第11話 少し距離を置く。
「今日は来ないのか?」
「え?ああ、ジュリエンヌですか?あの子は先週から父と領地に行っていまして。」
「ふーん」
「私が王城に上がりましたので、あの子が侯爵家の跡取りになりますので。」
「…ふーん」
あの慌ただしい日から、もう1か月になる。
翌朝に見た王女殿下は、妙にすっきりとした顔をしていた。思ったより幼いお顔で、あとで聞いたら、妹と同じ年だった。
妹はキャサリン王女殿下専用の化粧水を作り、手土産に持たせた。お付きの侍女用にも作ったらしく、皆さん喜んで帰った。
人生…どこで何が役に立つかわからないものね。
帰国後も、妹と文通しているらしい。
「今度、キャサリン様がブリア国に遊びに来るように言ってくださったの!」
それから、妹はブリア語の勉強に一生懸命だ。
「その…なんだ…噂と違って、博識で、明るくて楽しい子だな。お前の妹。」
「……」
私も気が付かなかったけど、あの子は、今までいた世界が狭すぎただけなのかもな、と今回のことで思い直した。もっと、こう…大物なのかも。
*****
「まだ帰ってこないのか?」
もうすっかり秋だ。中庭も秋の花に様変わりしている。お茶会の会場も、そろそろ室内になりそうだ。
「妹ですか?ええ。あちらでお見合とかしているらしいです。跡取りなので、今から優秀な婿を探すとなると、準備期間も必要ですからね。」
「…見合い?…そうか。」
あら?寂しいんですか殿下?
上品に紅茶を飲んでいる。目線はかなり遠いわね。
ここのところ、殿下も真面目に執務に取り組んでいる。仕事量はもともと多いんだから、早く気が付いてほしかったわね。私の処理する書類も随分と減ってきた。いいことだ。
夜遊びも減ったらしい。出かけても長居せずに帰ってくるみたいだ。侍従が言っていた。
そう…もう一押しかしらね?




