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特務大佐

 朝風がラグランジュフォー拠点基地に到着して一週間がたった。乗組員たちは基地内で検査を受けたり、式典に参加したりしてあわただしく過ごした。ようやく朝風の士官全員が一日間の休暇を取ることができたので、瑠璃子は居住区にある将官用の集会所に主なメンバーを呼び出した。


 天井が高く大きな窓のあるラウンジに、朝風の士官と艦隊司令の瑠璃子と参謀の瞳が顔をそろえた。瑠璃子と瞳を中心に、朝風の士官が思い思いに瀟洒な椅子やソファーに腰を掛けていた。


 瑠璃子はバーカウンターの前に立って「皆さん、集まってくれてありがとう。これからあなた達に大事な相談があるの。明日の艦長が主催する皆さんの慰労式典に関することよ」と言った。


 士官たちが瑠璃子とその隣に立つ瞳に注目した。


「明日の式典の参加は任意ですがが、ここにいるメンバー全員に出席してもらいたいと考えています」と瑠璃子。


「悠木艦長がいないようですが」と恵子。


「ファレン女史とどこかにしけこんでるのよ。あれから宿舎にも帰ってないの」瞳。


「家出したわけじゃないから、心配ないわよ」と瑠璃子。「明日の式典までに戻るって言ってたじゃない。」


「姉として心配してるのよ」と瞳。


「今は仕事の打ち合わせ中よ」と瑠璃子。「集中して。」


「わかったわ」と瞳。


 桐子が一人の女性を伴ってラウンジに入った。「リリスさんをお連れしたわ」と言いながらカウンターバーに向かった。「会議向きの部屋じゃないわね」とつぶやいた。


「お待ちしていました」と瑠璃子。「またお会いできてうれしいわ」とリリスに手を出した。


「こちらこそ、またお会いできて光栄です、瑠璃子殿下」とリリスは幅広の帽子を脱ぎ手を握った。


「瑠璃子でいいわ。そしてあなたのことをリリスと呼ばせて」と瑠璃子。


「リリスと呼んで頂くのは結構なのですが、殿下を呼び捨てにすることはできません。瑠璃子様と呼ばせていただけないでしょうか」とリリス。


「わかったわ、今はそれでいいわ。リリス」と瑠璃子。


「また会えてうれしいわ、リリス」と瞳。


「こちらこそ、またご一緒できてうれしく思います、瞳様」とリリス。「ところで、悠木は?」


「昨日、リコ・ファレンに会せたら、そのままどこかへ行ってしまったの」と瞳。「会せるんじゃなかったわ。」


 リリスは、少し困った表情をした。「それで、このお嬢様方が対象者でしょうか」とリリス。


「そうなの」と瑠璃子。「だけどまだ明日の式典のことを話してないの。あなたのことも。」


「まずあなたに彼女たちを紹介するわ」と瑠璃子。


「みなさん、重要な話をしますので、こちらに整列してもらえないかしら」と瑠璃子。


 八人の若い士官たちはすばやく横一列に並んだ。


「この方は、一条リリス特務大佐です」と瑠璃子はリリスを紹介した。「明日の式典にゲストとして出席されます。」


 士官たちは階級を聞いて緊張した表情になった。


「一条大佐は現役の軍人ではありませんが、第一次防衛戦争で大きな武勲をあげておられます」と瑠璃子。「失礼の無いように。」


 士官たちは、鮮やかな赤色のダッフルコートを着た若い女性が一次戦争の退役軍人と聞いて驚いた顔をした。


「まだなにも話していないのですか?」とリリスは意外な顔をした。


「だいぶ話したのだけど、時間がかかるのよ」と瞳。「ごめんなさい。少し自己紹介をしてもらえないかしら。」


「わかりました」とリリスは鋭い目を士官たちに向けた。「ただいま紹介に預かった一条リリスだ。肩書は大佐だが、今回の儀式参加のための一時的なものだ。一応軍歴についてだが、第一次防衛戦争で火星周回軌道での防衛任務に就いていた。終結時に諸事情あって戦線を離れた。」


「リリス、涙の魔術師暗殺の話はしてあるから」と瞳が口を挟んだ。リリスが軽く頷いた。


「涙の魔術師暗殺の後に始まった魔女狩りを逃れるために、私は戦線を離脱した。」とリリス。「それ以降、身を隠していた……。ああ、何を話していいのだろうか」とつぶやいて瞳の顔を見た。


「はい」と恵子が手をあげた。


「どうぞ」とリリス。


「一条大佐が魔女狩りを逃れたということは、大佐は魔女であられるのでしょうか?」と恵子。


「ああ、そうだが、聞いてなかったのか?」とリリス。


「ごめんなさい」と言ってから瞳は士官たちに向かって言った。「一条大佐は著名な魔女です。誘惑のリリスよ。みんな名前くらい知ってるでしょ。」


 士官たちはひっと声をあげた。「火星軌道の魔女……、実在したのですか……」と恵子。


「リリス、ごめんなさい。後は私が話すわ」と瞳。リリスは後ろに下がった。瑠璃子に促されて、背もたれの無いカウンターの椅子に士官たちに向かって座った。


「涙の魔術師暗殺以来、魔女の存在も公式の記録から消されたの」と瞳。「だから噂しか残ってないけど、誘惑のリリスの話はほとんど事実よ。現在では名誉を回復されて、特務大佐としての任について頂いているの。」


 士官たちは緊張に耐えられないという表情になった。


 瑠璃子がバーカウンターの椅子から立ち上がって言った。「あなたたち、椅子を持ってきて座りなさい。」


 士官たちは動かせそうな椅子を持ってきて一列に並べた。


「大佐殿や司令の分も持ってきて丸く並べるんだ」と桐子。「ここは会議に向いてないよ。」


「仕方ないでしょ。将官用の施設がここしか空いてなかったのよ」と瑠璃子。


「この調子で話していては、明日に間に合わないのではないでしょうか」とリリス。


「そうね、この子たちに好きなように質問させてもいいかしら」と瑠璃子。


「もちろんかまいません」とリリス。


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