【閑話】 予期せぬ同居人~母さん、誤解です!~
エリシアの秘密その1がバレます。
「……ん……」
柔らかな光がカーテン越しに差し込み、レオはうっすらと目を開けた。
(……あれ? 俺、昨日……)
ゆっくりと意識が戻るにつれ、昨日の出来事が走馬灯のように蘇る。
異形の影。
金色の剣を持つ少女。
気を失った彼女を家に連れて帰った。
(まさか……夢じゃなかったのか?)
まだ夢と現実の境界が曖昧なまま、レオは寝ぼけた頭で視線を巡らせた。
そして、目を見開いた。
「……は?」
そこには、天使のような金髪をふわりと広げ、無防備に眠るエリシアの姿があった。
しかも──
全裸だった。
その白く透き通るような肌には、一切の傷跡が残っていない。
昨夜の激戦が嘘のようだ。
レオの心臓が跳ね上がる。
(お、おい……どういう状況だよ!? なんで全裸!?)
「——うわあああああああ!!!」
思わず叫び声をあげてしまったレオ。
しかし──
「……むう、レオ……うるさいぞ……あと5分……」
レオの叫び声にもかかわらず、エリシアは夢の住人になろうとしている。
「……おい、なんでここで寝てるんだ……?」
「……スヤスヤ……」
「寝るな!」
そんなやり取りをしていると、階下から当該部屋へ近づいてくる音が聞こえた。
そして──
「レオ!? 何やって…………の……?」
レオの母・奈々子が、目の前の光景に固まった。
(ああ…、終わった、母さん空いた口ふさがってねー)
傍から見れば、全裸の金髪碧眼の美少女とベットインしている息子だろう。
なので弁明を実施する。
「母さん、誤解です!!」
「あらあらまあまあ♪」
——ニヤニヤ。
「いや、ほんとに違うって!!」
「ふ〜ん?」
愛息子の証言をまるで信用しない我が母。
「なぜ疑う!?!?」
「いやぁ、レオもついにねぇ……」
「だから違うんだって!!」
奈々子のニヤニヤは止まらない。
レオは頭を抱え、エリシアはというと──
「ふにゃ……おはようございましゅ、殿方の母君。エリシアと申しましゅ...」
優雅な一礼。
ただし、全裸で。
「ちょっ、服! 服着て!!」
「? 私の傷はすでに回復している……むにゃ…」
「いや、そーじゃなくて!!!おい、寝るな!」
奈々子は「ふふっ」と笑いながら、呆れたように言った。
「レオ、女の子を家に連れ込んだら、まず服を用意しなさいな」
「だから違うって!!」
エリシアはまだ状況がよく分かっていないのか、目も口も半開きでぽかんとした表情をしている。
(やばい、こいつ……天然か?)
「それにしても……エリシアちゃん、すごく寝起きが悪いわね?」
「……むぅ……」
エリシアは眠そうに目をこすりながら、ぼんやりした様子で立ち上がる。
「レオ……私はもう少し眠っていても……」
「いやいやいや!! 服着ろ!!!」
朝が苦手なのか、意識が完全に覚醒していないエリシアは、ふらふらしながら再び布団に倒れ込もうとする。
「ダメだ!! 二度寝するな!!!」
「……むぅ……」
レオが慌ててエリシアが被った掛布団を剥ぐと、彼女はダンゴムシのように丸くなり、「むぅ」と小さく唸りながら、再びまどろみそうになる。
「エリシアちゃん、朝は弱いのね?」
奈々子は楽しそうに微笑んでいた。
数分の間、母の生暖かい視線に晒されながらも、エリシアとレオの布団争奪戦が繰り広げられ、やっとのことでエリシアは覚醒した。
覚醒したエリシアが母を視界に認めると、
「では改めて……コホン。私はエリシア・セラフィエル。
ルミナス王国の聖騎士にして、公爵令嬢の名において、貴殿に名乗るわ」
その堂々とした自己紹介と優雅な仕草に、奈々子は感心したように頷いた。
「へぇ〜、貴族のお嬢様なのね? それはそれは……
でもね、エリシアちゃん。お洋服は、着ましょうね?」
「おい、そこツッコむな!!」
秘密1:朝が弱く一人で起きられない。でした。