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虚空の扉~現実を異世界が侵蝕する~   作者: Kochablo
第2話「英雄の導き」
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【閑話】 予期せぬ同居人~片付けられない貴族令嬢~

朝のドタバタ劇が落ち着き、エリシアもついに服を着ることになった。


だが、彼女が手にしているのは昨日まで身にまとっていた服ではなく、

レオが普段着ている洗濯済みのTシャツとジャージだった。


もちろん、貴族の令嬢である彼女が満足するような服が、

レオのクローゼットにあるはずもない。


「……まさか貴族の令嬢が、庶民の衣服を着ることになるとは……」


しぶしぶジャージを羽織りながら、エリシアは不満げに呟いた。


「文句を言わないでくれ。ていうか、昨日まで着てた服はどうしたんだ?」


皮肉を込めてそう返すと、エリシアは腕を組み、少しだけ眉をひそめた。


「鎧は戦闘の激しさで損傷していたし、服は汗と汚れが染み込んでいた。

とても着られる状態ではなかったのだ」


「なるほどな……で、なんで今朝は全裸だったんですか?」


「ふぇ!? ……そ、それについては……私にもわからない……」


突如として直球の質問を投げかけられたエリシアの目が泳ぐ。

どうやら本人にも予想外の出来事だったようだ。


「昨晩、一度覚醒したのだが……その時は確か鎧を纏っていたはずだ。

ではいったい……いつ……?」


顎に拳を添え、ぶつぶつと呟きながら記憶を整理しようとする。


レオもまた、右手を額に添えて昨日のことを思い返していた。


「えっと、昨日の夜、俺はエリシアをソファに寝かせて、毛布をかけたんだけど……」


「朧気だが、その記憶はある。昨晩、覚醒した場所はソファだった。

つまり、その時点では我々の記憶に齟齬はない」


「……だが、朝起きた時にはこのベッドにいて、しかも……その、全裸で……」


小声になっていくエリシアの声。耳まで真っ赤に染まり、

恥ずかしさに耐えきれず今にも泣き出しそうだった。


だからこそ、俺はきっぱりと言った。


「いや、俺は運んでないし、脱がせてもいない。

……さっきのも、母さんには見られたかもしれないけど、俺には見えてない」


(まあ実際には、けっこう見えてました。綺麗でした。正直すまん)


だがそれを言うほどレオも無神経ではない。ここは誠実に言い切るのが大事だ。


レオの言葉を受け止めたエリシアもまた、冷静さを取り戻し始めていた。


「……つまり、私は寝ぼけてレオの部屋に勝手に移動し、装備を外し、

さらには衣服まで脱ぎ捨ててベッドに侵入した……と」


「……その可能性が、高い……かもしれない」


「むぅ……私としたことが……人生最大の汚点だ……」


眉間にしわを寄せ、拳を握りしめたエリシア。

寝ぼけていたにせよ、信じられない行動を取ったことに打ちひしがれているようだった。


だが、俺にはもう一つ気になることがあった。


すると、先に口を開いたのはエリシアの方だった。


「それより、この部屋はなぜこんなにも散らかっているのだ?」


彼女の視線の先には、

乱雑に転がった鎧の破片、包帯、レオの衣服……謎の混沌。


「いや、それ俺が聞きたいんだけど?」


「? もともとこうではなかったのか?」


「おい、あんた失礼だな」


エリシアは不思議そうに辺りを見回し、レオの服を拾おうとしたその瞬間。


「むぐっ!?」


足元の鎧を踏み、見事に顔面から転倒。


「大丈夫か!?」


声をかけると、エリシアはバツの悪そうな顔で体勢を整えた。


「……ふむ、確かに動きづらい」


「だから言ったろ。ていうか、自分の鎧なんだから片付けろよ」


「……うむ。しかし……実のところ、私は“片付け”というものをしたことがなくてな……」


「……マジで?」


レオは頭を抱えた。

貴族の令嬢だからメイドに任せていたのは想像できる。


だが騎士でもあるのに、ここまでとは。


「しょうがない。俺が教えるから、一緒にやろう」


「むぅ……やむを得ぬ」


渋々ながら、エリシアは片付けを始めた。


──だが。


「なあ、レオよ。片付けとは……物が増えていくものなのか?」


気づけば、部屋には下着や包帯、形の崩れた鎧、

クローゼットの中身までが散乱していた。


「エリシアさん……さっき“片付ける”って言いましたよね?」


「言ったぞ?」


「……増えてますけど?」


「?」


ダボダボのジャージを着た金髪美少女が、小首を傾げる。

普通なら、その姿に萌えるかもしれない。


だが今は——


「はぁ……」


深いため息をつきながら、俺は悟った。


(ああ、この人……根本的に片付けできないタイプだ……)


聖騎士としての威厳、貴族令嬢としての優雅さ。


それらに反して、とんでもないポンコツさを見た気がした。


「……エリシアさん。俺の言う通りにやってくれますか?」


「う、うむ……」


こうして、

レオの“お片付け講座”が始まった。



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