第16話 隣の猫。
「で、お前はどうするんだい?」
妹は国費留学の説明会に向かったので、帰りの馬車は父と2人きりになった。
「え?どう、と言われても…」
「大体な…評判の悪かったアンドレ様など、婚姻前に不貞行為の一つでもすれば、すぐにでも婚約解消してやろうと思っていたのに…お前がまともな人間にしてしまうとは想定外だった。」
「お父様??」
「お前も、さっさとリオネルと婚約しておけば、こんなふうに王室に目を付けられるようなこともなかったんだぞ?」
そう言って父が、にやりと笑った。
「だ、だって…お父様…」
「ん?」
「…リオネルはいつまでたっても自分の研究ばっかりで…私にプロポーズしてくれませんでしたもの。」
「そりゃあ…そうだろう?お前まさか、リオネルからプロポーズされるのを待っていたのか。」
「…ええ、だって…」
「だって?お前はしっかりしてるのに、自分のこととなるとダメだな。いいかい?定職もない、研究ばっかりしているまだ学生の、しかも伯爵家の次男坊が、侯爵家の跡取り娘に求婚できるはずがなかろう?」
「……」
「ふふっ。高位の家からの申し出は断りづらいからな、お前が求婚すればほぼ決まりだ。それに、お前…あの次男坊を養っていくくらいの覚悟はあったんだろう?」
「はい。それは…もちろん。」
あははははっ!と、父が声をあげて笑った。
「うちと隣の生け垣が破れているだろう?」
「え…ご存じだったんですか?」
「そりゃあな。昔っから、お前とリオネルが好き合っているなんてことは、隣で飼っている猫だって知ってるさ。」