第10話 奇妙な友情。
「化粧を落としていきますね。ごしごししないでください。こんなふうに石鹼の泡で浮き上がらせる感じで…」
屋敷にいきなりブリア国の王女を迎えることになった我が家は、大騒ぎだ。
そんなことお構いなしに、妹の部屋で王女殿下はドレスを脱いで妹の普段着に着替えて、首にタオルを回して、顔を石鹼の泡でもこもこにしている。
…これは…思ったより時間がかかりそうね…。
取りあえず、付いてきた王女殿下の侍女たちや護衛の騎士たちにお茶を出して休んでいただく。
その間…一番いい客間を整えて、王女殿下の休憩用に準備。
時間がかかりそうだから…念のため、夕食も用意しておいてもらう。
今度はいきなりバスタイムになるらしく…王女殿下の侍女たちがメモを片手に、うちのお風呂場に詰める。講師はうちの侍女らしい。なにせ…妹が入浴剤やらマッサージやらにやたらうるさいので、うちの侍女たちはもはやプロだ。
「王女殿下はお疲れの上に、船旅で潮風にあたってしまいました。髪は軽く汚れを落とし、保湿成分の多いこのオイルをまんべんなく…」
ちらりと覗いたら、王女殿下もご満悦のようだ。お風呂場は妹特製の優しい入浴剤の匂いでほんわりしている。
このあと、全身の、もちろんお顔も、マッサージタイムに突入だ。
妹は…厨房に行って、今の王女殿下の肌に必要な食材で調理するように、料理長と打ち合わせしているし…
ジュリエンヌ…ただの我儘娘だと思っていたお姉ちゃんを許してね!役に立つ我儘もあったのね?
結局、王女殿下は化粧を落としてしまったので、と、ジュリエンヌの部屋で夕食を二人で取り、せっかく用意した客間ではなく、そのままジュリエンヌの部屋で泊ることになった。
ドアの前には護衛騎士が詰め、控室にと用意した部屋に、王女殿下の侍女に泊まってもらった。
慌ただしい一日だった。
妹たちはもう寝たらしい。睡眠不足はお肌によくない、と言って、いつも妹は早寝遅起きだ。
いやしかし…なかなかうちの妹はすごいね…。周りの人たちはやはり振り回されるんだけど。
部屋の明かりを消して、いつものようにカーテンを少し開けて、生垣の向こうを見る。
珍しく窓を開けて…月を見ているのね…。
今日も満月なのね。月が明るい。
リオネルの白いシャツだけ、良く見える。