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シーン10 [????]家族

 ぼくのお父さんは小説家だ。


 びっくりするぐらい売れているみたいだけれど(本屋で平積みになってるのは見た)、エンジニアの仕事も続けていて、お母さんはそれにちょくちょく文句を言っている。


「出版社に都合よく扱われないためにも、別の収入源が必要なんだ」とお父さんは笑うけど、それなら投資するなり別のやり方があるんじゃないかと思う。


 r>gの式だってぼくはお父さんから教えてもらった。


 この式は投資のリターン(return)が、労働による成長(growth)を上回るというものだ。ピケティという学者が発表したこの式をぼくに教えながら、お父さんはこう言ったのだった。


「でも、この公式はあくまでマネーだけの話さ。こんなことはこどもが大きくなったり、成長することとはなんの関係もない。そばに居て見守り、一緒に遊ぶことより大切なことはない」


 だったら、投資で稼いで家に居ればいいじゃないか、とぼくは思う。


 お父さんは体がそんなに強くないのに、ちょくちょく無理な残業をしては、辛そうに会社に通っている。家でテレワークしている時も、夕飯までに仕事が終わったことなんてほとんどない。


「こうやって働く姿をこどもに見せることができるのはテレワークのよいところかもしれないね」なんて言ってたけど、ぼくはあんなに長く机に座ってるのは嫌だ。


 会社では小説家であることを隠してるらしいけど、テレビに出たし、カクテイシンコクもあるしバレるのは時間の問題かな、とか言ってた。


 お父さん、会社にバレたら仕事を辞めるつもりなのかな。


 そうなったら、もっと一緒に遊んだり、一緒に映画に行ってくれるだろうか。


 お父さんと映画に行くのは楽しい。


 帰りにバーガーショップでいつも感想を話すんだけど、お父さんの視点は独特すぎて、ついさっき見てきた映画が全然違う話に思えてくる。


 例えば前に見たヒーロー映画の話だけど、ヒーロー達がタイムマシンで過去に行こうとする時、「これは単なる思いつきなんだけど、これを使って時を遡り、ヒトラーが赤ん坊の頃にやってしまえば……」みたいな軽口を叩くヒーローがいた。そのアイディアは、真面目なヒーローに「残酷すぎる」なんてたしなめられてた。だけど、ぼくはそれ絶対やるべきじゃんって思って、しばらくスクリーンよりも自分の空想に入っちゃったんだ。そのまま妄想を続けてたら、たまたまお父さんと目があって、それからすぐに映画に集中し直したんだけど。


 その日、バーガーショップで話した時に

「あの時、なんでぼくの方を見てたの」って聞いたら「あの問い、きみならどう思うかなって思って」ってお父さんは言った。


 ぼくは残酷でもやるべきだって話をした。力があって、それを使わないことで悪いことが起きるってわかっていながらそれをしないのは……すごく嫌な気分だって。


 お父さんは黙って頷いて聞いてた。


 その後でお父さんが言ったことをぼくは今でもはっきりと覚えてる。


「うん。きみの意見はわかった。でも、どんな目的があっても、大人がこどもを殺すことはやっちゃいけないとわたしは思う。でもきみの言う通り見過ごすのも無責任だと思う。だからわたしなら、赤ん坊のヒトラーをこの時代に連れて来て、きみと一緒に育てる。ひどい人にならないように大切に育てる。それは誘拐になるけど、殺人よりはマシかなって。その場合、きみに兄弟が増えるけど、仲良くやれるかな。確かアドルフくんだから、我那覇アドルフくんになるな」

「そんなこと考えながらぼくを見てたの」

「実はそうなんだ。きみが新しい兄弟とうまくやっていけるだろうかって考えてた」


 発想がぶっ飛んでて、それでズルばっかりで、心配するところがズレてて、お父さんらしいなと思った。


「でもさ、いきなり兄弟増えたらお母さんは許してくれるかな」

「そこだよな。ご飯つくるのはお母さんだしな」


 お父さんは途方に暮れたような顔をする。しばらくすると名案が思いついたような顔でこう言った。


「案外、一人増えたことに気づかなかったりしないかな」

「気づくよ!」

「そうだよなぁ。苦労かけるよな」

「いいよ。もうその話は」

「え、ちょっとぐらい苦労してもいいよってこと?」

「どうでもいい」


 あの日は楽しかった。

 またお父さんと映画を見に行きたい。

 その日は料理の本を買って帰って、ぼくたち二人でお母さんに晩御飯を作った。

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