外伝 それでも、手は温かい
この作品は、生成AIを使用して作成しています。
この作品は、「婚約破棄を宣言した王子、国家レベルで止められる」の外伝、エリシアが、王妃となり、母となった視点の物語です。
本編を必ず先にお読みください。
子どもたちは、よく笑う。
朝の光の中でも、庭を駆け回るときも、夜の静けさの中でも。
あの子たちは、よく笑う。
それが、どれほど尊いことかを――私は知っている。
「母上!」
高い声。
振り返ると、長男がこちらへ駆けてくる。
後ろには、弟妹たち。
転びそうになりながら、それでも笑っている。
「見てください、これ!」
差し出されたのは、歪な形の木彫り。
剣、のつもりだろうか。
「よくできていますね」
私は微笑み、受け取る。
手のひらに乗るそれは、不揃いで、粗削りで。
けれど。
(温かい)
まだ乾ききっていない木の感触と、子どもの体温が混ざっている。
「父上にも見せるのです!」
「そうなさい」
長男は満足げに頷き、再び走り出す。
その背中を見送りながら、私はゆっくりと息を吐いた。
あの子は、やがて王になる。
そして。
(選ぶことを許されない)
あの人と同じように。
私は、視線を落とす。
手の中の木彫り。
不完全で、未熟で、だからこそ。
(まだ、自由だ)
「お母様」
今度は、静かな声。
長女が、いつの間にか隣に立っている。
「どうしたのですか?」
「……王になるとは、どういうことですか」
唐突な問い。
だが、その瞳は真剣だ。
もう、気づき始めているのだろう。
自分たちが、何の中にいるのかを。
私は、すぐには答えなかった。
ほんの少しだけ、考える。
言葉の重さを。
この子に渡すべき“順序”を。
「そうですね」
ゆっくりと口を開く。
「王とは、“一人ではない存在”です」
長女は、黙って聞いている。
「自分のためだけに生きることは、できません」
一歩ずつ。
確かめるように。
「時には、家族よりも。自分の気持ちよりも。国を優先する必要があります」
その言葉に、わずかに影が落ちる。
当然だ。
それは、優しい話ではない。
「それは……つらいことですか」
小さな声。
私は、少しだけ微笑んだ。
「ええ」
肯定する。
「つらいことも、多いでしょう」
嘘はつかない。
それが、最初に教えられたことだから。
「では、どうして……」
言葉が続かない。
問いの形にならない問い。
私は、長女の頭に手を置く。
ゆっくりと撫でる。
柔らかな髪。
温かな体温。
「それでも」
静かに言う。
「その役目が、必要だからです」
風が、庭を渡る。
子どもたちの笑い声が、遠くで弾む。
「国とは、多くの人の生活そのものです」
ゆっくりと続ける。
「その基盤が崩れれば、守られるべきものも、すべて失われます」
長女は、じっとこちらを見ている。
逃げずに。
受け止めようとしている。
「だから」
私は言う。
「それを支える者が必要なのです」
それが、王族。
それが、“装置”。
あの時。
私は、それを教えられた。
最初に。
そして、唯一。
(あなたが望むかどうかは関係ありません)
(その立場に立つ以上、そう在るしかないのです)
あの言葉は、今も変わらない。
そして。
これからも、変わらない。
「……私も、ですか」
長女の問い。
「ええ」
私は頷く。
「あなたもです」
沈黙。
長女は、視線を落とす。
考えている。
受け止めている。
その時間を、私は待つ。
急がせない。
逃がさない。
やがて。
「……分かりました」
小さく、しかし確かに。
その言葉に。
私は、ほんのわずかに息をついた。
(早い)
けれど。
(この子は、この子なりに理解した)
私は、もう一度その頭を撫でる。
今度は、少しだけ優しく。
「ですが」
言葉を続ける。
長女が顔を上げる。
「それだけではありません」
「……え?」
私は、微笑んだ。
「王であっても」
静かに。
「人であることを、忘れてはいけません」
あの人を思い出す。
王でありながら、王ではなかった人。
壊れかけたまま、座り続けている人。
そして。
その隣にいる、もう一人の女性。
(支える者も、また必要)
「つらい時は、つらいと言いなさい」
長女の目を、まっすぐに見る。
「助けを求めることを、恥だと思ってはいけません」
それは。
私が、少しだけ付け加えたもの。
王妃から教わったものに。
自分の経験を、ほんの少しだけ重ねた。
「……はい」
長女は、頷く。
その表情は、まだ幼い。
だが、その奥に。
確かな芽がある。
私は立ち上がる。
庭の方へ歩く。
子どもたちが、こちらに気づく。
笑顔で手を振る。
私は、手を振り返す。
その手は。
かつて、毒杯を持った手だ。
そして今は。
子どもたちの頭を撫でる手。
同じ手だ。
(変わらない)
覚悟も。
役目も。
それでも。
(温かい)
私は、その温もりを確かめるように。
もう一度、子どもたちの中へと歩み寄った。




