第7話:感情の神と戦闘の神
俺は今──退屈していた。やることが、ほんとうに何もない。創世して、魂を与えた。
それからはもう、勝手に進化して勝手に争って、勝手に滅びたり増えたりしてる。つまり俺の出番はもう……ない。
海の中はうるさいほど賑やかだ。
魚の種類は数千どころじゃない。
魔獣みたいなやつもいれば、喋る魚、空飛ぶクラゲ、触ると爆発するウニまでいる。
正直、見てて楽しい。けど──
魚には色がない。
それは、目の問題か、世界の問題か。
あるいは……感情の問題かもしれない。
だから俺は、決めたんだ。
色のない世界に、感情という色を与えるために――
俺自身の心を、切り取り、形にする。
魂の奥底から取り出した“原感”は、光でも闇でもない、不定形のエネルギーだった。
それをゆっくりと、言葉に。形に。意味に――そして、神に。
俺の感情が、一つの存在となって立ち上がる。
こうして誕生したのが―
『感情の神・アムル=ネウロ』
それはヒトのようでヒトでなく、神のようで神を超えたもの。ひとつの身体に、無数の感情が宿っている。
怒りは炎のように髪を燃やし、
喜びは翼を虹に染め、
悲しみはその目から永遠に涙を流し続けていた。
声は、聞く者によって違って聞こえる。
ある者には母のように優しく、
ある者には恋人のように囁き、
またある者には、戦慄すら与える神託の如く
「……我は、貴方の感情より生まれしもの。
されど今よりは、独立した“意思”を持つ神」
「おう……」
その存在は俺に向かってゆっくりと微笑んだ。
「問おう、創造主よ。あなたは、どの感情を私に“支配”させたい?」
俺はしばらく考えて、静かに呟いた。
「全部だ」
笑った。
俺の感情のすべてが、俺を笑った。
けれど――それでいい。
俺はこの世界をつくる。
ならば、感情の神もまた、俺の世界の柱のひとつだ。
「俺、暇なんだけど。」
やっぱり戦闘が必要だ。血が騒ぐ。ただ、力を確かめたいだけだ。
俺の能力『情報』は万能だ。
知識も力も戦術も、一瞬で得られるし、全てに適応する。正直、ここまで来ると
「俺に勝てる奴なんて、いないよな。」
海の神?ああ、それならもうとっくに俺だ。
世界の管理者?違う違う、それすらもう“俺の下”だ。だからこそ、戦いたい。倒されたいんじゃない。
試したいんだ、自分の限界を。
いや、もし俺に勝てる存在がこの世界に現れたとしたら……。
「そいつこそが、この物語の主役かもしれないな。」
ということで──俺は新たな生物を創ることにした。目的はただ一つ。
「俺を楽しませるための存在」それだけだ。
このまま神として君臨し続けるだけなんて、正直……飽きた。だったら、自分で“未知”を創ってやる。俺は静かに、自分の細胞を切り離す。
それに、ある特異な情報を刻んでいく。能力は『情報』その力を最大限に活用し、戦闘に特化した構造と、ある源を与える。
名前は『宇宙根源乙姫』
そう名付けた。
彼女は俺の源から生まれた。けれど、ただの源じゃない。
俺の『情報』を通して、未知の“根源”を与えられた特別な存在だ。宇宙の原理、根源の法則、そして乙姫──「与える者」「導く者」「創造する女神」それらすべての象徴としての名前。
彼女は、他者に未知の力を授けることができる。
「……ま、どうせまたすぐに人の姿になるんだろ。
いや、なるに決まってる。」
だってこれまでの奴らはそうだった。
『原初個体』も。
『魂核の原型』も。
みんな、人の姿になって、勝手に喋り出して、なんか綺麗で、自由に動き始めるしさ、俺も人になりてぇな。