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泣き虫魔術師
「そうね」と姫。「聞いてあげるわ。でもその前にあなたの目を見せなさい。」
笹塚はおどろいて女の顔を見た。
「嘘をつくつもりはない」と笹塚。
「そうじゃないわ。あなた、さっきまで泣いていた顔をしてるわ。泣き虫魔術師さん」と姫。「あなた、また誰かにいじめられたのね。」
「ぼくは泣き虫じゃないし、魔術師なんかじゃないよ」と笹塚。
「あら、そっちが気になるの?いじめられたのは本当なのね」と女は意地悪く笑った。
「いじめられてもいない」と笹塚。
「目を見せなさい」と女は笹塚に覆いかぶさるようにして顔を近づけ、目の奥を覗き込んだ。
「何も見えない」と女は驚いた顔をした。「だけど、あなたに悪意がないことはわかったわ。」
「いろいろ事情があったんだ」と笹塚。
「なるほど、わかったわ」と女。「あなたは悪い女に捕まったのね。それでひどい目に合ったのでしょう。」
「まあ、そういうことはあった」と笹塚。「だが、それは本題ではないんだ。」




