ep1「序章」
この物語は、ごく普通の高校生のレオが、ある日を境に非日常へと巻き込まれる物語です。
異世界の影響が日常に忍び寄り、現実と非現実の境界が揺らぎ始める。
何も知らずに生きていた少年は、やがて“次元の鍵”として選ばれ、運命を背負うことになります。
この世界は、日常の中に異変が溶け込んでいく——そんな物語の入り口。
未知の空が裂けたとき、彼の運命はどう動くのか。
その幕開けを、一緒に覗いてみてください。
朝の光が、東京の街を静かに照らし始めていた。
高層ビルの窓ガラスが太陽を反射し、無数の光が空中で揺らめく。
駅へ急ぐスーツ姿の人々。
遠くで鳴るクラクション。
アスファルトに跳ね返る朝の熱気が、街の鼓動を告げていた。
その空は、雲ひとつない青。
——見慣れた日常の始まりだった。
井上レオは、アラームを手探りで止めると、
そのまま布団にくるまり、背中を丸めた。
カーテンの隙間から射し込む光が、瞼にじんわりと染みてくる。
「……あと5分……」
昨日の夜更かしが尾を引いている。
SNSをだらだらと眺めていたはずが、気づけば深夜。
そこから動画に手を出したのが致命的だった。
“あと一本だけ”——
そうつぶやいた瞬間、時間は奪われていた。
「はぁ……今日も学校か……」
ため息を吐き、布団を蹴飛ばす。
起き上がる動作すら、鉛のように重かった。
手ぐしで乱れた髪を整え、制服に袖を通す。
鏡に映る顔は冴えず、無言のまま視線を逸らす。
キッチンからは朝食の香ばしい匂いが漂ってくる。
けれど、食欲は湧かない。
「レオーッ、ごはんできてるわよー!」
壁越しの母の声に、思わず片眉をひそめる。
パンを一枚つかみ、鞄を背負って玄関へ向かう。
もっと早く起きれば、朝食の時間くらい取れる。
それは分かってる。だけど——
分かってるだけじゃ、人間は変われない。
スマホを確認すると、時刻は7時55分。
「ヤバ……遅刻だ!」
靴をつっかけ、自転車に飛び乗る。
朝の光が真正面から差し込み、目が痛む。
涙が滲み、視界がぼやけた。
(……なぜ学校は、太陽の向こう側にあるんだ)
苦笑交じりの嘆きが、心の中で転がる。
通学路では、大学生たちがゆったりと歩いていた。
スマホを操作しながら、あるいは友人と笑いながら。
その余裕のある歩調が、焦るレオの心に刺さる。
「こんな時に限って、みんなトロトロ歩いてやがる……」
苛立ちとともに、ペダルを強く踏み込む。
信号待ちのあいだ、ふと顔を上げると——
空が、違って見えた。
澄んだ青空のはずなのに、息が詰まるような重さがある。
目に見えない何かが、空気の中でわずかに軋んでいるような気がした。
(気のせい、だよな……)
曖昧な不安を振り払い、視線を戻す。
学校に着いたのは、始業10分前。
汗が首筋を伝い、制服が背中に貼りつく。
身だしなみを整える暇もなく、教室へ飛び込んだ。
中では友人たちが談笑していた。
窓から注ぐ朝日が、机を柔らかく照らしている。
見慣れた、穏やかな教室の風景——
しかし。
胸の奥に、またしても違和感が湧いた。
今度は、胃のあたりにじわりと沈むような重さ。
(昨日のカップ麺のせいか? それともパンが古かった?)
(……いや、寝不足ってことにしておこう)
そんな自問自答を、ため息とともに押し出す。
けれど——
その違和感だけは、消えてはくれなかった。
「おはよう、レオ!」
「ああ……おはよう」
挨拶を返しながら、ぎこちなく手を上げる。
普段なら軽口のひとつも交わすのに、今日は言葉が出てこなかった。
授業が始まり、先生が黒板に数式を書き始める。
レオの意識は、開始と同時に窓の外へと逸れていった。
空に、奇妙な雲が浮かんでいる。
説明できない。けれど、何かが“違う”。
(寝不足のせい……なのか?)
気だるさとまどろみの隙間に、
言葉にならない違和感だけが、確かに残っていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
レオの違和感とは何でしょうね!
今後の展開では、異世界の影響がより色濃くなり、レオの選択が物語を大きく動かしていきます。
次回の話もぜひ楽しみにしていてください!




