魔法学校を卒業したばかりの私、ひっそりと魔法道具屋を始めました
開店初日、私の魔法道具屋は驚くほど静かだった。
棚も、看板も、準備は完璧。
足りないのは――お客だけ。
「……誰も、来ないなあ」
カウンターに頬杖をつき、私は店内を見回した。
棚に並んでいるのは、すべて私が作った魔法道具。指輪、腕輪、護符、小瓶。どれも実用性はあるけれど、見た目は地味で、素材も高級とは言えない。
魔法学校を卒業したばかりの私が開いた店なんて、そんなものだ。
時計を見ると、もう正午を回っていた。
通りの向こうでは、賑やかな商店の呼び声が聞こえる。私の店の前だけ、ぽっかりと空白みたいだ。
扉は一度も開いていない。
「やっぱり、無謀だったかな……」
冒険者になる勇気も、騎士団に入る実力もない。
だからせめて、得意なことで生きていこうと思っただけなのに。それがダメだったのかもしれない。
そのとき、店の扉が控えめに軋んだ。
「……あ」
入ってきたのは、若い男性だった。
軽装の冒険者。装備は一通り揃っているけれど、どこかちぐはぐだ。
「すみません。魔法道具屋、ですよね?」
「は、はい!そうです!」
声が裏返りそうになるのを必死で抑えた。
初めての客だ。
男性は棚を一通り眺め、首をかしげる。
「回復用の道具を探してて……でも、正直どれがいいのか分からなくて」
私は彼の立ち姿を観察した。
魔力の流れが不安定で、無意識に力を溜めすぎる癖がある。これだと、一般的な回復補助具は効率が悪い。
棚の端に置いてあった、細い銀色の指輪を手に取る。
「こちらは、どうですか?」
「え?それ、安いですよね?」
「はい。でも……たぶん、あなたには一番合いますよ!」
笑顔で答えた。
指輪には、魔力の流れを“緩める”魔法式を組み込んである。
派手さはないけれど、相性が合えば、効果は跳ね上がる。
男性は半信半疑の顔をしたまま、しばらく考え込み……指輪を購入していった。
「まあ、ダメ元で使ってみます」
扉が閉まる音を聞きながら、私は少しだけ不安になる。
もし効果がなかったら、最初の客にがっかりさせてしまう。
二日後。
再び扉が開き、あの男性が飛び込んできた。
「ちょっと、話いいですか!?」
「は、はい……?」
興奮した様子で、彼は指輪を掲げた。
「これ、なんなんですか!回復量、倍どころじゃなかったんですけど!?」
パーティのヒーラーが驚き、戦闘後の消耗も激減したらしい。
今まで苦戦していた依頼も、問題なくこなせた、と。
「どうして、俺に合うって分かったんですか!?」
真剣な目で問われて、私は少し困ってしまう。
「えっと……魔力の流れを見れば、分かりますよ?学校で習う範囲ですから」
実際には、そんな授業はなかったけれど。
男性はしばらく黙り込み、深く頭を下げた。
「また、お願いします!!」
彼が帰ったあと、店の外が少し騒がしいことに気づく。
ひそひそとした声。看板を見る視線。
どうやら、噂はもう動き始めているらしい。
「……明日も、ちゃんと開けよう」
私は棚の道具たちを見回し、小さく笑った。
魔法学校を卒業したばかりの私の店は、まだ静かだけど、確かに始まっていた。
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