第1話 第一王子との婚約。
「お姉様じゃダメダメ!!私が行くの!だってだって…」
また始まった…うちの妹は、事あるごとにこれだ。いつも父も母も諫めるが、最終的にはあきれて許してしまう。めんどくさくなるのかも知れない。
「まったく…誰に似たのかしら、ジュリエンヌの我儘は」
いつもそう言う母に、実はそっくりなのだと私と父は思っている。
どこそこの貴婦人にドレスで負けた!だの、なんとか夫人がウズラの卵ぐらいのダイアモンドを付けてきた、だの…お茶会や舞踏会帰りに愚痴をこぼしている。それを聞いて育ったんだもの、そっくりになっても仕方ないと思っている。
しかし…今回ばかりはそう言われても、じゃああなたにあげるわよ、と軽々しくも言えない。
言いたいけど言えない。
「フラヴィ、お前に第一王子との縁談が来た」
朝食の席で父が言い出した爆弾発言に対しての、妹の我儘だ。
「だって、お姉様はこの侯爵家の跡取りじゃないの?そしたら、私がお嫁に行くべきよ!お父様もそう思うでしょう?私が行くわ!だって!だって…」
「…それがな、陛下直々のご希望でな。その…あれだ。第一王子には、しっかりした身持ちの堅い娘を、ということらしい」
「……」
話の内容は理解できたようで、妹が黙る。
第一王子の、あれ、とは…恋人がとっかえひっかえだってことだろう。社交界ではかなり有名だ。まあ…恋多き男?頭は悪くないようだが、自分がカッコいいという自信があるらしく、まあ、王子だしね。みんな困っているらしいと聞く。婚約者がいまだに決まっていなかったのも、そのあたりが要因かしらね。
妹が黙ったのも…15歳で社交界デビューしたらちやほやされてモテモテで楽しすぎて、あちこちの子息と浮名を流しまくったから。縁談が来ても、もっといい男がいるはずだと断り続け、いまだに決まった人がいない。
…まあ、なんというか…似た者同士?そんな二人が結婚したら、この国の先が不安しかない。
私は…跡取り娘として育てられたので、婿取り。の、予定だった。自分で勝手に予定していた人は…まあ、いないわけではなかったが。
「うちの家はジュリエンヌに真面目な婿でも探すしかないかな」
「えーいやよ、お父様!私は自分の好きな人と結婚するんだもの!」
…どう転んでも、前途多難だな。
フラヴィは食後の紅茶を飲みながら、父と妹の攻防を眺める。