第8話 〜翠界守護戦〜
戦争が起こるまで後残り数時間まで迫り、その場には緊張が走り空気はとても重くなっていた。
それは当然だ、これから始まるのは命の奪い合いなのだから。
負傷し血を流す者、脚を失う者、腕を失う者、視力を失う者、聴力を失う者、臓器を失う者、大切な人を失う者、戦争では必ず何かを失うものなのだ。
俺は何故か不思議と緊張感がない、実感が無いのかもしれない。
人との戦い、命の奪いなのに、俺の心はちゃんと人族のままであって欲しい。
「ルクス、何か悩んでる事ある?」
「ん?まぁ…俺さ、人と命の奪い合いってのをした事なくてさ」
「え?私と命の奪い合いした」
「あれは1対1だからどうにかなると思って、大勢を相手にするのは経験ないからどうしようってね」
そう話していると◇◇から緊急報告を聞かされた。
『ーー妖精族の棲家に5万名程の勢力が接近中、到着まで凡そ25分後になりますーー』
「リリア、25分後に此処に到着するみたいだ。俺は妖精女王にこの事を報告してくるから、いつでも戦闘態勢に入れるように準備してて」
「うん、わかった。この戦いが終わったら美味しい物食べさせて」
「わかったよ、約束するよ」
そう呟いてその場を走り去り、急いで妖精女王の元へ向かって行った。
あと、25分後に此処へ人族の勢力が迫ってくると報告を済ませ、妖精女王は幹部達に命令を下した後に玉座へゆっくりと腰を掛けた。
「そして、誰一人として死ぬんじゃないぞ、我が同志達よ!」
「「はっ!」」
妖精女王のその言葉は幹部達の心を奮い立たせ、気を引き締めて戦争への最終準備に取り掛かった。
妖精族達の作戦はこうだった。常に地形を活かした戦いをするそうで、俺とリリアは猪突猛進で行くつもりだ。
何故、猪突猛進で行くかはそれは何も考えないようにする為だ。
リリアは、少し手が震えていた。
初めて戦争というものを経験するのだ、当たり前だ。
暗殺者だからといって、命を奪う行為に恐怖を感じるはずだ、ましてや自分の命も懸かってるのだから。
「リリア大丈夫だよ、何かあれば俺が必ず守るから」
「ルクス…ありがとう」
『ーー我が主もう間もなく敵対勢力が到着しますーー』
するとそこへ妖精族が1人やって来た。
「ルクス様、リリア様、最前線へ向かって下さい!!」
俺はふとある考えが浮かんだ。
それは敵対勢力の活動拠点を潰せば司令官からの指示が無くなってしまえば、戦場状況を把握出来ない状態にもっていけば勝算があるだろうと。
「待て!敵対勢力の活動拠点って何処にあるか分かるか?場所が分かれば俺は活動拠点を潰す。敵対勢力を混乱状態にもっていけば勝算はあるはずだから」
「敵対勢力の活動拠点は、妖精の棲家から出て1km離れた先にあります」
「私はどうすればいい?」
「俺は敵対勢力の活動拠点を潰す、そこで怪我の治療とかするだろうし神聖魔法使いは1番潰しておきたい。リリアは最前線で一緒に戦ってくれ」
「わかった、頑張る」
俺は身体能力強化と紅血武装を発動させ背中から翼を出し最高速度で飛んで行き一瞬にしてその場を消え去った妖精の棲家を出て敵対勢力の活動拠点へ向かって行った。
向かって行く途中、紅血生成で短剣を創り出し刀身に影を纏わせ幾度も振り下ろし影裂を発動させて影の斬撃を飛ばし、多くの兵士を殺し少しでも敵対勢力を減らす為に躊躇う事なく命を次々と奪っていった。
敵対勢力の活動拠点に到着し、兵士の影に潜り様子をみていた。
(ここが活動拠点であってるよな?それにしても、数が多すぎるだろ。どんだけ妖精族達を潰したいんだよ)
『ーー数は凡そ2万名程です。妖精族が人族を蔑み甚振り奴隷等の行為を行い、それで人族は怒り戦争を起こし滅ぼそうとしているのでしょーー』
そう、王都等では奴隷制度は禁じられていない。寧ろ奴隷に成り下がる者は劣等種と蔑まれてしまう、特に獣人族の多くは奴隷であり劣等種のレッテルを貼られている。
人族は妖精族より戦闘力や身体能力等が劣り、それは妖精族には精霊使いが存在する為である。
その代わり人族は知識や知恵を駆使して戦う事が出来るが、妖精族は鎖国している為に古い知識や古い戦術しか知らない。
(人族も妖精族も自分達が一番優秀だと思ってるのか、馬鹿だな…ほんとに…)
『ーー我が主兵士達の位置を全て把握しました、「影血之王」と「影穿」を同時発動させ効果範囲を最大まで広げ一斉に仕留める事が可能ですが実行しますか?ーー』
(嗚呼、頼む。実行してくれ)
俺は影から出て敵対勢力の兵士の前に姿を現せた、地面に手を付いて影血之王と影穿を同時発動させ活動拠点に居た兵士達の身体を槍状の影が貫き一瞬で2万名の命を奪った。
(殺っちまった…一気を多くの命を奪ったが何も感じない…まぁ、前世にいた世界とは違うんだ。生きるか死ぬかの世界なんだから)
「さてと、神聖魔法使いの人は何処に居るかな〜?面倒だからあれ使って一気に捕食するか」
影血之王と血権を同時発動させ効果範囲をまた広げて、2万名の血液を空中に集めて大きな球体にしそれを圧縮して錠剤程度の粒にし飲み込んで血権継承を発動させ魔法やエクストラスキルを奪った
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ルクスが活動拠点を殲滅していた時、リリアは最前線で派手に戦っていた。
殺意遮断と命脈切断を同時発動させ攻撃は全て躱し、相手の背後から次々と致命傷を与えて数を減らしていたが…。
数十分後、リリアの体力は段々と奪われていった。こうなるのは当たり前だ、今まで経験した事ない戦場なのだから。
周りを警戒しつつ、目の前の敵を相手して攻撃等が来たら回避する。こんなことが何十分も続けば体力も精神もすり減ってしまう。
(私ダメ…もう疲れた…戦えない…)
少しだけ動きを止めた瞬間に、悪いタイミングで敵対勢力の兵士がリリアに狙いを定め剣を斜めに振り下ろした。
(あ…私死んじゃうんだ…こんな所で…折角楽しい旅が始まったばかりなのに…)
疲労のせいか身体が思うように動かなくなり、諦めた表情浮かべて瞼をゆっくり閉じた。
その瞬間、ルクスが短剣で振り下ろされた剣を受け流し相手の首を切り落とした。
「大丈夫か、リリア」
「ルクス、ありがとう…」
「んじゃ、一気に勝負付けさせてもらうか」
常世ノ帳発動させ自分を中心に周囲を影で覆い囲う結界を創り出し、自信の血液を融合させ更に強力な結界となった。
敵対勢力の兵士達の混乱と騒めく声が聞こえ俺は不敵な笑みを浮かべた、新たな固有スキルを「死滅之神」を発動させ残り3万名の兵士達には安らかな死を与え魂は抜けていき俺の元へ集まり全て影で飲み込んだ。
「ルクス、さっきのスキルなに!?」
「魂2万人分との交換で新スキル「死滅之神」を手に入れたんだ、死を司る神相手に安らかな死を与えるんだ」
「チート級のスキルだね、こんなあっさり勝っちゃうなんて…」
「まぁいいじゃん、無事に終わったんだし。さてと、妖精の棲家に戻ろ。魂は3万人分集まったし、これで種族進化ができるはず」
「ルクスが強くなるの楽しみ、私も強くなりたいな」
「んー、何か共有出来る方法があれば良いんだけど」
戦争を終え勝者は妖精族、戦争で亡くなった犠牲者達は凡そ2万人程だった。
最小限に抑えられて良かったと妖精女王は言ってたけど、良かったと言えるのだろうか。
覚悟はしていたつもりだったが、俺には覚悟が足りなかったみたいだ。
犠牲者が出るくらいわかってたのに、なのに…俺は凄く心が沈んでいく感覚に堕ちた。
俺とリリアは妖精女王に多大なる貢献をしたという事で表彰式をされて、友好関係を結ぶ事にした。
その判断が正しいと思った、「死滅之神」を発動し使用した姿を妖精族達は見ていたのだから。
妖精族達は、俺を恐ろしく強力な敵となるとそう判断したのだろ。
俺はついでにある事を聞く事にした、異世界と言えば名付け等で強さが変動する事を思い出した。
「妖精女王、名付けで強さって変わったりしますか?」
「もちろんじゃ、名前を上書きする事も可能じゃが…ルクス、お主は下手に名付け等せんほうがよい」
「え?それはどういう意味ですか?」
「お主の魔力量は膨大じゃ、例えるならば、既にもっとも最強とされてる竜族と同等じゃ」
「じゃあ俺は種族進化をしたら、更に強くなれるってことか」
「お主、まさか「魔王種」になろうと考えているのか?」
「魔王種?な、なんですか?それは」
妖精女王から魔王種の事を聞くとこうだった。
魔王種とは種族進化を最終進化まで終え、同じ魔王種への進化を獲得した相手を倒しその魂を喰らう事が条件みたいだ。
そして、もう一つ条件があるみたいだ。
それはアルティメットスキルを所持している者を殺し魂を喰らう事が条件みたいだ。
妖精女王から話を聞き終えた俺達は宿屋へと戻りベッドに腰を掛けた。
「アルティメットスキルってなんだ?俺ってそんなの持ってたっけ?」
『ーー我が主は既に2つのアルティメットスキル「影血之王」「死滅之神」を所持しています、なので魔王種への進化の餌食になってしまいますーー』
「おい!そんな怖い事言うなよ!!お前は俺の味方だろうがよ!!」
俺は戦争というものを初めて経験し、精神がすり減って体力も奪われた事により、睡魔が襲ってきた。
俺はゆっくりと瞼を閉じて、ベッドへ身を預けた。
「ふふ、ルクスの寝顔可愛い…」
「ルクス、おやすみ」
リリアはそう呟いてルクスの頬に口付けをし、同じベッドへ入り込んで眠りについたのだった。




