桐子
再びリリスの家のドアが叩かれた。リリスがドアを開けると、軍の正装をした背の高い女が立っていた。
「家にお邪魔させてもらえないだろうか?」と軍服の女が言った。
「どなた?」とリリスが言った。
「伊沢桐子というものだ」と女。
「入れてあげてちょうだい。私の妹なの」と瞳。
「地之神……」とリリスがつぶやいた。
「天之神と地之神が姉妹になって悪い理由があるのかしら」と瞳。
「いいえ、でも聞いたことがなくて……。どうも初めまして」とリリスが頭を下げた。
「あなたがリリス殿か。この度は悠木がお世話になったようだ。姉として礼を言わせてほしい」と桐子はリリスの手を握った。
「それほどのことをしておりません」とリリス。
「何を言う。悠木が機嫌よく暮らしているというではないか」と桐子。
「はあ」とリリス。
「悠木のことをよく知りたいのだ。私たちは姉失格だからな」と桐子。
「白猫、あなたも来たの?」とリリス。
「彼女が外出したところで、ご同行願ったのだ」と桐子。
「あなたが白猫さん?」と瞳。
「はい」と白猫。
「あなたが悠木のお嫁さんなのね」と瞳。
「滅相もございません。私は下僕にすぎません。主人にお仕えしているだけでございます」と白猫。
「悠木の世話をしてくれているのだろう。礼を言う」と桐子。
「そんな」と白猫。
「悠木には添い寝をしてくれているのかしら。あの子、こましゃくれてるくせに、さびしがり屋だから」と瞳。
「はい。お主人様は寒がりなので、温めて差し上げているのです」と白猫。
「あなたの姿が悠木の好みなのね。ちょっと勉強になるわ」と瞳。
「そなたには申し訳ないが、人質の役をしてもらう。もちろん悪いようにはしない」と白猫。
「主人に何かなさるのですか?」と瞳。
「悠木に家に帰って来てもらいたいのだ。その説得に私たちは来た」と桐子。
「主人は逃げてきたと言っておりました」と白猫。
「誤解なのよ。悠木とちゃんと話をしたいの」と瞳。
「また逃げるのではないでしょうか」と白猫。
「悠木はそなたを置いて逃げたりはしない」と桐子。
「そうでしょうか?」と白猫。
「そうよ。それだけはあり得ないわ」とリリス。