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魔法学校を卒業したばかりの私、ひっそりと魔法道具屋を始めました

作者: 美波
掲載日:2026/01/19



開店初日、私の魔法道具屋は驚くほど静かだった。


棚も、看板も、準備は完璧。

足りないのは――お客だけ。


「……誰も、来ないなあ」


カウンターに頬杖をつき、私は店内を見回した。

棚に並んでいるのは、すべて私が作った魔法道具。指輪、腕輪、護符、小瓶。どれも実用性はあるけれど、見た目は地味で、素材も高級とは言えない。


魔法学校を卒業したばかりの私が開いた店なんて、そんなものだ。


時計を見ると、もう正午を回っていた。

通りの向こうでは、賑やかな商店の呼び声が聞こえる。私の店の前だけ、ぽっかりと空白みたいだ。


扉は一度も開いていない。


「やっぱり、無謀だったかな……」


冒険者になる勇気も、騎士団に入る実力もない。

だからせめて、得意なことで生きていこうと思っただけなのに。それがダメだったのかもしれない。


そのとき、店の扉が控えめに軋んだ。


「……あ」


入ってきたのは、若い男性だった。

軽装の冒険者。装備は一通り揃っているけれど、どこかちぐはぐだ。


「すみません。魔法道具屋、ですよね?」


「は、はい!そうです!」


声が裏返りそうになるのを必死で抑えた。

初めての客だ。


男性は棚を一通り眺め、首をかしげる。


「回復用の道具を探してて……でも、正直どれがいいのか分からなくて」


私は彼の立ち姿を観察した。

魔力の流れが不安定で、無意識に力を溜めすぎる癖がある。これだと、一般的な回復補助具は効率が悪い。


棚の端に置いてあった、細い銀色の指輪を手に取る。


「こちらは、どうですか?」


「え?それ、安いですよね?」


「はい。でも……たぶん、あなたには一番合いますよ!」

笑顔で答えた。


指輪には、魔力の流れを“緩める”魔法式を組み込んである。

派手さはないけれど、相性が合えば、効果は跳ね上がる。


男性は半信半疑の顔をしたまま、しばらく考え込み……指輪を購入していった。


「まあ、ダメ元で使ってみます」


扉が閉まる音を聞きながら、私は少しだけ不安になる。

もし効果がなかったら、最初の客にがっかりさせてしまう。


二日後。


再び扉が開き、あの男性が飛び込んできた。


「ちょっと、話いいですか!?」


「は、はい……?」


興奮した様子で、彼は指輪を掲げた。


「これ、なんなんですか!回復量、倍どころじゃなかったんですけど!?」


パーティのヒーラーが驚き、戦闘後の消耗も激減したらしい。

今まで苦戦していた依頼も、問題なくこなせた、と。


「どうして、俺に合うって分かったんですか!?」


真剣な目で問われて、私は少し困ってしまう。


「えっと……魔力の流れを見れば、分かりますよ?学校で習う範囲ですから」


実際には、そんな授業はなかったけれど。


男性はしばらく黙り込み、深く頭を下げた。


「また、お願いします!!」


彼が帰ったあと、店の外が少し騒がしいことに気づく。

ひそひそとした声。看板を見る視線。


どうやら、噂はもう動き始めているらしい。


「……明日も、ちゃんと開けよう」


私は棚の道具たちを見回し、小さく笑った。


魔法学校を卒業したばかりの私の店は、まだ静かだけど、確かに始まっていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
面白そうなお話なので、連載希望します。
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