悠木
「わたし、女王様にすぐ連絡を取るわ。あなたはしかるべき保護が受けられるはずよ」と魔女が言った。
「やめてくれ。これは女王も了解していることなんだ」と子供。
「どういうこと?」と魔女。
「言えないよ。君が咎を受ける」と子供。
「気にしないわ。このまま女王様とあなたに不義理をするくらいなら、咎を受けた方がましよ」と魔女。
「神々がすべて了解しているんだ。女王と彼女の世界も含めて」と子供。
「意味がわからないわ」と魔女。
「この世界を守るために、一時的で特別な措置なんだ」と子供。
「概要だけでも教えて。でないと女王様に伝えるわ」と魔女。
「また攻めてきた異星生物どもを蹴散らすためだよ。軍の連中が役に立たないから、ぼくが呼び出されたんだ」と子供。
「裏切り者のあなたを?」と魔女。
「ぼくは裏切ってなんかいないよ。危険人物として消されただけだ。だけどまた必要だからって……」と子供。
「それって、神々の依頼ってこと?」と魔女。
「ちがうよ、命令だよ。断ったのに」と子供。
「断ったの?神々の依頼を」と魔女。
「当たり前だろ。なんでぼくを後ろから撃った連中を助けなきゃいけないんだ。理不尽も甚だしい」と子供。
「その割には、ひどい体ね。神々の加護は受けられなかったの?」と魔女。
「もう、仕事は終わったんだ。先週奴らを撃退したからね」と子供。
「奇跡の防衛戦のこと?」と魔女。
「何が奇跡なんだか。とにかく、もう連中とは関係ないんだ」と子供。
「それで、神々とも社会ともつながりのない白猫を頼ったのね」と魔女。
「ああ、ぼくを無条件で受け入れてくれる優しい女性は他にいない」と子供。
「そして死ぬつもりだった?」と魔女。
「そう、彼女の胸の中でね」と子供。
「少しだけ事情は分かったわ。だけど本当のことだとしたら、私には手におえないわ」と子供。
「だから、知らないふりをしてくれればいいんだ。感謝しているけど、これ以上関わってほしくないんだ」と子供。
「そうなの。じゃあ、あなたたちを拾った親子として面倒を見てあげるわ。それならいいでしょ」と魔女。
「うん、まあ」と子供。
「私がご主人様と親子だなんて、畏れ多いことです」と白猫。
「女と子供が家来とご主人様なんて怪しまれますわ」とトカゲ。
「そうよ、母親と息子ということになさい。住むところを探してあげるから」と魔女。
「ありがとう。申し訳ないな」と子供。
「申し訳ないのはこっちの方よ。こんなことしかできなくて」と魔女。
「とんでもない。ぼくは白猫と過ごせる場所があればそれで十分だ。感謝する」と子供。
「ご主人様、私はうれしゅうございます」と白猫。
「思う存分甘えるからね。白猫」と子供。
「はい、ご主人様」と白猫。
「それからご主人様っていうのはやめてくれ。これからは親子なんだから、悠木って呼んでよ」と子供。
「はい、ご主人様」と白猫。
「だめだって。悠木ってよぶんだ」と悠木。
「はい、悠木様」と白猫。
「悠木だよ。子供に様なんてつけないだろ」と悠木。
「悠木」と白猫。
「お母さん」と悠木。
「ほほえましいわ」と魔女。
「白猫が母親だなんて笑ってしまいますわ」とトカゲ。
「君たちも悠木で頼むよ」と白猫。
「わかったわ、悠木。かわいい名前を付けられたのね」と魔女。
「そうかな……」と悠木。