第15話 だって。
私の体調が整ったころ、父と一緒に姉妹で王城に呼ばれる。
もちろん、私の婚約解消については陛下から非常に丁寧なお手紙が父あてに届いていた。
馬車にならんで座るジュリエンヌの表情が硬い。緊張しているのか、私に負い目があるのか…あんなに「私が嫁に行く!」と言い張った妹だもの、もっと晴れ晴れとした顔をしてほしいところだけど…私のことも気にしないでほしい。
陛下の御前に呼ばれる。殿下もすぐ後ろに控えている。これまた丁寧に私と父に詫びが入る。
「フラヴィ嬢に躾けられて、愚息は仕事もきちんとするようになったし、夜遊びもしなくなった。感謝している。それなのに、こんな形になってしまって本当に申し訳ない。」
何というか…陛下に頭を下げられて、本当に返す言葉が見つからない。
「……」
「…それでな、うちの愚息が、どうも妹君に婚姻の申し込みをしたいらしいのだが…」
「その件ですが、陛下。」
すっくと立った妹が、ちらりと殿下を見た後、陛下に向き直ってきっぱりと言い放った。
「私、ブリア国に留学いたします。予定は2年間です。キャサリン殿下が身元引受人になって下さることになっております。」
え?いつの間に?
父は知っていたのか、黙ったままだ。
「姉の婚約者であった殿下と、じゃあ、と、すぐに結婚するわけにはまいりません。そのようなことをすれば、王家の信用にもかかわることでございましょう。2年間勉強してまいりますので、それでも殿下の御心が変わらないようであれば改めて考えたいと思います。」
妹は…いつの間にこんなに大人になったのだろう…。
陛下の御前で、目もそらさずに言ってのけた。
「ほう。だ、そうだぞ、アンドレ?」
「はい。2年でも3年でも待つ覚悟です。」
殿下が、嬉しそうに笑っている。
「うん。して、姉君のことだがな…こちらの都合で振り回してしまった。良ければこちらから侯爵家の婿を紹介したいのだが。そつのない、いい婿を探そう。」
え?
「陛下。実は姉には小さいころから将来を約束した殿方がおります。」
ええええええっ?何を言いだすのジュリエンヌ?
「姉は、王室からの直々の要請だということで、今回の婚約の申し出を断り切れなかったのです。そういう人なんです。いつも自分のことより、家や家族のことを優先させるような。」
…ジュリエンヌ?
「私は、姉に幸せになってほしいと思っています。だって…本当に好きな方が近くにいるのですもの。」
ひゅっ、と息を吸い込む。そんなことを妹が考えていたなんて…
ジュリエンヌ?あなた…あの時、だって、の次の言葉って…そう言いたかったの?