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誕生日

 瞳と悠木は列車に乗っていた。


「私とお出かけするの、そんなに嫌なの?」と瞳。


「どこへ行くの?」と悠木。


「内緒よ」と瞳。


 悠木はそっぽを向いた。


「今日、何の日か知ってる?」と瞳。「あなたの十歳の誕生日よ。」


「ろくでもない日だよ。ぼくの災難が始まった日だ」と悠木。


「すねないで」と瞳。「パーティーを準備をしているの。」


「どんな?」と悠木。


「とっても盛大なのよ」と瞳。「あなた、絶対に驚くわ。」


「嫌な予感がする」と悠木。


「おいしいものを好きなだけ食べさせてあげるわ」と瞳。「あなたの好物をたくさん用意しているのよ。」


「食べ物なら、家にもってきてよ」と悠木。


「だめよ。サプライズパーティーなんだから」と瞳。「桐子は先に行ってあなたを待っているわ。」


「白猫を家に置いてこなくてもよかったのに」と悠木。


「彼女は賑やかな場所が苦手だから、連れてきちゃ可哀そうよ」と瞳。「今日は私が添い寝してあげるから、寂しくないわよ。」


 悠木は瞳の胸にもたれかかった。



「もうじき駅に着くわ。用意をして」と瞳。


「宇宙港なんて聞いてないよ」と悠木。


「あなたは何も心配しなくていいのよ」と瞳。


「どこに行くの?」と悠木。


「さっきも言ったでしょ。パーティーよ。私が開会のスピーチをするから、あなたは横で座っててちょうだい。簡単でしょ」と瞳。


「うん」と悠木。



「着いたわ」と瞳。


 列車のドアが開いて、瞳と悠木が列車を降りた。


 降りたドアのすぐそばに、制服を着た若い女が立っていた。「お待ちしていました、天野様」と頭を下げた。


「ありがとう、サキ」と瞳。


「こちらが弟さんですか」と女。


「そうよ、よろしくね」と瞳。「悠木、私は準備があるから先に行くわ。あなたはこの川本サキさんに面倒を見てもらって。」


「え?」と悠木。


「よろしくね、悠木君」とサキ。


「姉さん、ちょっと……」と悠木。


「悠木、いい子にしてるのよ」と瞳。


「悠木君、行きましょう」とサキ。「こちらよ、乗船前にここで着替えてもらうわ。」


「乗船って?パーティーじゃないの?」と悠木。


「ステーション行きのシャトルに乗ってもらうから、着替えるのよ。その恰好じゃ危険でしょ」とサヤ。


「聞いてないよ」と悠木。


「私が手伝ってあげるから大丈夫よ。心配ないから」とサキ。


「そういうことじゃなくて……」と悠木。


「こちらよ。このラウンジに入って」とサキがドアを開けて悠木を中に入れた。


「ラウンジ?」と悠木。


「関係者しかいないから、人目を気にしなくていいわよ」と言いながら、サキは悠木の手を引いて奥のテーブル席に案内した。「早くこっちに来て服を脱いで。」


 サキが奥のカウンターテーブルに手を振って合図をすると、すばやく二人の女が駆け寄ってきた。そのうち一人が悠木の服を脱がし、もう一人は持ってきたスーツケースを開けて中身の確認を始めた。


「え?パンツまで換えるの」と悠木。


「すべて用意してあるのよ」とサキ。


「恥ずかしいよ」と悠木。


「かわいいわね」とサキ。


 悠木を裸にすると、二人の女は手際よくスーツケースから衣類を取り出して、悠木に着せ始めた。


「悠木君、もう少しだけ我慢してね。すぐ終わるから」とサキ。


「これって士官服だよね。コスプレパーティーなの?」と悠木。


「そうよ。ぴったりだわ。よく似合ってる!」とサキ。


「子供用の士官服なんて初めて見たよ。靴まであるんだね」と悠木。


「悠木君のためにあつらえたのよ。りりしいわ」とサキ。


「ぼくは軍が嫌いなんだけど」と悠木。


「急いで!シャトルが出る時間よ」とサキ。


「搭乗ゲートは遠いよ」と悠木。


「ここから乗るの。今日は特別だから」とサキ。


「え、チャーターしたの?」と悠木。


「10人乗りの特別便よ」とサキ。


「冗談でしょ?」と悠木。


 二人はラウンジのドアに接続されたボーディングブリッジを通ってシャトルに乗り込んだ。


「伊沢悠木および川本サヤ、搭乗いたします」とサキ。


「確認した」と乗組員。


「悠木君、こちらよ」とサキが一番前のシートに悠木を座らせた。


「本当に小型シャトルだ。贅沢だな」と悠木。


「シートベルトをしてあげる」とサキ。


「なんだか誘拐されてる気分だよ」と悠木。


「着いたらすぐにパーティーだから、今はいい子にしてて」とサキ。


 シャトルが小刻みな振動をはじめた。


「もう離陸なの?まるでぼく専用の空港みたいだね」と悠木。


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