表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/103

香り

 悠木は四体に分裂した状態から合体して一体に戻った。しかし、二体が参加した特別攻撃作戦の疲れから回復せず、ベッドで寝たきりの生活をしていた。


 リコ・ファレンは悠木が寝ているベッドの前でひざまずいた。


「職務に復帰したそうだな」と悠木。


「はい」とリコ。


「政府とはうまくいっているのか?」と悠木。


「官位を頂戴いたしました」とリコ。


 悠木はアハハハと笑った。


「笑い事ではありませぬ。窮屈で死にそうでございます」とリコ。


「よかったじゃないか」と悠木。


「他人事だからと言って、無責任です」とリコ。「(まつりごと)など性に合いませぬ」


「会社の経営と似たようなものだろう」と悠木。


「フォックス社の経営は、あなた様の名代としてのお仕事でございます」とリコ。


「何が違うんだ?」と悠木。


「今は上司と部下の板挟みでございます」とリコ。


「なるほど。それはかわいそうだな」と言って、悠木はまた笑った。


「どこぞの化け猫が妬ましく存じます」とリコ。


「そう言うな」と悠木はリコに左手を差し伸べた。



 リコは悠木の手を取り、ベッドに横たわる悠木の上から覆いかぶさってキスをした。悠木の顔にリコの赤みがかったやわらかい髪が触れた。


「リコ、神になったのか?」と悠木。「香りが前と違う」


「『黒魚王に仕えたければ神になれ』と言われ……」とリコ。


「女王様か?」と悠木。


「今は、伊佐々之ナミ様でございます」とリコ。


「そうだったな」と悠木。


「お嫌いですか?」とリコ。


「何がだ?」と悠木。


「わたくしの香りでございます」とリコ。


「嫌いじゃない」と悠木。「いい匂いだ」



「ところで、なぜ翆鶴(すいかく)のゲート生成装置のことを教えてくれなかったんだ?」と悠木。


「あんなものは気休めでございます」とリコ。


「どういう意味だ?」と悠木。


「温度五千度以上の恒星に突入して艦が分解しておりました。動作するわけがありませぬ」とリコ。


「それもそうだな」と悠木。「だが動作したのだろう?」


「はい。あなた様の魔力で、装置を含めた周囲がシールドされていたためと説明されています」とリコ。


「ならそうなのだろう」と悠木。


「あなた様の体が溶けても、シールドが残るものでしょうか?」とリコ。


「さあな」と悠木。「それにしても、事前に教えてくれてもよかっただろう」


「そんなことをすれば、わたくしだけパープルキティに送り返されかねません」とリコ。


「信用されていないのだな」と悠木。


「あなた様の考えはお見通しでございます」とリコ。


「お前には勝てぬ」と悠木。


「あなた様をお守りするためでございます」とリコ。



 しばらく間があって「側にいてやれず、すまないな」と悠木。


「もう報われております」とリコ。


「どういうことだ?」と悠木。


翆鶴(すいかく)で恒星突入の前に、あなた様と二人きりで二十日以上を過ごせました」とリコ。


「最後の時だと思っていた。お前が側にいてくれて幸せだった」と悠木。


「あなた様はお優しかった」とリコ。「もう、思い残すことはありませぬ」


「その言葉、男冥利に尽きる」と悠木。


「あなた様の側にいなくとも、わたくしは、もう永遠にあなた様のしもべでございます」とリコ。


「ありがとう。うれしいよ」と悠木。「だが、その欲のない言い草はまるで神のようだな。妖狐のお前とは思えぬ」


「仕方ありませぬ」とリコ。


「ああそうだった。お前は神になったのだな」と悠木。


「あなた様もでございます」とリコ。


「確かに仕方がないことだな」と言って、悠木はアハハと笑った。




 リコが悠木と話している間、白猫フェンは腕を組んでじっと窓の外を眺めていた。


「しばしのお別れでございます」と言ってリコは悠木に軽くキスをした。そして静かに立ち上がり、一歩下がって頭を下げた。


 リコはベッドに背を向け、部屋のドアに向かって歩いた。リコはフェンとのすれ違いざまに「後を頼むわ」と小声で言い、「分かってる」とフェンが答えた。


 リコはドアの前で悠木に一礼すると姿を消した。


読んでくださりありがとうございます。本作は次話で完結する予定です。一言でも感想を残していただけると嬉しいです。よろしければ、☆のポイントとリアクションのクリックをお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ