虹色の光
朝風では第一種戦闘配置が発令されてから二十四時間が経った。夕霧との重力エンジンの接続作業が終わり、エンジンの調整作業が最終段階に入っていた。
悠木は、艦橋の奥まったところにある艦隊司令席の側に立った。
「昨日射出した六機の無人探査機からの重力歪みデータを解析した」と悠木。「半径三キロメートルの凸レンズ状のゲートだ。ゲートとしてはかなり大きいが、開けていられる時間はせいぜい四十秒程度だろう。」
「位置と出現時刻はわかるの?」と瑠璃子。
「すでに照準をゲート予測地点に向けている。兆候が表れてから約二十分後に開くはずだ。その間に主砲発射の準備ができる」と悠木。
「すばらしいわ!」と瑠璃子。
「ただし、それまで戦闘配置をとり続けなければならない」と悠木。
「そんなことは大した問題ではないわ」と瞳。
「だが乗員はかなり疲れているぞ」と悠木。
「艦のことは恵子に任せて、あなたは主砲の射撃準備に集中して」と瞳。
「あなたが一番疲れているように見えるわよ、悠木艦長」と瑠璃子。「少し艦長席で休んでちょうだい。」
「それから、宮崎中尉を艦橋に常駐させるから、撃った後のことは心配しないで」と瞳。
朝風の艦内に警報が鳴り響いた。
「異常な重力波を検出しました」とエリカ。
悠木はシートのリクライニングを戻して、艦長帽をかぶりなおした。「警報を止めてくれ。」
「主砲発射までの指示はオレが直接出す」と悠木。
「了解しました」と副艦長の恵子と機関長の舞が敬礼をした。
「全ホイールを回せ。回転数毎秒百で固定」と悠木。
「第一から第十二電磁ホイールすべて回転開始!」と舞。「回転数百で固定!」
「重力検波はじめ」と悠木。
「重力波信号をモニターに映します」とエリカ。
「各ホイールの回転数、微調整始めます!」と舞。
「中心重力核を推進原動機につなげ。異常がなければ、副重力核を順次接続」と悠木。
「中心重力核を推進原動機に接続完了!異常なし!副重力核に接続開始します!」と舞。「各ホイールによる自動重力制御開始します!」
「エネルギーレベルを確認しろ」と悠木。
「原動機レベルゲージ、六ポイント三五!」と舞。
「夕霧を合わせて一・八倍程度か。まあまあだな」と悠木。「重力レンズを稼働。」
「重力レンズを稼働します!」と舞。
「ビームの焦点を目標地点に合わせろ」と悠木。
「重力レンズの焦点を調整!シミュレーション結果を表示します」と舞。
「いいだろう」と悠木。「ゲートの半径は約三キロメートルだ。それに対して主砲の有効なビーム径は二キロメートルしかない。全範囲をビームで掃射できるようにゆっくりと艦首を振れ」と悠木。
「承知しました!」と航海士の綾子が敬礼をした。
「トリガーは磐田少尉が引け」と悠木。
「はい!」と砲雷長の早苗が敬礼をした。
「重力波の異常が顕著です!」とエリカ。
「そろそろゲートが開くか」と悠木。「ゲートが開いていられるのは長くても一分だ。密集して侵入してくるはずだ。まとめて焼き尽くす。時間が余れば、ゲート内部の構造物にも攻撃を加える。総員、ぬかるなよ。」
「ゲート出現します!」とエリカ。
線で描かれたようにゲートの輪郭がはっきりと見えた。その内側に明るい。おそらく、恒星のような光源があるのだろう。逆光で敵の船の陰がはっきりと見える。
「まったく予想通りだな」と悠木はうれしそうに言った。「アルファクラスだけでも百体ほどか。すごい数だ。佐藤中尉、主砲発射準備だ。」
「主砲発射準備!」と恵子。
「重力レンズの調整完了!」と舞。
「主砲トリガー、セット完了!」と早苗。
「主砲発射」と悠木。
「主砲撃ちます!」と早苗。
朝風の艦首から虹色のビームがゲートの方向に伸びていき、虹色の光に照らされた敵が崩壊していった。
「山本少尉、艦首を振れ」と悠木。
「方向微調整します!」と綾子。
「敵艦隊をほぼ殲滅!」とエリカ。
「重力レンズを調整。焦点距離を最大にしろ」と悠木。
「焦点距離を最大にしました!」と舞。
「エネルギーが続く限り、ゲート内にビームを照射し続けろ」と悠木。
「照射続けます!」と舞。
「ゲート消えていきます」とエリカ。
「ビームの出力が出ません。エネルギーゲージがゼロです!」と舞。
「よくやった……」と言うと悠木は艦長用の制御卓に突っ伏した。
「キャー!」と艦長席の横に立っていたサキが叫んだ。「艦長が青く光っています!」
悠木の体は青い炎をゆらゆらと放ちながらゆっくりと溶けていった。
「涼子ちゃん、早く!」と瑠璃子が叫んだ。
涼子が率いる医療班が駆け付け、溶けずに残った悠木の体組織を丁寧に治療カプセルに回収した。




