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歓迎会

 川本サキ少尉は艦長席の横に立った。「艦長、お食事の時間です。」


「お腹すいてないよ。後でもいいだろ」と悠木。


「だめです。士官の食事の時間は決まっています。食堂に行ってください」とサキ。


「ここで食べるよ。持ってきて」と悠木。


「だめです。私も一緒に行きますから、すぐに立ってください」とサキ。


「わかったよ」と悠木。


「悠木艦長、いらっしゃい」と瑠璃子。


「士官がみんなそろってるんだね」と悠木。


「そうよ、ささやかだけど、あなたの歓迎会よ。ここに座って」と瑠璃子は自分の隣の席を勧めた。


「恐縮です」と悠木。


「さあ、始めましょう。悠木艦長、あなたの着任を歓迎します」と瑠璃子。


 パチパチパチと拍手が起こった。


「みなさん、この二日間の航海で分かったと思うけど、悠木艦長は優れた船乗りなのよ。安心して彼を頼って頂戴。天野参謀長からも一言挨拶して」と瑠璃子。


「悠木艦長は私の弟なの。我儘で無愛想だけど、根はやさしい子なの。どうかよろしくね」と瞳。


「お二人は苗字が違いますが」と副艦長の恵子。


「従姉なのだけど、姉と弟として育ったのよ。ちなみに、二番艦夕霧の桐子は本当の姉よ」と瞳。


「きれいで優秀なお姉さんが二人もいるなんて、恵まれてますね、艦長」と航海士の綾子。


「それはどうかな」と悠木。


「艦長からも一言お願い」と瑠璃子。


「突然艦にのせられて驚いたけど、真面目に仕事に励むつもりだ。よろしく頼む」と悠木。


「では乾杯しましょう。乾杯!」と瑠璃子。


「乾杯!」と唱和した。


 副艦長の恵子と航海士の綾子が悠木の席のそばに来て話しかけた。


「会議では失礼しました。子供などと言ってしまって」と綾子。


「いいんだ。気にしてない。本当に子供だし。それにぼくははっきり自分の意見を言う人が好きだよ」と悠木。


「ありがとうございます。失礼ついでに、年齢もお聞きしてもいいですか?」と綾子。


「十歳だ」と悠木。


「ほんとうに小学生なんですね。サイボーグとか再生医療クローン体とかじゃなくて」と恵子。


「生身だよ。物心ついた時には姉二人の捕虜になってた。今もこの通りだ」と悠木。


「艦長、突然船に載せられたって、本当ですか?」と機関長の舞。


「そうだよ、そこの川本少尉にハブ空港で着替えさせられて、シャトルに載せられたんだ。何も知らされないままに」と悠木。


「へえ、サキちゃんがお着替え手伝ったんだ」と舞。


「パンツまで脱がされたよ」と悠木。


「いやーん。サキちゃん役得!」と早苗。


「何いってるのよ!すごく緊張したんだから」とサキ。


「そうよ、もし逃げられてたら大変なことになってたわ」と瞳。


「逃げるって、どこにですか?」と通信士のエリカ。


「家出の常習犯なの。体が小さくてすばしっこいから街で逃がしたら見つからないわ。でも艦に乗せてしまえばこちらのものよ」と瞳。


「艦長はおとなしそうなのに」とエリカ。


「猫かぶってるのよ」と瞳。


「私、医療担当の宮崎涼子中尉です。士官の会議には呼ばれてなかったので、はじめてお目にかかります」と涼子。


「お医者さんですね、よろしく」と悠木。


「艦長は左利きなのですか?」と涼子。


「右は義手なんだ」と悠木。


「でもそのレベルの義手なら違和感はないはずですが」と涼子。


「普段つけてないから、左手を使う方が自然なんだ」と悠木。


「普段はお付けにならないとは?」と涼子。


「身の回りのことを姉がやってくれるんだ。ちなみに、左足は義足で、左目は義眼だよ」と悠木。


「お姉様は優しいのですね」と涼子。


「どうかな。監視のためだとおもうけど」と悠木。


「監視?」と涼子。


「逃げ出さないようにね」と悠木。


「悠木。人聞き悪いこと言わないでちょうだい。あなたが我儘で、義手や義足をつけたがらないのでしょう。気持ち悪いって」と瞳。


「これは不良品だよ。違和感がひどい」と悠木。


「最高級品よ。いくらすると思ってるの?」と瞳。


「再生医療を利用されないのですか?」と涼子。


「染色体異常なんだ。手足の再生はできない」と悠木。


「遺伝子を治療可能です」と涼子。


「それもうまくいかないんだ。特異な異常らしいんだ」と悠木。


「かなりのレアケースですね」と涼子。


「ああ、わざわざそうしたみたいなんだ。神の呪いだよ」と悠木。


「艦長、聞き捨てならないわ」と瑠璃子。


「他に理由が見つからないよ。偶然なのかい?」と悠木。


「たとえどんな不幸があったとしても、私が加護します。あなたに呪いなどありません」と瑠璃子。


「心強いお言葉に深い安堵を感じます。内親王様」と悠木。


「あなたの体はこの命に代えても私が守ります。あなたはこの太陽系に住む人々を守って頂戴」と瑠璃子。


「この身の力の及ぶ限り努力いたします」と悠木。


「こちらに来て、悠木君」と瑠璃子は小声で悠木を側に抱き寄せた。


「はあ」と悠木。


「悠木君、私にも約束して、お姉さんたちにしたように」と瑠璃子。


「骨のひとかけらになっても戦います」と悠木。


「ありがとう、悠木君。あなたは言葉にしたことを必ず守るのでしょう。私はあなたの仕事を見届けるわ。だから何があっても私はあなたを離さない」と言って瑠璃子は悠木の細い体を強く抱いた。


「息が苦しい」と悠木。


「何を二人でこそこそ話してるの?瑠璃子指令官、私の弟に変なことしないでね」と瞳。


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