参入儀式
「私たちが、魔女になるのですか?」と恵子。
「そうだ、明日の儀式は貴殿たちを魔女として生まれ変わらせるためのものだ」とリリス。「再誕の儀式という。」
「魔女になることが可能なのでしょうか?」と恵子。
「そのために私が来た。」とリリス。「準備はすでに整っている。ただし、貴殿らが希望すればのことだが。」
「どのような儀式なのでしょうか?」と恵子。
「名付け親を通して魔女の組織に入会してもらう。その際に、上級の魔女に顔を覚えてもらう。以後は組織の庇護を受けることができる。」とリリス。
「要は入会儀式ということでしょうか?」と恵子。
「その通りだ」とリリス。
「名付け親は大佐殿になっていただくのでしょうか?」と恵子。
「それは涙の魔術師の役だ」とリリス。「私は貴殿たちのことを知らないので、名付け親にはなれない。」
「庇護を受けるとは、具体的にはどのような内容でしょうか?」と恵子。
「これまで話したように、魔女は冥界に属する。つまり冥界の女王の傘下となる」とリリス。「さしあたってフォックス重工の支援を直接受けられる。それから、上級魔女の指導を受けることになる。」
「それは防空隊の命令系統に干渉しないでしょうか?」と恵子。
「それはないと聞いている」とリリス。
瑠璃子がおもむろに立ち上がった。
「あなたたちが魔女になってくれたら、私は艦隊司令の任をリリス大佐と交代するのよ」と瑠璃子。「それから、瞳中佐と桐子少佐も任を降りるわ。私たちは四人に分裂したうちの二人の悠木君のお世話に専念するから。」
一同は動揺した。「そんなの突然すぎます!」と綾子。
「そんなに慌てないで」と瑠璃子。「ちゃんと引継ぎには時間をかけるから、すぐのお別れにはならないわ。」
「ですが、残念です。とてもお慕いしておりました」と恵子。
「ありがとう。とてもうれしいわ」と瑠璃子。「朝風であなたたちと過ごした半年間は、私にとってかけがえのない貴重な充実した日々でした。ですがあなたたちには地球の未来がかかっています。私のような素人ではなく、優秀な指導者が必要なのです。」
「私たちには艦長がいます」と恵子。
「この艦の悠木少佐は、第二次特別攻撃の任に着きます」と瑠璃子。「次の作戦の準備のため、悠木君は私たちと艦を降りる予定です。その後はあなたが艦長よ。」
恵子は息をのんだ。
そして、一同は呆然とした。一番端にいた孝子が手をあげた。
「私も魔女になる資格があるということでしょうか?」と孝子。
「もちろんよ」と瑠璃子。「なぜそんなことを聞くの?」
「私は人質としてこの艦にいます」と孝子。「そんな私でもよいのでしょうか?」
「あなたは人質などではありませんよ」と瑠璃子。
「そんなはずはありません!」と孝子。「みな知っているはずです。私が佐々木中将の娘であることを。」
瑠璃子は困った顔をした。
「君たちはどちらかと言えば、供物とか生贄に近い立場だ」とリリス。
一同は驚いた顔をリリスに向けた。
「涙の魔術師は、人質を取るなんて面倒なことはしない」とリリス。「彼の性格を君たちも知っているはずだろう。迷惑がるだけだ。」
それもそうだという顔をした。
「この艦を運用するだけなら、涙の魔術師一人で可能だ」とリリス。「奇跡の防衛戦でしたように。」
「ですが、供物とはどういう意味でしょうか?」と孝子。
「涙の魔術師様の機嫌を取るために、君たちを乗船させたのだろう」とリリス。「おそらく防空隊か、もっと上のほうが仕組んだことだと思う。」
「私は艦長の機嫌を取ったことなど一度もありません!」と孝子。
「もちろんそうだろうと思う」とリリス。「涙の魔術師はあからさまな媚びを嫌う。それ以上に気難しい気分屋として知られている。そんな彼に上機嫌で仕事をさせているのだ。地球での君たちの評価はすこぶる高い。私も実際にこの目で見て驚いている。」
「君たちは気難しい神様に仕える巫女として選ばれたのだよ。そして予想以上にその仕事をうまくこなしたのだ」と言って、リリスはフフフと笑った。




