第17話 満月の夜。
妹は12月になるとすぐに、ブリア国に出かけて行った。
私は12月の大舞踏会は欠席した。
社交場でどんな噂話が飛び交っているのか想像すると怖いが、父と母は普通に出かけて行った。
夕刻に玄関先で二人の乗った馬車を見送るころには、大きな月が上ってくるところだった。冬の満月はきりっと見えるわね…。
この日のために用意した小箱を引き出しから取り出して、ポケットに入れて、フード付きの外套を羽織る。勝手口からこっそり出ると、昨日降った雪がまだ残っていた。
ザクリッ、とその雪を踏みしめていく。
リオネルの部屋に明かりがついているのは確認した。あの人は舞踏会なんか出ないのも知っている。おじさま方とリオネルのお兄様夫婦も出かけられただろう。
ザクリッ…
雪の残った生垣をくぐって、リオネルの部屋へと急ぐ。
足元に気を取られていた。ふと見上げると、リオネルの部屋はカーテンも窓も開いていて…懐かしい声がする。
「フラヴィ…」
「リオネル。ただいま。」
「ん、お帰り。」
窓から差し伸べられた手を取って、引っ張り上げられた。そのまんまリオネルの部屋に転がり込む。勢いが良かったので、リオネルを下敷きにしてしまった。
「ただいま!」
「うん。」
「私、婚約解消して来た。もうどこにもいかないからね?…少しは、心配した?」
「うん。すごく、心配した。」
下敷きになったままで、リオネルが私の髪を掬い上げて耳にかける。改めて部屋の明かりで見ると、リオネルは珍しくそのこげ茶の髪を短く整えて、髭もそっている。しかも、外出用のきちんとした格好だった。私の大好きな紺色の瞳が私を見ている。
「まあ、リオネル、どうしたの?どこかにお出かけの予定だった?」
「え?ああ…両親に舞踏会につれて行かれそうになって…その…」
馬車に乗りかけたら、満月だったからやめたんだ、と、リオネルがぼそぼそと話してくれた。
「だって…満月なら、フラヴィが来るかもしれない、だろ?」
「まあ、リオネル。うふふっ。左手を出して。」
ごそごそとポケットに入れてきた小箱を取り出す。リオネルの左手の薬指に用意して来た指輪をはめる。
「リオネル、私と結婚してちょうだい。私がしっかり働いて、あなたに不自由はさせないから。今まで通り、自分の好きなことだけやっていればいいから。好きなことをやっているリオネルが好きだから。」
「…フラヴィ?」
「私がもっと早く言えば、こんな回り道などしなくても済んだのに、ね?大好きよ、リオネル。返事は?」
「…はい。」
起き上ったリオネルが、小箱に残っていたお揃いの指輪を私の指にはめてくれる。
上ってきた月を二人で眺める。
本編 完です。番外編に続きます。




