表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界、ダメ、絶対!!もう誰も異世界には行かせません!!  作者: イタノリ
揺籃編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/43

ベイルの魔法使い

 テキパキとセシリアとカティはプロジェクターを用意し、手元にあるパソコンにロムを入れ、ほどなくして壁面に映像が映し出された。映像に移っているのは、医務室の様な部屋だ。ベッドが一台置かれ、そこには誰かが寝ている姿が見える。


「ご覧ください。今映っている眠り姫、こと敵性異世界の捕虜第一号、ベイルの魔法使いです」


 皆映像をじっと見つめている。映像には、戦場で出会ったあの魔法使いの少女がベッドの上で眠っている映像が映し出されている。


「これまでのベイルとの戦闘において、ベイル兵を捕虜にすることはできませんでした。理由は、皆さんご存じのように、戦闘の決着と同時にベイルへの撤退に失敗した兵は自決するか自殺攻撃を行うかのいずれかで、必ず死亡していたからです。ところが、今回は異例の出来事が起きました。原因は不明ですが、室田さんのお陰でベイル兵の自決を防ぐことに成功し、捕虜の獲得に成功したのです。これから御覧に入れる映像は、エステルによるベイル人との初の接触の様子です。映像は捕虜の体力回復の為にかけた鎮静魔法を解くところから始まります。それでは、どうぞ」


 ジーナはそう言うと、映像を流し始めた。


 エステルが単独で少女が眠っている部屋へと入っていく様子が映っている。エステルは、少女に近づき、指輪のような物を少女に指にはめている。


 指輪をはめ終えると、少女に手を翳し、少女にかけられたという鎮静魔法を解いているようだ。少女の体がぼんやりと白く発光している。光が消えると魔法が解けたらしく、少女はゆっくりと目を開き、意識を取り戻した。


 ぼんやりとした目つきも束の間、カッと目を見開き、飛び起き周囲を見渡す。すぐにエステルに気づくが、その表情は恐怖でみるみる歪んでいく。


 少女はベッドの上で後ずさりをするが、体がうまく動かないらしい、必死で体をズリズリと動かし、エステルから距離を取ろうと必死の様子だ。


「落ち着きなさい。君の安全は保障されている。警戒するなというのも難しいとは思うが、ひとまず、私と少し話をしてもらえないかな?」


 エステルは優しく少女に語りかける。エステルの言葉に対し、少女はハッとした目をしている。しばし、エステルを見つめ、おずおずとしゃべり始めた。


「あなたは、何者ですか?それに、ここはどこですか?言葉も通じるなんて、一体何をしたの?」


「一つずつ説明しよう。私は君たちが戦った敵の関係者だ。君と話がしたくてここに来た。そしてここは、医務室だ。体を癒す場所だね。言葉はその指輪のおかげさ。言葉を理解できる魔法の道具だ」


 エステルは翻訳の魔道具の説明を少女にしている。少女はとても興味深そうに指輪を見つめながら、エステルの説明を聞いている。


「こんな魔道具、私は見たことがありません・・・。この世界の道具、なんですよね?」


「この指輪は、私の世界でも希少なものだ。なんせ、私の手作りだから、そう多くはない」


 少女は、目を光らせエステルを見つめている。


「こんな素晴らしい魔道具をあなたが・・・。その・・・あなたは高名な魔法使いの方なのでしょうか。その耳も、人間ではないようですが」


「見ての通り、しがないエルフさ」


 エステルは髪をかき上げ、長く尖った耳を少女に見せる。その瞬間の映像を俺の隣で見ている小林君が、テーブルの下で拳を握りしめ、小さくガッツポーズをしていたが、みなかったことにしよう。


「でも、なぜエルフのあなたがこんな魔界にいるんですか?それに、この部屋・・・こんなに清潔だなんて。聞いていた話と違う・・・」


「ふむ。ベイルではこの世界の事を魔界と呼んでいるのかい?」


「・・・はい。でも、聞いていた話と違います。魔界の人間は女神様を封印し、世界を汚す悪しき者共と、我々は教えられました。でも、あなたからは邪な魔力を感じない。どこまで清廉で高潔・・・こんな魔力は私は感じたことがありません」


「女神、か。すまんが、この世界に女神は存在しない。他にも異世界はあるが、誤認している、ということ可能性は考えられないかな?」


「そんなことはありません。確かに、我々は聞いたのです。女神様が助けを求める声を。だからこそ、ベイルは出兵を決意したのですから」


 興奮した少女に眩暈が起きたのか、急に頭を抑え、うなだれる。エステルはさっと、体を支え、回復魔法をかける。

 

「色々と事情があることは分かった。だが、まだ体が回復しきっていなようだ。あまり無理はさせたくないが、せめて君の名前を聞いてもいいかな?」


「私は、リタといいます」


「ありがとう、リタ。随分と若いようだが、年齢を聞いてもいいかな?」


「今年で、16になります」


「そうか。その年であれだけの魔法を操るとは、大したものだ」


「いえ、そんなことは・・・。あれは、魔石のせいで・・・」


 突然、少女は我に返ったかのように一瞬、沈黙する。


「そうだ、私・・・魔石のせいで・・・」


 少女は、僅かに震えながら、己の胸元へと視線を送る。服の襟を引き、胸元を確認した少女はぼろぼろと涙を流し始めた。


「胸にあった魔石が無くなってる・・・。これは、一体どういうことですか?」


 少女は、すすり泣きながらエステルに尋ねる。


「君の胸元に埋め込まれていた魔石は、私の仲間によって破壊された。戦闘で負傷した君を治療するにあたり、君の体に埋め込まれていた魔石のかけらも、すべて除去した。何か問題があったのなら、悪いことをした」


「そんな、とんでもない・・・。ありがとうございます・・・ありがとうございます・・・!」


 エステルが説明を言い終わるや否や、少女はエステルの手を取り、すがりつき感謝している。よほど魔石が無くなったことが嬉しいようだ。


 エステルはむせび泣く少女が泣き止むまで、そっと体を抱き寄せ背中をさする。その姿はさながら聖母のようで、そんなエステルを見ている小林君の顔が綻んでいたが、見なかったことにしよう。


 少女が泣き止んだところで、エステルは魔石について尋ねはじめた。


「あの魔石、私は破壊された後の物しか観ていないが、強大な魔力の残滓を感じた。同時に、禍々しさも・・・。あの魔石は、一体何だ?」


「あれは、ベイル軍に入る時に軍から渡されたものです。潜在能力を引き出すことができる魔石と聞いていましたが、まさか、あんな恐ろしいものだったなんて・・・」


「それはどういう事だ?」


「あれは、魔石の主に隷属させるための道具でしかなかったんです!魔石は一度でも身に着けると、体を蝕み人の意識に入り込んでいきます。時が経ては、最後には自我さえなくなってしまう恐ろしい道具だったんです」


「その魔石の主とは、いったい何者だ?」


「ベイル救世のドラゴンです。でも、なんであの方がこんなことを・・・」


 突然、少女は胸を押さえ、苦悶する。まだ体調は万全ではないようだ。エステルに介抱され、ベッドに寝かしつけられる。


 映像はそこで一旦止まった。


「これが、ベイル魔法使いの少女リタとのファーストコンタクトの記録です。ご覧のように、まだまだリタの容体は万全とは言えず、療養しながら少しずつ聞き取り調査を進めているところです。現時点で判明したベイルの情報は極秘情報として取り扱われていますが、まぁ、このメンツなら言っても問題ないので要約した調査結果を今から私が口頭で説明します」


 ずいぶんと極秘情報の扱いが緩くて心配になるが、大丈夫なのだろうか。エステルや銀はラークス屈指の権威を持ち、ハルモニアでも特別の地位にいるが俺や小林君は一兵卒に過ぎないのだが。そんな心配をよそに、ジーナはまるで世間話でもするように説明を始めた。


「まず、ベイルという異世界についてですが、中核世界における中世ヨーロッパに似た文化を持ち、文明レベルもそれに近しくあります。例によって、魔法やモンスターなどのいわゆるファンタジーの存在も確認されており、典型的な異世界であるというわけです。しかし、問題は救世のドラゴンなる存在でしょう」


 ジーナはプロジェクターに新たに画像を映し出す。映し出された画像はドラゴンのイラストが描かれている。ファンタジーを題材にしたゲームやアニメなどでよく見る、ありふれた姿のドラゴンだ。


「これはリタの話から作成したドラゴンのイラストです。このドラゴンは救世のドラゴンと呼ばれ、疫病、飢饉、戦乱などなど混迷を極めていた時代のベイルに突如として出現したそうです。ベイル軍は赤いドラゴンを旗印にしていましたが、このドラゴンが由来なのでしょうね。ドラゴンはその比類なき力や聡明な知恵をもってベイルの混乱を収め、秩序と安寧を取り戻し苦難にあえぐベイルの民を救い、救世主として祀られる存在となり、現在ではベイルを統治する国家連合組織の盟主として君臨しています」


 画像が切り替わる。今度は、随分と男前な男性が描かれているイラストが映し出された。


「ちなみに、このドラゴンは人間の姿に変わることもできるそうで、人相はこんな感じらしいです。まぁまぁ、男前って感じですかね。ともかく、このドラゴンが中核世界への軍事進攻を指揮しており、件の魔石もドラゴンがベイル軍に下賜した物ということらしいです。精強なベイル軍の秘密は、このドラゴンがもたらした魔石によるものだったわけです。技術班の解析により、ベイル軍兵士の自決や自爆攻撃もこの魔石によるものということが分かりました。敗北と認められる状況に装備した者が陥ると、自爆するように予め魔法が込められていたというわけです」


 なんともおぞましい話だ。自分の世界の人間を物同然に扱うとは、非人道的にもほどがある。いや、この場合ドラゴンが首謀しているのであれば、人間をだいぶ軽く見ていることになるが、ベイル人はそれを許しているということなのか。


「それにしても、魔石の出所が気になるところだな。一兵卒に至るまで希少な魔石を装備しているのなら、一体どこから魔石を手に入れているのか」


「おっしゃる通り、問題はそこなんですよね~」


 ジーナは銀の問いに溜息交じりに応える。


「魔石それ自体は多くの異世界に存在します。勿論、ラークスにも存在しています。多くは天然の鉱石が長い時間をかけ魔力を溜め込んだ物になるので、銀舎利の言う通り希少な品であるわけですが、ベイルは全ての兵士に魔石を装備させています。あれだけの魔力量の魔石となると、希少どころの騒ぎではないはずなんです。想像を超える魔石の鉱床でもあるんでしょうかね。ともかく、正確な出所はリタも知らないそうですし」


 頭をポリポリとかいているジーナの横で、今度はエステルから更なる説明が加えられる。


「現状、我々が知り得る情報は限りがある。今後更なる情報がリタからもたらされる可能性もあるが、彼女はあくまで一兵卒にすぎない。我々が渇望するより詳細なベイルの情報が得られるかは分からないが、それでもこれだけの情報を得られたのは、僥倖としか言いようがない」


「それは、そうだな」


「だが、リタの情報を総合すると、ベイル軍は人材や物資が払底し、訓練兵や未熟な魔法使いを魔石で強化し戦場に無理やり投入している様子らしいことは分かる。それが分かっただけでも、今後の戦略に活かせる」


「それが本当ならば、ベイルとの戦いも終わりが見えるというものだ。リタの回復を待ち、続報に期待するとしよう」


 報告が一段落したところで、俺達はセシリアとカティが淹れ直したお茶を喉へと運ぶ。なんとなくだが、ベイルの様子が分かったはいいが、未熟な兵士を投入せざるを得ないとは、そこまでしてこの世界に戦争をふっかける理由は一体なぜなのか。それに、女神なんて・・・。そんな存在がこの世界にいるとは思えない。そんなことをお茶を啜りながらぼんやりと思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ