第5話:ユナとオリジン
ユナも最初はただの細胞の集合体だった。だが、彼女は自らの意思で姿を変え始め、やがて青と白の髪、青と白のオッドアイを持つ少女の姿へと進化した。
何でみんな俺より先に人の形になるんだよ…少し悔しくもあり、どこか面白くもある。だが、俺は俺のやり方で進むさ。人の形なんて関係ない、俺には俺だけの「情報」があるんだから。
「我が神よ!!」
原初個体が俺の方へ駆け寄ってくる。
「私、いっぱい生き物作りました!我が神とは既に別の個体も存在しますよ。」
俺の細胞から生まれた存在たちは、もう俺だけのものじゃない。彼ら自身の細胞で新たな命を生み出し、交尾し、命の輪を繋いでいる。世界は確実に動き出しているんだ。うん、うん、それでいい。それこそが“始まり”ってやつだ。
つまり、『魂核の原型』の使命は、もう果たされたということだ。
魂を持つ存在が生まれ、そして魂を継ぐ命が繋がっていく。最初は彼女が唯一の“魂の源”だったが、今やその必要はない。魂を持った存在同士の交配によって、自然に魂を持つ子が生まれるようになったのだから。
『魂核の原型』はもう役目を終えた。だが、それは消えるという意味ではない。
彼女の存在は、始まりを担った“魂の母”として、永遠に歴史に刻まれるだろう。さらば!
「勝手に終わらせないでください!!
あたしも“始まり”の存在になりたいんです!
ずるいですよ!我が君主と、こいつだけ……!」
「こいつ……それ、私のこと?」
ピキピキと音が聞こえそうな空気の中、オリジンとユナは睨み合っていた。
どうやら、このふたり……仲が悪い。いや、致命的に相性が悪い。
片や、自力で魂を得て進化した『原初個体』
片や、魂の創造を許された存在『魂核の原型』
どちらも俺の“分け与えた存在”だが、だからこそ互いを意識しすぎる。
しかも、どちらも俺への執着が強すぎるのも原因だろう。っていうか、俺、ただの細胞だったんだけどな。
気づけば“神”扱いされてるの、ちょっと荷が重くないか?
「私も早くなにかしたいです!!」
と、ユナが怒り気味に声を上げた。
まぁ、確かに退屈だろう。
『魂核の原型』の仕事は、
『原初の個体』が作り出した生物たちに“魂”を与えるだけ。
黙々と、感情も持たない器に命を灯していく作業。地味すぎて面白くない。
それに、ユナは本来「魂創造」の才を持っている。
ただの作業係として扱うのは、ちょっともったいない。
う〜ん……なんか無いかな。
ちょっと考えた俺は、ふと閃いた。
「じゃあ、逆にさ。
お前にしかできない“魂の進化”とか、“ってのはどうだ?」
たとえば:魂に“特性”をつける。
複数の魂を束ねて“群体意識”を生む。
もしくは、“堕魂”──壊れた魂を集めて、異質な存在を創る。
「え、いいの?! 本当に?!」
ユナの目が輝く。青と白のオッドアイが興奮でゆらめいていた。
「あぁ、いいぜ」
俺はそう言って、自分の固有スキル『情報』から“感情”の因子を抽出する。
「……ふふっ。なにこれ。なんか、嬉しい……」
ユナは新たな能力を得た。
「よし、じゃあ好きにやってみな。全部お前に任せる」
「任せてください!我が神!!」
ユナはそう言って、海の底へ嬉しそうに飛び跳ねるように泳ぎ去った。