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国家観

外伝  それでも、手は温かい

作者: たまみつね
掲載日:2026/04/13

この作品は、生成AIを使用して作成しています。








この作品は、「婚約破棄を宣言した王子、国家レベルで止められる」の外伝、エリシアが、王妃となり、母となった視点の物語です。




本編を必ず先にお読みください。

 子どもたちは、よく笑う。


 朝の光の中でも、庭を駆け回るときも、夜の静けさの中でも。

 あの子たちは、よく笑う。

 それが、どれほど尊いことかを――私は知っている。


「母上!」

 高い声。


 振り返ると、長男がこちらへ駆けてくる。

 後ろには、弟妹たち。

 転びそうになりながら、それでも笑っている。


「見てください、これ!」

 差し出されたのは、歪な形の木彫り。


 剣、のつもりだろうか。

「よくできていますね」

 私は微笑み、受け取る。


 手のひらに乗るそれは、不揃いで、粗削りで。

 けれど。


(温かい)


 まだ乾ききっていない木の感触と、子どもの体温が混ざっている。


「父上にも見せるのです!」

「そうなさい」

 長男は満足げに頷き、再び走り出す。

 その背中を見送りながら、私はゆっくりと息を吐いた。


 あの子は、やがて王になる。

 そして。


(選ぶことを許されない)


 あの人と同じように。


 私は、視線を落とす。

 手の中の木彫り。

 不完全で、未熟で、だからこそ。

(まだ、自由だ)


「お母様」

 今度は、静かな声。

 長女が、いつの間にか隣に立っている。


「どうしたのですか?」

「……王になるとは、どういうことですか」


 唐突な問い。

 だが、その瞳は真剣だ。

 もう、気づき始めているのだろう。

 自分たちが、何の中にいるのかを。


 私は、すぐには答えなかった。

 ほんの少しだけ、考える。


 言葉の重さを。


 この子に渡すべき“順序”を。


「そうですね」

 ゆっくりと口を開く。

「王とは、“一人ではない存在”です」


 長女は、黙って聞いている。


「自分のためだけに生きることは、できません」


 一歩ずつ。

 確かめるように。


「時には、家族よりも。自分の気持ちよりも。国を優先する必要があります」

 その言葉に、わずかに影が落ちる。


 当然だ。

 それは、優しい話ではない。


「それは……つらいことですか」


 小さな声。

 私は、少しだけ微笑んだ。

「ええ」

 肯定する。


「つらいことも、多いでしょう」

 嘘はつかない。


 それが、最初に教えられたことだから。


「では、どうして……」


 言葉が続かない。

 問いの形にならない問い。


 私は、長女の頭に手を置く。

 ゆっくりと撫でる。

 柔らかな髪。

 温かな体温。


「それでも」

 静かに言う。

「その役目が、必要だからです」


 風が、庭を渡る。


 子どもたちの笑い声が、遠くで弾む。

「国とは、多くの人の生活そのものです」

 ゆっくりと続ける。


「その基盤が崩れれば、守られるべきものも、すべて失われます」


 長女は、じっとこちらを見ている。


 逃げずに。

 受け止めようとしている。


「だから」

 私は言う。

「それを支える者が必要なのです」


 それが、王族。

 それが、“装置”。


 あの時。

 私は、それを教えられた。

 最初に。

 そして、唯一。


(あなたが望むかどうかは関係ありません)


(その立場に立つ以上、そう在るしかないのです)


 あの言葉は、今も変わらない。


 そして。

 これからも、変わらない。


「……私も、ですか」

 長女の問い。


「ええ」

 私は頷く。


「あなたもです」




 沈黙。




 長女は、視線を落とす。

 考えている。

 受け止めている。


 その時間を、私は待つ。

 急がせない。

 逃がさない。



 やがて。

「……分かりました」


 小さく、しかし確かに。


 その言葉に。

 私は、ほんのわずかに息をついた。


(早い)

 けれど。

(この子は、この子なりに理解した)


 私は、もう一度その頭を撫でる。


 今度は、少しだけ優しく。

「ですが」

 言葉を続ける。


 長女が顔を上げる。


「それだけではありません」

「……え?」

 私は、微笑んだ。


「王であっても」

 静かに。


「人であることを、忘れてはいけません」

 あの人を思い出す。


 王でありながら、王ではなかった人。


 壊れかけたまま、座り続けている人。


 そして。

 その隣にいる、もう一人の女性。

(支える者も、また必要)


「つらい時は、つらいと言いなさい」

 長女の目を、まっすぐに見る。


「助けを求めることを、恥だと思ってはいけません」


 それは。

 私が、少しだけ付け加えたもの。


 王妃から教わったものに。

 自分の経験を、ほんの少しだけ重ねた。


「……はい」

 長女は、頷く。


 その表情は、まだ幼い。


 だが、その奥に。

 確かな芽がある。


 私は立ち上がる。

 庭の方へ歩く。


 子どもたちが、こちらに気づく。

 笑顔で手を振る。

 私は、手を振り返す。


 その手は。

 かつて、毒杯を持った手だ。


 そして今は。

 子どもたちの頭を撫でる手。


 同じ手だ。


(変わらない)


 覚悟も。

 役目も。

 それでも。


(温かい)

 私は、その温もりを確かめるように。


 もう一度、子どもたちの中へと歩み寄った。

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