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異世界、ダメ、絶対!!もう誰も異世界には行かせません!!  作者: イタノリ
揺籃編

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エルフのエステル

 俺達が案内された場所は森を抜けた先にあった。


 開けた空間。そこには、いかにもな北欧風の建物がぽつんとあった。まるで童話の挿絵がそのまま現実に出てきたようだ。


 その建物の前に、切り株に腰を下ろし、たき火をしながらお茶を啜っている人物がいた。フードを被り、ローブを纏った姿からは性別も年齢も分からない。


「あなた方には、今からあそこにいる人物とお茶をしてもらいます」


「なんですと?」


「彼女は政府に協力を申し出た友好的な異世界人です。ハルモニア創設に関わった主要メンバーでもあります。ちなみに、あなた方を治療したのもあの人です。お礼ぐらい言っても罰は当たらないと思いますよ」


 嫌な言い方をする。ともかく、礼をするのはやぶさかではない。市村に促され、その人物の元へと歩いていく。


 俺達に気づいたその人物は、ゆっくりと立ち上がり、両手を広げながら何か聞き慣れない言葉を一言呟くと、静かにフードを脱いだ。


 その姿に俺は驚愕した。


 淡い緑色をした美しく長い髪、長く尖った耳、そして目が覚めるような美女。隣の巴ちゃんも思わず、綺麗と呟くほどだ。ゲームやアニメで見る様なエルフの見た目だ。


「はじめまして。私はエステル。君達に出会えた事を祖霊に感謝しよう」


 手を差し出し俺達に握手を求めてきた。俺と巴ちゃんはそれぞれこのエルフと握手をし、促され切り株へと座る。


「ゴホン。えーとですね、エステルはエルフという人間とは違う種族の方です。魔法や弓術に優れ、知能も非情に高いことから、異世界では賢者と讃えられる種族のお方です」


 エステルは微笑み返すが、その柔らかい動きの一つ一つに品と高貴さを感じさせる。


 こんな美人は産まれてこのかたお目にかかった事も無い。それに、相手はエルフだ。空想の世界の住人がこうして目の前にいて、俺に握手を求めた。ファンタジーが現実に現れるというのは、なんとも不思議な体験だ。


 緊張する俺達を、エステルと名乗るエルフは、なおも優しく微笑みかける。


「まずは君達を労わせてくれ。昨晩は大変だったな。私は現場にはいなかったが、報告を受けているよ。無事で良かった。昨晩現れたポータルは厄介な異世界のものだったからね」


「そうだったんですか。俺にはまだ異世界はゴールデンキングダムぐらいしか知らなくて。エステルさんは、ゴールデンキングダムの方でしょうか?」


 異世界は複数あるというのは承知しているが、アレクの配信でもゴールデンキングダム以外の情報は転移者の簡単な情報ぐらいしか配信されていなかったはずだ。エステルさんは果たしてどんな異世界の住人なのだろうか。


「いや、私はゴールデンキングダムの者ではない。ラークスという別の異世界の者だ。魔法が発達した世界で、人間の他、エルフ、ドワーフ、亜人、魔族の五族が平和に暮らす豊かで幸福に満ちた世界だ。君たちとの世界とは、仲良くやれていると思っている。まぁ、とにかく座りなさい。ハルモニアについての説明は聞いたようだから、今度は私から、ポータルや異世界について説明しよう。と、その前に・・・」


 エステルは俺に向き直る。


「すまんが、二人とも手を出してくれないか」


 俺はなぜ突然そんな事を言われるのか不思議だったが、言われるがままエステルに手を差し出す。


 エステルは優しく俺の手を持ち、何かをじっと見ている。


「あの・・・エステルさん・・・?」


 美人に手を握られ、嬉しさと恥ずかしさが入り交じり何ともいえない気分だ。


「やはりか、これは興味深い・・・」


 続けて、巴ちゃんの手を取り、じっと見る。


「これほどの僥倖があろうとは・・・」


 エステルは僅かに微笑んでいる。何か悪巧みをしている様にもみえる笑みだが、その美貌で悪意があったとしても掻き消えてしまいそうだ。


「通常であれば、触れれば一瞬で消し炭になるポータルの縁を触っても無事であること。それどころか、ポータルを力ずくで閉じてしまった事。まだ確信には至らないが、お前達のこの能力。我が世界でも存在しない未知の能力に思える、僅かだが、魔法のような力の残滓を感じるよ」


 ちょっと待て。未知の能力?俺たちはただの人間だぞ。そんな能力あるわけがない。それに、とても物騒な単語が聞こえた気がするが大丈夫か。


「あの、エステルさん。消し炭ってどういう事ですか?」


 巴ちゃんも、青ざめた表情で聞き耳を立てている。俺も、巴ちゃんも何気なくポータルの縁を触っていたが、まさかとても危険な事をしていたのだろうか。


 エステルは、微笑をたたえている。


「簡単に説明すると、ポータルは異なる世界同士を繋ぐ穴だが、これは強引に二つの世界を繋げ、かつ無理矢理穴をこじ開けるという極めて力ずくの魔法でな。人が通れるだけのポータルを開くだけでも、途方も知れない魔力が必要となる。そのエネルギーたるや核兵器どころでは追いつかないだろうな。それほどのエネルギーを凝縮した物がポータルの縁だ」


 絶句だ。まさかそれほどの危険物を俺達は触っていたのか。


「なんで、そんな物騒な能力を俺達が持っているんですか。現代人の俺達に能力が使えるって意味が分かりませんよ」


「確かに、突然こんな能力が身に付けば驚きもするだろう。だが、中核世界・・・君たちの世界をハルモニアはそう呼ぶが、この世界にも魔法や超能力といった概念はあるだろう?私の研究テーマの一つだが、中核世界の人々にも魔法のような不可思議な能力を操る力は持っていると考えているよ。ともかく、この能力、ハルモニアにとって貴重な戦力になり得る能力だ。是非とも仲間に迎えたいものだ。くれぐれも言っておきたいのだが、我々にお前達を害するつもりはない。ただ協力をお願いしたいだけなのだ」


 エステルは市村と共にお茶の支度をし、俺達に振る舞った。とてもお洒落なティーカップのセットだ。カップには紅い線で模様が刻まれ、僅かに煌めいているが、そこからほのかに暖かさを感じる。


「驚いたか?それも魔法の応用だ。炎の魔法をカップに付与する事で、お茶が冷めない様にしている。便利だろ?」


 おおぉ、と声にもならないうめき声を挙げてしまう。なんと便利なことか、魔法とは。どうやら中身は紅茶のようだが、紅茶を飲むこと自体がとても久しぶりだ。世の中、貧困が進み紅茶なんて贅沢品扱いになってしまっている世の中だ。久しぶりに味わう紅茶は芳醇で、香しい。


「では、改めて自己紹介をするとしよう。私の名はエステル。異世界ラークスの住人で、種族はエルフだ。中核世界とはアレク凱旋事件後に友好条約を結んだ唯一の異世界だ」


 恭しく頭を垂れ、エステルは織り目正しく丁寧に挨拶をしてくれた。


「室田軍司です。元トラック運転手です」


「三次巴です。元事務員です。あの、ちょっと質問いいでしょうか?なんで私たちの世界は中核世界って呼ばれているのでしょうか」


「いい質問だ。多くの異世界はポータルを開閉する魔法を持つが、それはあくまで君たちの世界とだけであって、異世界から異世界へポータルを直接開くことはなぜかできないんだ。異世界から異世界へ渡ろうとするのなら、必ず君たちの世界を経由しなければいけない。それゆえ、君たちの世界は中核世界と呼ばれている。例外はあるがな。アレクのような一部の転生者や転移者は異世界から異世界へと直接転移している事から、何かしらの方法があるのだろうが、なぜこのような仕組みなのかは、今もって不明だがね」


「そうだったんですね。でも、そもそもなんで私たちの世界に、エステルさん達は来たんですか?」


「ラークスが中核世界と初めて接触したのは四年前だが、これは私がポータルを開いたことが発端だ。ラークスにもいたんだ。異世界転移を果たした中核世界の人間がね。私は彼と仲間達と共に、かつてはパーティーを組んで、ラークスを旅してきた。


 彼は中核世界の知識や技術に加え、ずば抜けた戦闘技術の持ち主で、異世界転移前の記憶を無くしていたもののラークスの発展の為に献身的に尽くしてくれたラークスの英雄だ。


 彼は晩年、転移前の記憶を取り戻したようで、転移前の記憶と中核世界についての情報を記していたのだが、彼は老衰で死期を悟ると、私に転移前の記憶を記した書物を渡すとともに、ポータルを開き、中核世界と友好的な関係を築き、手助けをしてやってくれと言われたんだ。みだりに異世界間を往来することは、中核世界や数ある異世界にとっても、無用なトラブルの種になる、と。つまりは、遺言だな。私たちは彼の遺言を守っているのさ」


 なんと壮大な話だ。まるでファンタジーの世界。いや、すでに俺はファンタジーの世界に巻き込まれているか。突拍子の無い話だし、いきなり信じるのは普通であれば到底無理だ。だが、現にこうしてエルフや魔法の一端を見るに、信じざるをえない。


 市村が補足で説明を加える。


「我が国としては、現在国民保護を第一としています。アレクの配信によって異世界への間違ったイメージが多くの若者を異世界へ駆り立て、転生を目論み自殺する者、転移するためにあちこち探索して回り治安の悪化を招く者、様々な人間がいますが、彼らの行動によって社会問題となって国内情勢が不安定になっています。また、召還と呼ばれる拉致事件も後を絶ちません。国民保護の観点からも、ポータルを閉じる能力者は我々に取って諸問題の解決の切り札に成り得る可能性を秘めています。ですので、是非ともあなた方にハルモニアの一員となって働いて頂きたいのです」


 事情は大体わかった。一般人が知らないところで、こんな事態が起きていたとは、世の中知らない事だらけだ。


 俺はお茶を一口啜り、気持ちを落ち着かせる。とっくに冷えていてもいいはずなのに、手に持っているティーカップは相変わらず暖かい。


「なんだか、すごいことになったね。ぐんちゃん」


「そうだね、すごい事になったね」


 お茶のお陰か、落ち着きを取り戻しつつある巴ちゃんも困惑している。市村やエステルの言う事は信じるとしても、本当に俺達がそんなだいそれた仕事をできるのだろうか。こっちはただのトラック運転手と事務員だぞ。


 だが、こうも思う。


 もし、俺達が異世界対策室で働いたとして、その結果今の社会問題が解決されたのなら、れん君のように巻き込まれる人はいなくなるのではないかと。


 れん君は、間接的とはいえ異世界転移の被害者だ。今までも似たような事はあっただろうし、これからだって何も対策しなければ同じような事はまた起きるだろう。


 ならば、ここで働く事に意味は、ある。

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