回想
瑠璃子から逃れた悠木は、恵子らに囲まれた。
「ぼくはともかく、君たちも随分若いようだけど」と悠木。
「十七歳です。学校に行っていれば高校2年生です」と恵子。
「そんなに若いの?」と悠木。
「ええ。ですけど、一次戦役のときは16才で男女とも招集されたと聞いています」と恵子。
「あのときは人口の大半が失われたからね」と悠木。
「いまだって深刻な状況です。奇跡の防衛戦で負けていれば人類は滅んでいました」と綾子。
「そうかもね」と悠木。
「恵子と私はあの戦いのとき、輸送任務で戦列のすぐ後方にいたのです」と綾子。
「へえ」と悠木。
「私は月軌道から見ていたわ。もし戦列が崩れたら、輸送艦で体当たりしてでも敵の地球圏への侵入を防ぐようにといわれていました」と砲雷長の早苗。
「ひどい作戦だな」と悠木。
「でも他にしかたなかったのです。私はじっと味方の戦列を後ろから見つめ続けていました」と早苗。
「私たち、そのとき見たのです。一次戦争で退役したはずのドラゴン級の艦が後方からまっすぐに前線に突入していくのを」と綾子。
「ほう、興味深いね」と悠木。
「嘘じゃありません。恵子も一緒に見ていました」と綾子。
「青く光る美しい艦影でした」と恵子。
「だが戦史には書かれていない。幽霊船かな」と悠木。
「そんなことはありません。私の方角からも見えていました。角度的には直上でした」と早苗。
「それは絶好の観戦ポイントだ」と悠木。
「激しい砲戦を繰り返しながら、敵の戦線内に入り込みました」と早苗。
「それで、何か起こったかね」と悠木。
「その艦は虹色の光を放って敵の艦隊を壊滅させました。ほぼ同時に自らも爆発して沈没したようでした」と早苗。
「ほう」と悠木。
「私たちも虹色の光を見ています」と恵子。
「その時刻にひどい電波障害が起きました。ちゃんと防空隊の資料に記録されています」とエリカ。
「その話が本当だとして、なぜ戦史に書かれていないのだろう?」と悠木。
「わかりません。何か機密事項なのだと思います」とエリカ。
「岩田少尉は見たことを報告したのかい?」と悠木。
「はい。でもそれっきりです。一応、上司から軍に問い合わせてもらったのですが、そのような事実はない、という通り一辺倒な返事しかもらえませんでした」と早苗。
「不思議な話だね。それで、君たちはこのドラゴン級の船に乗っていることに不安はないのかい?」と悠木。
「私たちは全員、ドラゴン級攻撃艦朝風の乗員の募集を知って志願したのです!不安などありません!」と恵子。
「私はあのとき人類を救ったあの艦の同型艦に乗ろうと、そして運命を共にしようと心に誓いました」と早苗。
「敵に突っ込んで沈没するかもしれない。戦史にも残らないかもしれない。そんな船にかい?」と悠木。
「あの美しい青い艦を間近で見たのです。矢のように進んでいく美しい艦影に私たちは見とれていました。あの艦が放つ虹色の光の神々しさは見たものにしかわかりません。そしてその後の静寂も」と綾子。
「あの光景が私の運命を変えました。あの光が私たち人類を救ったと感じたとき、何をすべきかを知ったのです」と舞。
「そんなに美しいものなら見てみたいものだな」と悠木。
「艦長!この子たちは本気なのよ。運命を共にするつもりなのよ。ちゃんと聞いてあげて!」と瑠璃子。
「君たちの志が気高いものであることを承知した。私も艦長としてできる限りのことをしたいと思う」と悠木。
「それだけ?」と瞳。
「何を言えと?」と悠木。
「この子たちの献身に答えて、地球と人類を守ると誓いなさい」と瞳。
「そんな空約束できないよ」と悠木。
「空約束なんて許さない。ここで今やり遂げると誓いなさい」と瞳。
「わかったよ……。君たちがあの虹色の光を美しく感じたと聞いて意外だった。とてもうれしかったよ。そして君たちの献身と志に感謝する。ぼくはここで力の限り、地球と人類を守ると君たちに誓う」と悠木。
「艦長、ありがとう。安心したわ。みんな、今日はこれでお開きよ。解散!」と瑠璃子。




