第3話 柊の真価
柊は、期待を胸に道場に入っていく。
「こんにちは〜。」
柊が稽古場の引き戸をそっと引く。
それと同時、柊目掛けて木刀が超速で飛んでくる。
「うわっ!」
それを柊は、紙一重で躱し、木刀は、後ろの壁に突き刺さった。
「今のを外すとは、なかなかやりますね。」
稽古場の真ん中に糸目の男性が立っていた。
「急に何するんですか!!避けられなかったら、俺また転生するところでしたよ!!」
柊が少し怒る。
「ははっ。すみません、少し君を試させて頂きました。初めまして、私の名前はシヨウ=キシカベ、これでもA級なのですが、改めて凄い反応速度ですね。」
シヨウが自己紹介をする。
『まぁ、一応空手はしてたからな。待てよ、今の名前って日本語!?』
「えっ!日本人!?てことは、貴方も転生者ですか?」
柊が驚く。
「いえ、私はそこを知りません。私はこことは遠い国からやって来ました。君の名前は聞いています、柊くんですね。当然、職業も固有スキルを知っています。それで、君の能力について私が考えたことがあるんです。とりあえず、私とあの方の対人戦を見せますので、ちゃんと見ていてください。シャールくん、私が1つ指導してあげましょう。」
シヨウは、素振りをしていた道場生を呼び、木刀を持つ。
「シヨウ先生、お手柔らかにお願いします。」
道場生が木刀を構える。
「お、シャールと先生の対人戦だ!」
「頑張れよ!」
周りの道場生も集まってくる。
「かかって来なさい。」
シヨウが木刀を構える。
次の瞬間、シャールが強く踏み込み、木刀を横薙ぎする。
だが、シヨウはそれを余裕の笑みで受け止める。
シャールは多種多様で巧みな高速の剣撃を繰り返すが、その全てを木刀も使わずに避けきる。
その場面を、柊はギリギリ目で追う。
そして、シャールの木刀をはらりと受け流し、バランスが崩れた所で、シヨウも攻勢に出る。
「次はこちらから行きますよ。」
そう言うと、シヨウは一瞬の内に6連撃を繰り出し、シャールは全く反応できない。
「ぐはっ!」
そして、流れるようにシヨウは、シャールの首元に木刀を寸止めした。
その時柊は少し息切れしていた。
『なんだ、この感覚。動きを捉えるのでギリギリだったっていうのに、頭の中で避けることも受け止めることも、数撃与えることだって容易にイメージできる。俺の能力って、一体…。』
柊は不思議な感覚に陥っていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…。やはり、先生は強すぎます…。」
シャールが木刀を下ろし、座り込む。
「ははっ。そんなことは無いですよ。君も前より速度が上がっていますね。良い成長です。」
シヨウが微笑みながら、木刀を下げる。
『俺、一太刀も当てれてないんだけどな。』
「あ、ありがとうございます。」
シャールが苦笑いしながら答える。
「それで、ちゃんと見てましたか、柊くん。私の推測が正しければ、これで少しは強くなったと思います。早速ですが、君も私と対人戦を行いましょうか。シャールくん、柊くんに君の木刀を貸してやってください。」
シヨウがシャールに呼びかける。
「い、良いんですか?彼は今日入ってきたばかりで…」
シャールが動揺する。
「良いんですよ。彼は君より圧倒的に強いんですから。」
そう言うとシヨウは、再び木刀を構えた。
柊もシャールから木刀を受け取り、シヨウと全く同じ構えをとる。
「では、まずはこっちから行きますよ。」
シヨウがそう言うと、先程と同じく一瞬の内に6連撃を繰り出す。
次の瞬間、柊がその全てをギリギリだが受けきる。
「なっ!あれは、先生と同じ動き!」
シャールが目を見開く。
柊は続けて、シヨウの横薙ぎすらも紙一重で躱す。
そこからも柊は、シヨウの猛攻をギリギリで外し続ける。
「スゲェ、あいつ先生と互角にやり合ってるぞ!」
道場生達が驚愕する。
そして柊は、猛攻の中で一撃を受け流し、攻勢に出る。
『凄い!頭でイメージしたことが、実際に出来てる!』
柊が楽しそうな顔になる。
その時柊は、一瞬の内に4連撃を繰り出し、シヨウは全て受けきる。
『この動き!やはり君は!』
シヨウも高揚した顔を見せる。
そして柊は流れるように、攻撃を加えていき、シヨウは完璧に外す。
「あいつあんなに強かったのか!」
その激しい攻防戦に、道場生達は全員圧倒されていた。
そして、互いの木刀が同時に交わり、2人とも後方に飛び退く。
「よし、ここら辺にしておきましょうか。」
シヨウが微笑み語りかける。
「ふぅ、ありがとうございました。」
柊が一息つき返事をする。
「スゲェなお前!!先生とほぼ互角で戦うなんて!!」
周りの道場生が寄ってくる。
「そ、そうですか?」
柊が少し照れくさそうにする。
『あれ程の動きがすぐに出来るのは、想定外でしたが、やはり私の予想は当たっていたようですね。』
シヨウは柊を見つめる。
「先生!あの人は一体?」
シャールがシヨウに駆け寄る。
「彼は私より圧倒的に強い、後に最強の戦闘者となる者です。柊くん、少し話をしましょう。他の皆さんは引き続き、素振りをしていてください。」
シヨウが道場生達に呼びかける。
道場生は大人しく戻っていく。
そして2人は、その場で話し出す。
「分かりましたか、君自身の能力。」
シヨウが柊に問いかける。
「はい、薄々そうだとは思っていましたけど、俺の固有スキル《無限成長》は、他人の動きを観察して、それを自分のものにするとういことですよね。」
柊が考察を語る。
「まぁだいたいそんなところです。そして私が思うに、それに効果制限はなく、スキルや技、戦闘方法までもを文字通り無限に吸収できるんだと思います。その証拠として、ステータスを開いて確認してみてください。心の中で『ステータス』と唱えてみてください。」
シヨウが、更に細かく説明する。
『ステータス』
柊がそう唱えると、ステータスが再び現れた。
職業:(侍)
〖アクティブスキル〗
・強撃
〖パッシブスキル〗
・見切り
〖テクニックスキル〗
・瞬撃
・一閃
固有スキル:《無限成長》
「おぉ!またステータスが出てきた!なんか色々追加されてる!職業も新しくなったし、パッシブスキルも獲得出来た!ん?でも、テクニックスキルってなんだ?」
柊がステータスをジッと見る。
「さっき、君が模倣した私の技のことですよ。テクニックスキルは、誰でも努力次第で獲得出来るスキルなんですよ。それにしても、職業まで吸収できるなんて、君は本当に凄いですね。」
シヨウが語る。
「あ!職業も成長できるってことは、剣聖とか賢者にも?」
柊がキラキラした目で問いかける。
「はい、事実上可能でしょうね。」
シヨウが答える。
「異世界転生の王道展開来たー!!」
柊が大喜びする。
「ははっ。そうと分かれば、もっと私と稽古をして、どんどん成長してください。それでは、引き続き修業を続けましょう。」
シヨウが木刀を再び構える。
「はい!」
柊も木刀を構える。