表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルセリオンの神話『聖魔ルチア』  作者: エスケー
ルチアとアルセリオンの出会い編
8/14

第7話:いざ王都へ!!

 荷車の軋む音が、朝の静けさに溶けていく。

 私はその隣を、とことこ歩いていた。


「ねぇ、お父さん。王都までってほんとに歩きで一日かかるの?」

「そうだなぁ、途中で昼休みと夜の野宿もあるし、まぁ、気合い入れれば日が沈む頃には城壁が見えるかもな」


 そう言って笑うお父さんの背中は、なんだかいつもより大きく見えた。

 荷車には果物の詰まった木箱がぎっしり。

 それを一人で運んでいたなんて――ほんと、すごい。


「いつもこんなに重いの、ひとりで持って行ってたの?」

「はは、まぁな。慣れりゃどうってことねぇよ」


 そう言いながら額の汗を拭うお父さん。

 太陽はまだ高くないのに、すでにじんわり暑い。


 私は麦わら帽子を押さえて空を見上げた。

 白い雲が流れていく、どこまでも広い空。

 あれが王都の方角なんだ――と思うと、胸が少し高鳴る。


「ねぇ、お父さん。王都って、どんなとこなの?」

「んー、そうだな……人が多くて、音も光もすごい。夜でも明るいし、いろんな国の人が集まってる」

「へぇ〜……なんか絵本みたい」

「絵本よりもうるさいぞ。あと、物価も高い」


「ぶっか?」

「簡単に言えば、果物一個でパン一個も買えねぇくらいだな」

「えぇ!? 高すぎない?!」


 お父さんは苦笑いして肩をすくめた。


「だから、ルチアが可愛くて愛想よくしてくれたら、果物の売れ行きも変わるかもな〜」

「うん、頑張るよ!私!!」


「お父さんを楽させてあげるんだから!」


 胸の中でぎゅっと拳を握る。

 ――だって、お父さんいつも疲れてるし。

 夜遅くまで果物を磨いて、朝も一番早く畑に出ていく。

 だから今日は、私が頑張る番だ。


「おいおい、そんなに気合い入れると途中でバテるぞ?」

「バテないもん!」

「はは、頼もしいな、うちの娘は」


 お父さんが笑う。

 その笑顔が、少し嬉しくて、少し照れくさい。



 夜になる。


「魔物は夜になると活発になる。焚き火から離れるなよ、いいな?」


 お父さんが大きな荷物を地面に下ろし、手際よく火打ち石を鳴らした。カチッ、カチッと音が響き、やがて乾いた枝に小さな火が灯る。その炎が次第に大きくなり、周囲を橙色に照らした。


「うん……分かってる」


 私も荷物を置いて、そっと腰を下ろす。夕日が遠くの森の向こうへと沈み、空は茜から群青に染まっていく。風が少し冷たくなってきて、焚き火のあたたかさが心地いい。


 パチ、パチと薪がはぜる音を聞きながら、私は空を見上げた。


「ねぇ、お父さん」

「ん?」

「王都の夜って、どんな感じなの?」

「そうだなぁ……村よりずっと明るいぞ。空に星は少ししか見えねぇが、街の灯りがまるで星の代わりみたいに輝いてるんだ」

「へぇ……いいなぁ」


 胸の奥が少しだけ高鳴った。

 王都、そこには、私の知らない世界が待っている。



 湯気の立つ鍋の中で、シチューがぐつぐつと踊っていた。

 とろりとした白いスープの中に、にんじんやじゃがいも、そして——ほろほろに煮えたお肉。


「うわぁ〜! お肉だ!!」

「おぉ、気づいたか。お母さんがな、王都に行くお祝いだってさ。奮発してくれたんだ」


 お父さんは満足そうに頷きながら、木のスプーンでシチューをすくった。

 鼻をくすぐる香ばしい匂いが風に混じって広がり、私は思わずゴクリと喉を鳴らした。


「いっただきまーす!」

 口に運ぶと、柔らかい肉の旨味が広がって、思わず笑みがこぼれた。

「おいしい〜っ!!」

「だろ? お母さんの味はどこ行っても恋しくなるぞ」


 お父さんも豪快に笑いながら頬張る。焚き火の光が彼の横顔を赤く照らし、なんだか頼もしく見えた。


「御手洗行きたい!!」

 私は立ち上がって、お腹を押さえながら言った。


 お父さんは木の皿を片づけながら、少し笑って振り返る。

「御手洗か〜。あぁ、ちょっと先に川があるはずだ、そこで済ませてこい。あ、夜は危ないから、俺が近場まで──」

「大丈夫!ありがと!」


 焚き火の赤い光を背にして、私はランタンを持って歩き出した。夜の森はしん……としていて、風が草の間をすり抜ける音だけが聞こえる。頭上では、星がびっくりするくらい近くに見えて、夜空がまるで深い海みたいだった。


(少し怖いけど……大丈夫、ちょっと行くだけだし)


 足元でカエルがピョンと跳ねて、私は思わず声をあげた。

「ひゃっ!? ……もう、びっくりしたぁ……」


 しばらく歩くと、木々の隙間から水の音が聞こえてくる。

 月の光に照らされた川が、ゆるやかに流れていた。


「ふぅ〜、やっと着いた……」


 しゃがみこみながら、手を伸ばして水を触る。

 冷たくて気持ちいい。でも、その時だった。




「グルるる……」


 ――低く、地を震わせるような唸り声。


 風がピタリと止まった。

 足元の草がざわり、と揺れて、私は顔を上げる。


 そこにいたのは、月明かりに照らされて、銀の毛並みがゆらめく巨大な獣。

 毛糸のように柔らかそうな毛並み……なのに、鋭い牙は光を反射していた。

 背中から尻尾にかけて、稲妻みたいな模様が走っている。


(ありえない……どうして……)


 私の喉が勝手に鳴る。

 心臓が、ぎゅっと縮んだみたいに痛い。


 知ってる。見たことがある。

 お父さんがいつも「森の奥には決して近づくな」と言っていたあれ――


 |魔狼《まろう。


 村の伝承でしか知らない、恐ろしい存在。

 村の家畜を一晩で食い尽くしたって話も聞いた。


「え……なんで……ここに……?」


 声が震える。

 ランタンの灯りがカタカタ揺れて、影が大きくなっていく。

 魔狼はその赤い瞳で私を見つめ、低く唸りながら一歩近づいた。ドクン、と心臓が跳ねる。


「がァァァァ!!」


 魔狼が地を蹴った瞬間、風が弾けた。

 目の前の景色が一瞬で歪むほどの速さ――!


(早いっ、逃げられない……!)


 喉が凍りつき、足が地面に縫い付けられたみたいに動かない。

 胸の奥がキュッと痛む。

 次の瞬間、牙が目前に迫り――私は反射的に目をぎゅっと閉じた。


 ――ザンッ!!


 何かが空気を裂くような音。

 風圧で髪がなびいた。

 そして、金属が何かを叩くような衝撃音が響いた。


「……え?」


 おそるおそる目を開けると、私の目の前に、白い光が走っていた。


 魔狼は真っ二つに割れてたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ