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虚空の扉~現実を異世界が侵蝕する~   作者: Kochablo
第一章 第1話 開かれた扉
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ep5 襲撃~決着

レオを背に、エリシアは影とにらみ合っていた。


時折吹き抜けるビル風が、地面に散らばった瓦礫の破片を巻き上げる。


互いに決め手を欠いた状況。攻撃の応酬はあれど、どちらも決定打を見いだせずにいた。


(エリシアも迷ってる……。どう攻めるか、決めあぐねてるように見える)




その均衡を破ったのは、影だった。



「しまったっ!」




エリシアの叫びと同時に、影の身体が黒い霧のように分解され、瞬く間に無数の鋭利な刃へと変化した。


空間ごと塗り潰すような漆黒の刃が、俺たちを完全に包囲する。



(……これ、ヤバすぎるって……)


思考が追いつかない。背中合わせに立つエリシアの存在だけが、今の俺の支えだった。




「──ッ」




エリシアが歯を食いしばる音が聞こえた。


敵の全身が攻撃手段になることは想定していたに違いない。

だが、その質量の変化までは読めなかったのだ。



「……こんなところで……仕方あるまい」


虚を突かれたエリシアは、すぐさま剣を鞘に納めた。


左手は柄を握ったまま、右手を胸に添え、片膝を地につく。そして目を閉じて何かを唱え始める。




「諦めたか……いや、あの構え……見せてもらおう」


影の声が響いた次の瞬間、刃が襲いかかる。


いくつもの斬撃が頭上や脇をかすめ、空気が裂ける音が鳴り響いた。


(これって……アニメでよく見る“詰んだ”展開だよな)


(俺の人生……ここで終わるのか?)


(いや、まだやり残したこと山ほどあるだろ……!)


(彼女もいないし、ムフフな青春も……! くそ、走馬灯、止まれ!)




死を覚悟しかけたそのとき、ふと気づいた。


(……あれ? 何発も来てるのに、俺……無傷?)


(狙われてるのは間違いない……じゃあ、なぜ)




俺は振り返った。




──そこにいたのは、血に染まったエリシアだった。




彼女は、先ほどと変わらぬ姿勢で呟き続けていた。

だが、肩や脚、脇腹からは赤い血が滲み、心臓の鼓動に合わせて血が噴き出している。


足元には、鮮やかな血だまり。



(……全部、俺を庇って……)



「おい! 大丈夫か!?」



声をかけるも、反応はない。


(とにかく、血を止めないと……)


そう思うが、何かを続けている彼女を止めることができず、俺はただ見守るしかなかった。




──そして、呟きが止まる。




刃が地面を抉る音だけが残る。


(まさか……死んだ……?)


絶望に飲まれかけたその時だった。




エリシアの身体と剣が、金色に輝いた。




その光が周囲を包み込む。


刃が触れた瞬間、すべてが霧散した。


「レオ、伏せていろ!」

「それと……目を閉じないと、目が潰れるぞ?」


(なぜ疑問形なんだよ……)




ツッコミつつ、言われたとおり姿勢を低くし、目を閉じる。


数十秒後、眩しい光が空へと伸びていった。


半径200メートルにも及ぶ光柱が立ち昇り、やがてエリシアの元に収斂する。




「もう、目を開けて良いぞ」





彼女の声に目を開け、立ち上がる。


そこには、変わり果てた影の姿があった。



体は小さく、揺らぎも少ない。

だが、放たれる気迫はそれまで以上。



影とエリシア、再び交錯する視線。


次の瞬間、影が右へ高速で移動。



エリシアが即座に反応し、進路を塞ぐ。


炸裂音、衝撃波。



「今!!!」



エリシアがレイピアを閃かせ、正確な突きを繰り出す。


だが、影はその輪郭を歪めて回避する。


「チッ、賢しいマネを……!」



わずかに眉をひそめるエリシア。



「これなら!」



剣に光が灯る。


炎のように揺らめく光が刀身を包み、エリシアが一気に踏み込む。


「はぁぁっ!」




光の刃が影の胴を捉え、黒い靄が溢れ出した。


「……なるほど、これが“次元の鍵の力”か」


低く響く声が空間を満たす。




エリシアは一歩引いて再び構え直す。


爆散した地点から少し離れた場所に、影が再び形を成していた。


「レオ、よく見ておけ。この戦いは、お前にも無関係じゃない」


(どういう意味だよ……)




寸刻の沈黙。


影がエリシアを見据えたまま、微かに笑みを浮かべて言った。


「なるほど、やはりその力は厄介だな」


まるで、すべて知っていたかのように。




「なぜ、この少年を狙う!」


エリシアの問いに、影は微笑を浮かべながら言った。


「それを一番理解しているのは、お前自身だろう?」



その言葉が耳に残る。

ぞわりと背筋を這い上がるような感覚が、思考の隙間に染み込んでくる。


(……何だよ、今の言い方。どういう意味だ?)



胸の奥がざわつく。まるで、自分自身すら知らない“何か”を暗示されたような……そんな得体の知れない不安が、じわじわと広がっていく。




そして──霧散。


「──チッ」




再び訪れる静寂。



「今の……何だったんだ……?」


俺の問いに、エリシアは深く息をついて振り返る。


「戦いは、まだ終わっていない。これは……始まりに過ぎない」



静かに剣を鞘に収める。



「そうか、わかった──とはならないよな!」

「さっきのアイツ、明らかに俺を狙ってたよな!?」

「てか、傷……大丈夫か? あと、日本語うますぎだろ!」

「そもそも! なんで俺の名前知ってるんだよ!」


エリシアは、やれやれといった表情で眉間を押さえた。


「レオ、初対面の女子を質問攻めにするとは……少々配慮が足りないのでは?」


「いや、アンタも俺にタメ口じゃん!」



「私は“アンタ”ではない。“エリシア・セラフィエル”だ。次からはそう呼んでくれ」


「いきなり名前でって……」


「なら“エリシア様”でも構わん。私はあまり距離を取られるのは好まないがな」


「……エリシア、でいいよ。てか、なんでそんな偉そうなんだ?」



「私は貴族であり、とある国の騎士団長だからな。職業病のようなものだ」


「それと、傷の心配は無用。神の加護を受けている私の体は、魂さえ無事なら再生する」



──そう語りながら、彼女の声が徐々に小さくなる。



「ただ、スタミナを……消耗……し……て……」


「うわっ、ちょっ、大丈夫か!?」



彼女が膝から崩れ落ちるのを、俺は慌てて支えた。




「すぅー……すぅ……」


(……寝てる)




あれだけの激闘の後なら、無理もない。


心配になって傷を確認するが、血は止まり、穴も塞がれていた。


まるで……最初から何もなかったかのように。



(放置は無理だろ……でも、家に連れて帰ったら母さんにどう言えば)



制服のまま、ボロボロの金髪美少女を背負って帰宅する自分を想像して、頭を抱える。



(戦いは“始まり”って言ってたな……)

(彼女は何者なんだ。なぜ俺を守った?)



聞きたいことは山ほどある。


──俺は、エリシアを背負い、家路についた。


第一話はこれで終了です。

次回は閑話です。

第二話の導入にあたる部分ですが、束の間の平和とオフの時のエリシアを書きました。

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