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第九話 王国の終焉

【第九話 王国の終焉】



 サナデアの癒しは、絶命したものには効果を発揮しない。カリスラウドはラクリシアの血液が入った小瓶を、全て床に叩きつけ破壊した。

 そして真っ赤な床に倒れる父の亡骸を残し、保管庫に鍵をかけた。


「地下にはまだ踏み入られていないか……」


 保管庫の外は静かで、廊下の先から喧騒が聞こえてい た。


 カリスラウドは手にした鍵を見つめ、そっと排水口へと落とした。あの血が乾くまでは、誰にも踏み入らせる訳にはいかなかった。


 その先に国民からの断罪が待ち受けていると知りながら、カリスラウドは足早に廊下を進み、地上へ向けて階段を駆け上がった。




 姿を見せたカリスラウドに、国民の怒声が降り注ぐ。


「ッッ!!殿下!お下がりください!!」


 懸命に暴徒を止めようとする衛兵たちに、終わりを見据えていたカリスラウドの心が揺れた。まだ、王家を守ろうとしている者がいる。


「王は!!死んだ!!……私は!!私は……」


 カリスラウドの叫びは、国民の怒声にかき消された。それでも声を張り上げる。


「この国にはもう王はいない!!王女もいない!!!……サナデアという王国は、」


 その時、国民の一人が放った小刀が、カリスラウドの肩を掠めた。


「ッッ……」


 衛兵たちに走った一瞬の動揺を、群衆は確かに感じ取っていた。一気に人波が押し寄せる。


「殿下!こちらへ!」


 奥から飛び出してきた年嵩の使用人が力強くカリスラウドの腕を引いた。本来なら触れることを許されない立場だが、彼もまた必死だった。


「殿下!落ち着いてください!!……ここに押し寄せているのは国民のごく一部です!多くの国民は王家断絶など望んではいません!!」


「王の演説で暴動になったと聞いている。癒しの力を独占する王族というだけで、非難の的だろう」


 使用人の言葉に噛みつくように、カリスラウドは浅い呼吸のまま話を続けた。


「では聞くが、多くの国民が求めるものとは何だ?」


「王女の正当な保護と……平等です」


 小刀が掠めた肩よりも、頭が痛かった。結局は『保護』という名目でラクリシアを管理するのだ。そして『平等に』癒しの力の恩恵を受けようと。


「ラクリシアは自由に生きる権利を選んだ。血も涙もラクリシアだけのものだ」


 カリスラウドは使用人の腕を振り解いて、謁見台を目指した。城に詰めかけた群衆では足りない。少しでも多くの国民に声を届けるために。


 拡声器を握りしめ、声を張り上げた。


「サナデア王国第一王子、カリスラウド・サナデアだ!王である父は既に息絶えた!この国に王はいない!王女もいない!……王に代わり、宣言する!!」


一瞬、緊迫した静寂が辺りを包んだ。




「サナデアは!王政を撤廃する!!」




 ガツン、と音がして拡声器が石の床に転がった。


 次いで、カリスラウドが崩れ落ちる。その身体には太い矢が刺さっていた。


 カリスラウドに向け弓を構える男の腕には、ラクリシア誘拐の手引きをした『侍女』と同じ、女神サナデア信仰のシンボルが彫られていた。




 カリスラウドは身を低くして、城の中へと姿を隠した。慌てた様子で駆け寄る使用人たちに、公園の森へ残した愛馬の保護を託し、制止を振り切って一人になることを望んだ。


「っっあぁ、痛い……熱い……」


 カリスラウドは、ラクリシアを幽閉していた隠し部屋を目指した。あの部屋は複雑な通路の先にあって、場所を知らなければそうそう辿り着けはしない。ラクリシアを苦しめたあの場所を、カリスラウドは最期の場所として選んだ。


「ゔっ……ぐ、……がぁっ」


 部屋に辿り着いたカリスラウドは、自身の胸から矢を引き抜いた。傷口から血が噴き出す。心臓は逸れたものの、肺を傷つけたのか、呼吸がままならない。血が喉をせり上がってくるばかりだ。


 死にゆく父は声を上げなかったな、と薄れゆく意識の中で思い返していたカリスラウドは、近付いてくる気配に気が付かなかった。


完結まで毎日更新予定です

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