副官サキ
副官のサキが艦長席の横に立った。
「艦長、お食事の時間です」とサキ。
「お腹すいてない。後で行くよ」と悠木。
「だめです。今、立ってください」とサキ。
「いやだよ。持ってきてよ」と悠木。
「合戦時以外は食堂で食べるのが決まりです」とサキ。
「めんどうくさいよ」と悠木。
「抱っこして連れて行きますよ。いいんですか?」とサキ。
「やれるもんなら……なにするの!」と悠木。
「抱っこですよ。暴れないでください」とサキ。
「わかったよ、自分で立つよ」と悠木。
「手間を掛けさせないでください」とサキ。
「毎日、同じようなやり取りしてるわね、あの二人」と恵子。
「やっぱり艦長は子供だわ。訓練のときは厳しいけど」と綾子。
「艦長、かわいい!」と早苗。
「十歳の子供が艦長なんて変だけど、慣れてきちゃったわ」と恵子。
「私もよ。不思議なものね」と舞。
「私たちも食堂に行きましょう」と綾子。
食堂のテーブルに悠木とサキは並んで座った。
「艦長、ニンジンを残さないでください」とサキ。
「いらない」と悠木。
「だめです。食べてください」とサキ。
「おいしくない」と悠木。
「宇宙では食料は貴重なんですよ。残さないでください!」とサキ。
「君にあげるよ」と悠木。
「自分の分は自分で食べてください。むりやり口に入れますよ」とサキ。
「やれるものなら……なにするの!」と悠木。
「食べさせてあげます。口を開けてください!」
「わかった、自分で食べるよ」と悠木。
「手間かけさせないでください」とサキ。
「おやつないの?」と悠木。
「食事中におやつは出ません」とサキ。
恵子らは瑠璃子と瞳が食事をしているテーブルに座った。
「艦長っていつから航海術の勉強をしているのですか?」と恵子。
「勉強なんてしてないわ」と瞳。
「え、でもすごく経験のある船乗りのような振る舞いですが、どなたかに師事されておられたのですか?」と綾子。
「いいえ。宇宙海軍の関係者はここ数年でほとんど戦死してしまったから、内地ではほとんど見ないわね。しかも、あの子は軍人を毛嫌いしてるから、師事どころか唾を吐きかねないわ」と瞳。
「では独学なのですか?」と綾子。
「まあ、そうなるかしら」と瞳。
「私には不思議なのです。この艦の原動機である重力エンジンはロストテクノロジーと言われているのに、艦長はよく御存じのなのです。なぜでしょうか」と舞。
「はじめに紹介したときに説明したとおり、艦長はこの艦の専門家なの。それ以上は詮索しないでちょうだい」と瑠璃子。
「はい……」と舞。
「通信技術についても学者のように博識なのです。やはり普通のお方ではないのですね」とエリカ。
「気が付いたとしても、口に出してはだめよ」と瑠璃子。
「そうなのですね」とエリカ。
「あの人がここにいることが奇跡なのよ。気をつけてちょうだい」と瑠璃子。
「はい」とエリカ。
「コーヒーはまだなの」と悠木。
「順番を待ってください。給仕の係りは忙しいのです」とサキ。
「クッキーはないの?」と悠木。
「今日はでません。飴で我慢してください」とサキ。
「コーヒーに合わないよ。せめてチョコレート……」と悠木。
食事を終えた瞳が悠木のテーブルに立ち寄った。「食後に会議室に来て。次の演習の説明をするから。」
「また射撃訓練かい?本番の前に弾がなくなるよ」と悠木。
「航空隊の訓練よ」と瞳。
「新人のアルバで実戦は無理だよ」と悠木。
「だから訓練するんでしょ。とにかく来るのよ!」と瞳。
「わかったよ」と悠木。
「それじゃあ、また後で」と瞳。
「ふん。みんな頭ごなしに押し付けてくる」と悠木。
「コーヒーが届きましたよ。かわいい艦長様」とサキ。
「あ、クッキーだ!」と悠木。
「一昨日のお茶会の残り物です。特別ですよ」とサキ。
「じゃあ、ちょっとだけ頑張ってあげる」と悠木。




