副操縦士
「だがその前に、白猫とやらが悠木とどのような関係にあるのか話してもらえないか。疑いたくはないのだが、うちで預かる以上は聞いておかねばならない」と桐子。
「ぼくが話すよ。いいね、白猫」と悠木。
「はい、ご主人様」と白猫。
「白猫は、ぼくが兵器開発を始めたころからの仲間だ」と悠木。
「随分以前のことだな。たしか、当時『涙の魔術師』と呼ばれていたお前が、世界で一番早く戦争の準備に取りかかっていた。なぜそんなことができたのだ?」と桐子。
「最初に敵を察知したのは冥界の女王だよ。異常に気が付いて手下に調べさせた。それから敵の迎撃をぼくに依頼した」と悠木。
「そんな話を信じたのか?しかも、どんな敵かわからないのに」と桐子。
「冗談を言う人じゃないからね。ぼくに黒魚王の称号を与えて、全権をもつ代理人として地上に送り出したんだ」と悠木。
「随分気前がいいな」と桐子。
「ケチでもないし疑り深くもない。理想的な上司だ。今の扱いとはえらい違いだよ」と悠木。
「ごめんなさい」と瞳。
「姉さん、いちいち謝らないで。悠木、続けてくれ」と桐子。
「開発を始めた戦闘機の副操縦士として、白猫をスカウトしたんだ。なにしろ、古今東西、白猫は無敵の戦闘能力を誇っていたからね」と悠木。
「なるほど。だが、化け猫に戦闘機のパイロットが務まるのか?」と桐子。
「ああ、従来の戦闘機とは全くコンセプトが違うからね」と悠木。
「フォックス戦闘機のことか?」と桐子。
「そうだよ。神経を直接つないで操縦するんだ。体の一部としてね」と悠木。
「それは知っている。だけどなぜ白猫を?」と桐子。
「ひとりでは負担が大きいから、二人で操るんだ。白猫が操縦してぼくが武器をあつかう」と悠木。
「フォックスは単座だが」と桐子。
「それは量産型だ。オリジナルは複座なんだ。量産型は副操縦士の機能を人工知能に置き換えてるんだ」と悠木。
「あれは人工知能なのか?どうしても解析できないのだが」と桐子。
「人工知能というか、白猫の意識をそのまま移植した処理系だよ。しかも、もともと積んでいた基本動作の処理を行う人工知能と統合されてるから、外部から調べても解析は不可能だね」と悠木。
「化け猫の意識を埋め込むなんて奇想天外だな。すべてのフォックスのベースは化け猫なのか?」と桐子。
「フォックス2型が白猫で、1型は違う」と悠木。
「1型は誰だ?興味がある」と桐子。
「名前の通りだよ」と悠木。
「あのキツネか。今でもフォックス社のCEOだよ。それでフォックス1型が攻撃機でフォックス2型が戦闘機なのか。言われてみれば、似たような性能なのに、振る舞いがまるで違う理由がわかる。1型の人を惑わすような振る舞いは妖狐のものだったのか。納得した」と桐子。
「兵器オタクのために話してるのではないのだが」と悠木。
「少しぐらい教えてくれてもいいだろう。軍の戦闘機では、まるで歯が立たない理由がわかった。ありがとう」と桐子。
「猿やイルカの脳を積んでるような連中とは次元が違うよ」と悠木。
「それで、量産型の開発の後、白猫はどうなった?」と桐子。
「もちろん、副操縦士だよ。2型オリジナルの」と悠木。
「お前は前線で複座に乗ってなかっただろう」と桐子。
「ああ、前線は危険だからね。白猫とのテスト飛行でデータを蓄積して、量産型の人工知能をバージョンアップしてたんだよ」と悠木。
「1型も?」と桐子。
「そうだよ。この方法だと永久に改良できるだろ」と悠木。
「合理的だな。あるいは白猫を死なせたくなかったからか?」と桐子。
「両方だよ」と悠木。
「それで、お前が死んだ後、どうなった?白猫は石になって、妖狐は社長にとどまった。何が運命を分けたのか?」
「白猫は人見知りがひどいからパイロットに専念していたけれど、リコは経営者を兼ねていた。終戦時、白猫は軍に協力を強制されて逃げ出したが、リコはうまく立ち回って会社を存続させた」と悠木。
「なるほどね。それで病院を抜け出したお前は、石に閉じ込められた白猫を助け出したのか」と桐子。
「そういうことだ。これでいいかな」と悠木。