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異世界、ダメ、絶対!!もう誰も異世界には行かせません!!  作者: イタノリ
揺籃編

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小林とエステルの茶会

 気づけば、時間はまもなくおやつの時間になりそうだ。会合も終え、咲いた世間話の花も枯れようという頃合いだ。銀は長居をしたなと、帰り支度を始めている。


 俺も帰り支度をしようと席を立とうとしたら、銀から思いがけない言葉を掛けられた。


「おい、小林。お前はまだここにいろ」


 は?なんだって?


 銀は聞こえなかったのかと言い、もう一度俺に声をかけた。


「お前は残れ。エステルがお前に用があるそうだ」


 ドクンと心臓が跳ねた気がした。上気するのを感じた。ムロさんや他の面々に気取られないよう努力するが、どうやらあっという間に顔が赤くなっていたらしい。クロに笑われてしまった。


「・・・エステルが俺に、用事ってなんだよ」


 当のエステルはまだテーブルで優雅にお茶を飲んでいるのだから直接聞けばいいのだが、なんだか気恥ずかしくて銀に問いただしてしまった。


「お前、忘れたのか?エステルにデートを申し込んでいただろうが」


「えっ?あぁ・・・。あああぁぁぁぁ!?」


 思い出した。前回の戦闘が始まる前、不本意な形で俺はエステルにデートを申し込んでいたのだ。だが、まさか、たかが一兵卒の俺が異世界ラークスの超VIPのエステルとデートなどできるわけがない。


 あれは、作戦前の緊張を緩めるに場を和まそうと進んでピエロを演じただけだ。まさか、デートを受けてくれるなんて、思ってもいなかった。


 いや、正直に本音を言えば、確かに俺はエステルに一目惚れしているし、こうしてわずかでも一緒の空間にいられただけでも嬉しいのは間違いない。


「小林よ、こんな時にすまないな。私も多忙な身の上であれば、こうした時にでもないと時間が作れなくてな。もし都合が悪ければ改めて・・・」


「とんでもない!!」


 突然の大声に、皆がビクッとする。このチャンスを逃すまいと思わず声を張り上げてしまった。みんなの視線が痛い。呼吸を落ち着かせてから慇懃に答える。


「・・・不束者ですが、よろしくお願いします」


「よし、決まったな。それでは俺達は失礼する。エステル、またな」


 そう言うと、銀達はそそくさと帰ってしまった。クロは相変わらず笑いを堪えているし、ムロさんも、ポンと俺の肩を叩き、なんともにこやかな顔を俺に向け、銀達と帰ってしまった。


 ジーナやエステルの弟子たちもそそくさと奥の台所に隠れてしまったが、どうやら帰るわけではないらしい。警戒の視線を感じる。


「すまない、要らぬおせっかいだと言ったのだが、あの子たちはお茶の支度だけでも手伝わせてくれと聞かないんだ」


 そりゃ、心配にならない方がおかしいだろう。敬愛する師匠と馬の骨代表みたいな俺と二人っきりにするのは受け入れ難いことだろう。彼女達は悪くない。悪いとしたら、立場を弁えずに冗談を隠れ蓑に願望を口にしてしまった俺だ。


「まぁ、そりゃあ心配でしょうね。俺は構いません」


「すまない。そう言ってもらえると助かる。ありがとう」


「そうですか、そりゃよかった。ははははは・・・」


 なんともぎこちない会話だ。もっと自然体に話したいところだが、本気で惚れた女を前にして落ち着いて話せる男などいるものか。いや、中にはそうした恋愛の猛者がいるのかもしれないが、俺はこちらの方面では素人も同然だ。畜生め!


「それにしても、ほんとに時間を作って頂きありがとうございます」


 俺は慇懃に礼を言い、頭を下げる。


 そもそも、エステルは上官だ。その上官が部下に対しこうして時間を割いてくれたのだから、これは最低限の礼儀だろう。しかし、会釈したエステルは、どこか寂しそうな目で俺を見ていた。


「・・・小林。一つお願いがあるのだが、聞いてくれるか?」


「はっ、ハイ!俺にできる事なら、なんでも!」


 今まで見たことの無いエステルの反応に、不安で心臓が激しく鼓動する。だが、エステルの口から出た言葉は、俺の予想を完全に裏切った。


「こうして、二人で会話するときは、敬語はやめにしてくれ」


「はっ、承知しました!・・・って、え?」


「私は敬語それ自体を悪く思っていない。むしろ、君たち民族の素晴らしい文化と風習と考えている。しかし、ラークス語は、中核世界の英語に似た言語体系で、有体に言えばフランクに会話するのが基本だ。それに、これは仮にもデートなのだろう?。男女が敬語で話すのも、なんだか味気がない。そうは思わないか?」


「はぁ・・・。その、エステルさんがよければ、構いませんが・・・」


「ありがとう」


 突然の申し出に俺は混乱した。まさか、エステルからこんなお願いをされるとは。まさか、エステル、俺に気があるのか?!理性ではそんなことがないと思考するが、俺の心はときめいてしまっている。こんなことを言われて勘違いするなって方が無理な話だ。


 脳内に花が咲き乱れている間に、セシリアはお茶やお菓子をテーブルに用意し、一礼して速やかに去っていった。もちろん、去り際にセシリアは俺を一瞥し、妙な考えは起こすなよと、視線で訴えていた。


 長い官舎暮らしもあって、俺は万年欲求不満の性欲お化けと化している。しかしながら、歴史的な大不況にあっては公務員である軍人でさえ貧しく、やれ風俗だのキャバクラだの楽しむお金は無い。ハルモニアに所属してからは金で困ることは無くなったが、どれだけ性欲があってもそういうお店に行くことはできなかった。というか、行く度胸がなかった。


 そもそも、俺はどうにもそうした類のものが苦手で、剣術の稽古に明け暮れ欲求を誤魔化している。そんな俺を同僚達は変人扱いしてきたが、俺はやっぱりスケベなことは好きな人としたいのだ。これは譲れない。

 そして、それは勿論、相手の同意があってこそ。つまりは、普通に恋愛した上でスケベしたいのだ。妙なことをするのは、成就したずっと先だ。


 それに、この場であっても、俺はエステルを違った視点から見てしまっている。一見して、エステルは魔法使いで肉弾戦に不向きのように見えるが、俺は騙されないぞ。エステルは白兵戦でも強い。なぜそんな事が分かるかというと、それは長年実戦を経験し培われた勘としか言いようがない。身に纏うオーラとでもいえばいいのか、おそらく、魔法使いとはいえ戦闘における不利を克服している、そんな気がする。


「冷めないうちに、どうぞ。これは私のお気に入りのラークスの茶葉だ。口にあえばいいが」


「いただきます。・・・おぉ、これは確かに美味しいです!」


「敬語」


「あっと、その・・・。おいしい、よ」


「よかった」


 はじめて、緩んだエステルの表情を見た気がした。エステルはいつもにこやかだけど、どこか取り繕っているような不自然さも感じていた。こうして緩んだ表情を見ると、こちらもなんだかホッとする。


 それはいいとして、いざゆっくりと対面で話すとなると、何を話せばいいのかわからない。ひとまずは銀やムロさん達との日常の出来事について俺なりに面白おかしく話してみると、思った以上に話に花が咲いた。


 気づけば、俺とエステルは友達のように気楽に話せるようになっていた。なんだろう、こうやって気兼ねなく話すだけでエステルが随分身近な存在に感じてくる。


 しかし、どうしてもエステルに聞いておきたいことがあった。それは、このデートの誘いを受けた理由だ。 


「あのさ、エステル。どうしても、気になるんだけど、なんで俺の誘いを受けてくれたんだ?もちろん、こうして誘いを受けてくれたのは本当に嬉しいし、その・・・できたらまたお誘いしたいんだけどさ・・・」


「ラークス人は、魂を観ることができる。聞いたことはないか?」


「魂を観る?あぁ、銀もそんなこと言ってたなぁ。ラークス人はみんな魂を観れるって」


「その通りだ。魂は、まるで小さな太陽のように光り輝いていながらも、その光は眩しさではなく、温もりを感じさせる。光の色も魂によって色とりどりで、まるで夜空の星の様に美しい」


「ほ~。そんな感じなんだな」


「光の強さ、色合い、何より、温もり。こうした魂の特徴を観れば、その者の人格すら分かってしまうほど、魂というものはその人物を雄弁に物語るってくれる」


「へ~。それは便利だな。それならさ、俺の魂はどんなもんなの?」


「子供のように無邪気で純真。その辺の原っぱを走り回っている子供のようだ」


「おっと。俺は子供だったわけか」


「可愛いじゃないか」


「かわ・・・、いや、なんかその言い方は恥ずかしい・・・」


 エステルは声に出して笑い出した。なんだ、こんな女の子みたいな笑い方もできたんだ。かわいい。


「同僚のラークス人達も、俺をそんな感じに観ていたのかなぁ」


「ラークス人とはいえ、皆が皆、魂を的確に観れるわけではない。観る者の魂の格によって見え方は随分と違ってくる。大抵のラークス人は魂の光を感じることができるだけだ。ここまで観えるのは、銀のように特別に鍛えられている者だけだよ」


「そっか~」


「小林、礼を言う」


「へっ?突然どうした?」


「・・・しばらく仕事が立て込んでいてな。こうしてホッとする時間を持つことも忘れてしまっていたことに気がついた」


「まぁ、そうだよな。エステルは俺たちよりはるかに忙しいだろうに」


「今度は、私からも誘っていいか?また一緒にお茶を楽しもう」


「是非とも!」


 思わず声を張り上げてしまった。エステルがちょっとびっくりしてしまっている。


「はは、元気がいいな。ありがとう・・・次回も楽しみにしているよ」


 この言葉、笑顔に俺はどれだけ舞い上がったことか。頭の中ではエステルの笑顔とありがとうのセリフがリフレインしっぱなしだ。あまりににやけていたのか、帰り道を案内してくれたカティやセシリアからは人間が見せていい表情じゃない、きもいと嗜めらた。だが、そんな言葉も右から左へ抜けていくほど、俺の頭の中は、花畑でいっぱいだ。

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