魔術師
翌朝、子供が目を覚ました。魔女は子供を椅子に座らせて温かいお茶を飲ませた。
「助けてくれて、ありがとう。礼を言う」と子供。
「あなた、白猫の主人なの?」と魔女。
「まあ一応」と子供。
「白猫とはどのようなご関係?」と魔女。
「古い知り合いなんだ」と子供。
「あなた、子供でしょ。古い知り合いなんて変よ」と魔女。
「他に表現のしようがない」と子供。
「転生したの?」と魔女。
「まあ」と子供。
「だれなの?」と魔女。
「あんたは命を助けてくれた恩人だけど、それは言えない。聞けばあんたが咎を受ける」と子供。
「そんな事気にしないわよ」と魔女。
「神々に逆らうと面倒くさいよ。ぼくは嫌だな」と子供。
「でも想像つきますわ。囚われた白猫を開放して主人になれる術者なんて、そう多くないですもの」とトカゲ。
「そうかい?」と子供。
「ええ。白猫を使い魔にした術者なんてそういませんわ。わたくしが知る限り、この百年は使い魔になってませんわ」とトカゲ。
「そうね。野良猫として好き放題してたわね」と魔女。
「飲んで食べて盛ってましたわ」とトカゲ。
「ひどい言われようだな」と子供。
「怒ってるの?」と魔女。
「そうじゃないけど、ちょっとかわいそうかな」と子供。
「白猫をかばう人間なんて初めて見ましたわ」とトカゲ。
「結構かわいいと思うんだけど」と子供。
「白猫がかわいいだなんて、変わってるのね。だから白猫をこんな体にしたの?」と魔女。
「そうだよ。この姿の彼女に抱かれて死ぬことにしたんだ。助かったけどね」と子供。
「ロマンチックなことですこと。彼女って化け猫でしてよ」とトカゲ。
「もちろん知ってるよ。だけど、この世で唯一、ぼくが安心して頼れる相手だからね」と子供。
「白猫、あなたが人間に信頼されるなんて驚きですわ」とトカゲ。
「ご主人様、幸せでございます」と白猫は言って子供を抱きしめた。
「お熱いことで」とトカゲ。
「使い魔っていうよりは、愛人ね」と魔女。
「ぼくにとってはね」と子供。
「ああ、ご主人様、うれしゅうございます」と白猫。
「そういえば、白猫って先の大戦でどこにいたの?参戦したの?」と魔女。
「参戦はしませんでした。ですが、ある研究所でお手伝いをしておりました」と白猫。
「そうだったの。それで終戦後、逃げ出してきたのね」と魔女。
「はい」と白猫。
「なぜ逃げたりしたの。協力していたのなら、それなりの待遇が約束されていたでしょ」と魔女。
「ご主人様が戦死なされて」と白猫。
「え、この人は最近死んですぐ生まれ変わってるの?」と魔女。
「神の咎を受けるから、それ以上は」と子供。
「主人が戦死して、白猫が追われるってどういうことかしら。あなた、罪人になったの?」と魔女。
「それ以上は……」と子供。
「ご主人様は罪人などではありません。裏切られて・・・」と白猫。
「それ以上言ってはだめだ、白猫!」と子供。
「裏切りって、ひょっとして……」と魔女。
「裏切りの黒魔術師!」とトカゲ。
「そんな名前で呼ばれてるんだ。ひどいな……」と子供。
「あなた、涙の魔術師なの、ほんとうに……」と魔女。
「詮索しちゃだめだ。咎を受けるよ。」と子供。
「気にしないわ。あなた、人類を裏切ったことになってるわよ」と魔女。
「ご主人様は裏切りなどしておりません!」と白猫。
「あの、おとぼけ魔術師でして?」とトカゲ。
「だから、言えないって」と子供。
「あなたと会ってるわよね。覚えてないの?」と魔女。
「ぼろアパートだろ」と子供。
「そんな……。女王様はご存じなの、あなたがここにいることを」と魔女。
「おそらく知ってると思う。だけど連絡を取れないんだ。彼女にも迷惑をかけてしまうからね」と子供。
「でもきっと心配しておられるわ」と魔女。
「死んだらすぐに挨拶に行こうと思ってたんだ。予定外に助けられちゃったけど」と子供。
「私はあなたのおかげで女王様にお目通りしたのよ。それなのに今何もしないでいたら、私はひどい恩知らずってことになってしまう。女王様に対しても、あなたに対しても……」と魔女。
「ぼくと白猫を助けてくれたじゃないか。それで十分だよ。それにこのことは、この世の理から外れたことなんだ。関わっちゃいけないことなんだよ」と子供。
「だから死んで終わらせようとしたのね」と魔女。
「まあ、そうだね」と子供。
「白猫は余計なことをしたようですわ」とトカゲ。
「申し訳ありません」と白猫。
「白猫には、ぼくの側にいて責任を取ってもらうよ」と子供。
「なんという幸せでしょう!」と白猫。
「この人、まちがいなく、あのおとぼけ魔術師ですわ」とトカゲ。