合、我那覇さんの妄想を解かない限り、『ファントム・オーダー』の結末が書かれないことが問題だが……その場合は、いっそのこと未完のままでも良いかもしれない。しかし、この考えはぼくに都合が良すぎる。予想ではなく願望に近いパターンだと言える。


 もう一つのパターンは、Y先生は実在し、『ファントム・オーダー』は盗作だが、なんらかの事情でY先生が名乗り出ない場合だ。このパターンだといつまでも捜索の手を広げることになる。資金や期間の限度を決めておいた方がいいだろう。ぼくはその『なんらかの事情』を解決するために首を突っ込むことはしない。


 いずれにしても、Y先生がいきなり訴訟を起こすような性急なことさえしなければ、穏便に解決できる目処が立った。未だにぐっすりと眠ることはできていないが、ぼくは少しずつ日々の生活リズムを取り戻しつつあった。


 明日はラジオのトーク番組に我那覇さんが呼ばれることになっている。

 『ファントム・オーダー』の二巻の発売が迫るため、今度はラジオでプロモーションを行おうということだ。

 トークの司会は、剣崎文人さんだ。以前の対談以来、剣崎さん自身が我那覇さんや作品に、非常に好感を持ってくれたため、話はすんなり決まってしまった。

 ぼくも参加した事前の打ち合わせで、しゃべるプロではない作家を生放送で使うリスクを訴え、尺の縮小を暗に訴えたが、剣崎さんからは「ぼくがカバーするから大丈夫です」と退けられてしまった。


 会議では剣崎さん自身が作成した『ファントム・オーダー』の人物相関図や、作品内で起きたことの時系列整理表などを見せられ、情熱のほどを思い知らされた。


「一般の読者を置いてけぼりにしないように気を付けます!」と豪語する剣崎さんを見て、ぼくは胸が痛んだ。


 人気俳優を前に僭越なことだが、盗作と知る前のぼくを見るようでもあったからだ。


 明日、ぼくは担当編集者として、楽屋で我那覇さんと顔を合わせることになるが、表向き知らんぷり作戦を続けるつもりだ。

 我那覇さんに、積極的に協力を伝えるつもりはない。

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