第8話 大きな魚を釣るには。
「なんだな…お前の妹、噂に聞いてたより落ち着いた普通の令嬢だったな。かわいいし。」
「ありがとうございます。」
先週のお茶会は無事に終わった。妹のボロも出ず、上品にお茶も飲めた。
幾つか殿下が意地の悪い質問をしていたが、にっこり笑って答えていた。
…ちょうど前日におさらいしていたところが出題されてよかった。
妹は終始、殿下を眺めていたし。金髪はくるりんと、唇はぷくぷくと蔓バラのような可愛らしいピンク。いつも着ているド派手なピンクのドレスより落ち着いたベビーピンクのドレス。どうよ?私の妹、かわいいでしょ?私はいつものように紺色のドレス。引き立て役だと思っていただけると幸いですわ。
「また誘え。いつでもいいぞ。お前とのお茶会がにぎやかになっていい。」
「ありがとうございます。」
おっ?
昔、小さかった時にうちの屋敷の池でリオネルと釣りをした。後でこっぴどく執事長に叱られたけど。
その時、リオネルに大きな魚を釣る方法を伝授してもらったのを思い出す。
1)まず、少人数の環境であること。
…うんうん。舞踏会なら挨拶ぐらいで終わっちゃうもんね。
2)近くに餌が無い状態であること。
…まあ、私のことは殿下はカウントしていないから、これもクリアね。
3)十分に餌を観察させること。
…なるほど。情報として、雑魚は群がってきているのを知っているんだものね。
4)少し餌を離して置く。
…ふむふむ。
5)あれ?と思ったころに、目の前に餌を落としてみる。
…なるほど…。
もう少し観察させることが重要かしら?
ただ、毎週となると、妹にも慣れが出そうで危ない。月一ぐらいにするか。
「そういえばな…来月、ブリア国から私的な用事で第三王女が来る。お茶に誘えと言われたから。そのつもりでいろ。」
「はい。かしこまりました。」
…そのつもり?
その王女様は、殿下と一時期噂になった方ですわよね?わざわざこちらの学院に留学してまで。婚約するならその方でも良かったんじゃありませんか?
「綺麗な女なんだが、思い込みの激しい女でな。化粧濃いし。付いて行けない。」
「……」
へえ…。殿下を困らせるくらいの方?じゃあ…その方でよかったんじゃありませんか?
家に帰り、ジュリエンヌに殿下の言葉を伝える。
「まあ!また呼んでいただけるなんて、嬉しいです!きゃあ。」
「ところがね…」
ブリア国から客人が来るときに呼ばれた、と、少しのウソをつく。
「あなた?ブリア語は?」
「……」
「習ってはいましたよネ?ご挨拶ぐらいできないと…連れて行けませんね」
「…お姉様!家庭教師をつけて下さい!間に合いますか?いつですか?」
「1か月後よ?間に合うかしら?」
「間に合わせますわ!!!」
ふんすっ、と鼻息が聞こえる。がんばれ!ジュリエンヌ!!