第13話 正論。
「ごめんね、ジュリエンヌ。私、急用ができてしまって、お茶会に行けないの。急なことで、まだ殿下に言えてないのよ。あなたが伝えておいてくれる?」
「え?あ、はい。」
お茶の時間に間に合うように来た妹に、慌てたふりをしながら頼みごとをする。
「殿下に作ったハンカチを渡すんでしょう?頑張ってね。」
にっこり笑って、妹の肩をポンッと叩いて応援しているアピールをする。
しめしめ。二人で久しぶりにゆっくりお茶でも飲めば、何らかの展開があるかもね。
今日のジュリエンヌもかわいいわ。最近趣味も良くなって、あまり派手派手なドレスを選ばなくなったし。今日のドレスも秋らしい薄めのローズピンク。
もちろん、私が行けなくなったことは殿下の侍従には伝えてある。
この後は…大舞踏会で、着飾った可愛らしいジュリエンヌを投下する。どうよ?私のこの計画?目がくらんだ殿下が、ジュリエンヌに求婚でもしてくれたら、万事OKよ!!
急ぐふりをして馬車に乗り込んで…アカデミアの隣の王立図書館に行く。
特に、用事はない。ただ何となく。
リオネルに会えたりしないかな?
まあ…会えたとしても、話もできないんだけどね?図書館の中まで王家の護衛は付いて来るのかな?
そんなことを考えながらも図書館で時間をつぶして帰ろうとエントランスに入ると、見慣れたこげ茶色の髪を見つけた。本を借りた帰りらしくて、分厚い本を5冊くらい抱えている。相変わらずねえ…
リオネル、と声を掛けようとしたら、気が付いた彼に深々と頭を下げられてしまった。私が護衛と通り過ぎるまで、そのこげ茶の頭は上がることがなかった。
そうよ。当然よネ?
だって私、この国の第一王子の婚約者なんですもの。
頭が真っ白になってしまって…手あたり次第本を借りて…ようやく家に帰った。
借りてきた本を護衛が部屋まで運んでくれた。
机に並べられた本のタイトルは、何の脈絡もなく、何の興味もない。
疲れた…。ベッドでゴロゴロしていたら、妹がドアを叩く。
「どうぞ」
「お姉様、おかえりなさい。」
「あら?ジュリエンヌ…思ったより早かったんじゃないの?お茶はゆっくり飲めた?ハンカチは渡せた?お茶室だったから調度品も眺められたでしょう?」
「いいえ。お姉様。殿下に席もお茶も勧めていただいたんですが、殿下はお姉様の婚約者ですし、お姉様の不在の時に何か誤解を生むことがあってもいけませんし。キャサリン様とお友達になった報告とお礼のハンカチだけ渡して帰ってきましたわ。」
「……まあ、そうだったの。」
…正論だわ。
ジュリエンヌの行動も、リオネルの態度も…正しいことなのよ。
おかしいのは私。
婚約が決まったというのに、覚悟がなかったのは私だけだったんだわ。
妹を自分の婚約者にけしかけようとしたり、この後は…舞踏会で二人を躍らせる計画まで立てていた。
いつまでもいつまでもリオネルにちょっかい出したりして…なんて常識がなかったんだろう。
すごく迷惑だったわよネ。