ウィッチ偵察機
朝風は火星に近づきつつあった。会議室で艦隊司令部の作戦会議が開かれた。
「これから数日かけて航空隊の本格的な訓練を行います。天野中佐、計画を説明してください」と瑠璃子。
「わが艦隊には、朝風と夕霧にそれぞれ一個中隊の航空隊があります。これらを一体運用する訓練を行います。各中隊はアルバ戦闘機六機で構成されており……」と瞳。
「艦長、起きてください」とサキ。
「お腹いっぱいで眠くて……」と悠木。
「起きるんだ、悠木艦長!」と桐子。
「ひえ!桐子姉さん!なんでここにいるんだよ」と悠木。
「会議に決まってるだろう。夕霧と合同訓練だ。聞いてなかったのか?」と桐子。
「聞いてたよ。だから実戦は無理だって言ってるんだよ。素人のアルバじゃ」と悠木。
「だからあんたが稽古をつけるんだ。やっぱり聞いてない」と桐子。
「稽古をつけるってどういうこと?」と悠木。
「あんたも飛ぶのよ」と桐子。
「アルバなんて乗らないよ」と悠木。
「あんたにはウィッチ偵察機を用意してある」と桐子。
「へ?」と悠木。「聞いてないよそんなこと。どこにあったの。」
「ハンガーだ。嘘だと思うなら見てきなさい」と桐子。
飛行甲板の見える航空隊指揮所に悠木たちは移動した。
「ほんとうにウィッチだ。本物なの?」と悠木。
「あたりまえでしょ」と桐子。
「でもありえないよ。処分されたはずでしょ」と悠木。
「こっそり隠しておいてくれた人がいたのよ。この艦と一緒に」と桐子。
「この艦をぼくのために建造したって言ってたじゃないか」と悠木。
「もちろん、そんなの嘘よ。二隻とも艤装しなおしただけだ」と桐子。
「甲板に降りて機体を見るよ」と悠木。
「どうぞ。もともとあんたのものよ」と桐子。
桐子は指揮所から船内通信で瑠璃子につないだ。「うまく乗ってくれそうです」と言った。
「よかったわ。夕霧の航空隊を出してちょうだい」と瑠璃子。「佐藤中尉、朝風航空隊をウィッチに続いて発艦させて。」
「だれだよ、ぼくのウィッチをピンク色に塗ったのは?」と悠木。
「艦長、航空甲板に出るときは船外用のスーツとヘルメットをつけてください!」と、整備兵。
「乗ってしまえば関係ないよ」と悠木。「早く梯子をかけてよ!」
「指揮所へ、艦長が航空甲板に出ています、何とかしてください!」と整備兵。
「ウィッチに発艦許可が出ています。すぐに準備をしてあげて」と航空指揮所。
「マジですか?」と整備兵。
「ここに梯子なんてありません」と整備兵。
「乗れないじゃないか!」と悠木。
「本当に乗れるんですか?エンジン回ってるとこ見たことありませんよ、この機体」と整備兵。
「思考認証にパスしないと起動しないんだ。早くしてよ」と悠木。
「抱っこしますよ、艦長」と整備兵。
「何するんだ!」と悠木。
「どこから乗るんですか?」と整備兵。
「もっと後ろだよ。非常用のパネルを開けるんだ。電源が入ったよ」と悠木。
「お久しぶりです、ご主人様」とウィッチ搭載の人工知能。「第七号機です。」
「よく無事だったね。会えてうれしいよ」と悠木。
「わたくしもうれしゅうございます」とウィッチ。「まさかご主人様と再びお会いできるなんて、夢のようです。」
「ぼくも現実とは思えないよ。早く中に入れて」と悠木。
「どうぞこちらへ」という声とともにキャノピーが開いた。
転がり込むように操縦席に入るユウキを見て、整備兵があんぐり口を開けて立っている。
「すぐに燃料を頼む。それから兵装を適当に見繕ってくれ」と悠木。
「承知しました」と整備兵。
「飛べるかい?」と悠木。
「数分かかります」とウィッチ。
「そんなに?」と悠木。
「ご主人様の生体チェックにしばらく時間がかかります。思考接続はいかがいたしましょう?」とウィッチ。
「すぐに頼むよ。フルスペックで」と悠木。
「かしこまりました」とウィッチ。
「七番ということは、君はキャシーだね」と悠木。
「はい。覚えていて頂けて光栄です」とウィッチ。
「かわいい娘の名前を忘れるわけがないよ」と悠木。
「相変わらずお上手ですね、ご主人様」とキャシー。「ブリッジから通信が入ってます。」
「つないでくれ」と悠木。
「どう、飛べそう?」と瑠璃子。
「ええ、行けます。あと数分ください」と悠木。
「わかったわ。それじゃあ先にアルバを出すわよ」と瑠璃子。
「分かりました」と悠木。




