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 悠木と白猫が魔女に保護されてから三日後の朝、魔女の家のドアを叩くものがいた。


「はい」と魔女はドアを開けた。そこには正装をした男が立っていた。


「お久しぶりでございます、リリス様」と男は恭しく礼をした。


「碧の騎士筆頭のあなたが、どうしてここに?」と魔女。


「至急お伝えしなければならぬ要件があり、参上いたしました」と碧の騎士。


「女王様の使いなの?」と魔女。


「いいえ。ですが御身に重要な情報をお持ち致しました。程なくここに女が参ります。決して逆らわれませんように」と碧の騎士。


「どういうこと?」と魔女。


「どうかご無事で」と碧の騎士は言い残して立ち去った。



 しばらくして、また魔女の家のドアを叩く音がした。魔女がドアを開けた。優雅な薄紫色のドレスを着た女が立っていた。ふくよかな体をして、長い髪を背中に垂らしている。


「突然で申し訳ないけれど、聞きたいことがあるの」と女。


「どなた?」と魔女。


「天野瞳というものよ。弟を探しているの。悠木という名前の、体が小さくて障害がある子なのだけど。心当たりがないかしら」と女。


「ないと言ったら?」と魔女。


「あなたは親切な方だと伺ったわ。一応筋を通したつもりだけど」と瞳。


「悠木の居場所をすでに知っているのでしょ」と魔女。


「もちろんよ。だけど知りたいのはそんなことじゃないの」と瞳。


「なにかしら?」と魔女。


「あなたの名前を教えて下さらない?」と瞳。


「リリスよ」と魔女。


「あの誘惑のリリスね」と瞳。


「そうよ」とリリス。


「リリスと呼ばせてもらうわ」と瞳。


「どうぞ、天野さん」とリリス。


「瞳でいいわよ。中に入れてもらえないかしら、ゆっくりお話がしたいの、リリス」と瞳。


「どうぞ」とリリス。「神様がこのような薄汚れた魔女の家に、どのようなご用件でいらしたのでしょうか。」


「あら、私のこと、気が付いていたのね」と瞳。


「もちろんです」とリリス。


「悠木から聞いていたの?」と瞳。


「いいえ。見ればわかります」とリリス。


「そう。外にもいるのよ」と瞳。


「ええ。この辺りには似つかわない高位の神霊が何体かいます。あなたの護衛ですか?」とリリス。


「どうしてもって、ついてきちゃうのよ。あなたには一人で会いたいって言ったのだけど」と瞳。


「魔女の家の玄関先で神の化身がたむろするなんて、シュールだわ」とリリス。


「あなたって面白い人ね」と瞳。


「そうかしら。そろそろ本題に入っていただけないでしょうか。天を統べる女神様」とリリス。


「そんな呼び方はよして、瞳でいいわよ」と瞳。


「畏れ多くて無理でございます。女神様、どうかご容赦のほどを」とリリス。


「仕方ないわね。でもあなたと仲良くしたいというのは本当なのよ」と瞳。


「ありがたき幸せにございます。それで某に御用とは何でございましょう?」とリリス。


「お礼を言いたかったの。悠木を助けてくださって、どうもありがとう。本当に感謝しているわ」と瞳。


「いいえ、そんな褒められるようなことは何もしておりません」とリリス。


「ここで匿ってくれたのでしょう。手当をしてくれて、あの子が喜びそうな隠れ家を用意してくれて」と瞳。


「そんな……」とリリス。


「あの子がいなくなったとき、あの子が自殺するんじゃないかって、そればかりが心配だったの。あなたが保護してくれなければ、あの子は生きていなかったわ」と瞳。


「あの人は、あなた達から逃げて来たのではないのですか。匿った私が褒められるなんて……」とリリス。


「あの子は死ぬつもりで病院を出たはずよ。雨の降る寒い夜中に。だけど古い知り合いのあなたに出会って保護された。あなたには感謝しかないわ」と瞳。


「身に余る光栄です、女神様」とリリス。


「あなたにお願いしたいことがあるの」と瞳。


「どのようなことでしょうか?」とリリス。


「家に帰るように、悠木を説得するのを手伝ってほしいの」と瞳。


「それは無理でございます」とリリス。


「お願い」と瞳。


「あの人は人の言うことなんて聞きません。自分のやりたいようにする人ですよ」とリリス。


「だから手伝ってほしいのよ。あの子は友達の言うことなら聞くかもしれないわ。お願いよ」と瞳。


「でも、そうまでして、なぜあの人を連れて帰ろうとするのですか?あの人は今の場所が気に入っている、と言っております」とリリス。


「そうはいかないのよ。今、あの子に死なれたら大変なことになるわ。あなた、あの子がどんな働きをしたか知っているのでしょう」と瞳。


「でも仕事はもう終わったと」とリリス。


「そんなわけないわよ。まだ敵がいつ攻めてくるかわからないのよ」と瞳。


「それは軍の仕事だと」とリリス。


「軍がいればそうしているわ」と瞳。


「どういうことでしょうか?」とリリス。


「今回の戦いで全滅してるのよ。外惑星艦隊は残存艦艇ゼロ、月艦隊と地球圏艦隊は動ける艦艇が数隻のみよ。後は大気圏防空隊の小艦艇があるだけ。報道が規制されてて、今は敵を殲滅したことだけを伝えてるの」と瞳。


「前線が後退したと聞いてました」とリリス。


「下がる間もなく殲滅されたの。小惑星砲台すら残ってないのよ」と瞳。


「そんな」とリリス。


「悠木の前線への到着があと数時間遅れていたら、大気圏にも影響があったはずよ」と瞳。


「ひどい……」とリリス。


「だから手伝ってほしいの。悠木を説得するのよ」と瞳。


「ですが私ごときものが、あの方を説得なんて」とリリス。


「これは私だけの頼みではないわ。あなたにとっての大義名分もあるのよ。入りなさい」と瞳。


「碧の騎士……」とリリス。


「伝令のもの、そなたの主からこのリリスさんに言付かってきたことがあるのでしょ」と瞳。


「は、恐れながら申し上げます。女王陛下よりリリス子爵閣下にお伝えの議がございます。王にこの世の安寧の維持を進言せよ、とのことでございます」と碧の騎士。


「女王様が……わたくしに勅命……」と思わずリリスはつぶやいた。うそでしょう?だけど、この言葉の響きは女王様のものに違いない。となれば……、と心の中でさらにつぶやいた。「碧の騎士よ、女王陛下様に承りました、とお伝え頂きたい」とリリス。


「碧の騎士とやら、ご苦労でした。下がってよい」と瞳。


 跪いていた碧の騎士は素早く立ち上がって姿を消した。


「よかったわ。手伝ってくれるのね、リリス」と瞳。


「及ばずながら、お役にたちとうございます。女神様」とリリス。


「女神さまはやめて、瞳と呼んでちょうだい。言葉づかいも普通にして。悠木の前で私にかしずいたら許さないから」と瞳。


「わかりました、瞳様」とリリス。


「まあいいわ。ところであなた、爵位をお持ちなのに、こんなところに住んでいるのね。いかにも悠木と気が合いそうだわ」とリリス。


「恐れ入ります」とリリス。


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