第4話:魂の存在
海は少しずつ“命”の色を帯びていった。
透明だった水の底に、うごめく影──。
やがてそれは、多様な進化系統を持つ魚類へと姿を変えた。
あるものは鋭い牙を持ち、捕食のみに特化した形状に。
あるものは光を発することで、暗黒の深海でも狩りができるように進化した。
あるものは群れを成し、巨大な個体にも立ち向かう知性と連携を持ち始めた。
また一部の魚は、情報の因子に反応する特異な適応を始めていた。だが、それらはまだ“個”として動くだけ。真の意味で「文明」や「社会」を形成するには至っていない。
魂がない──つまり“心”が存在しない。
ただ動くだけの生命。呼吸し、捕食し、反応するだけの空っぽな器。
それを見て俺は思った。
「……これ、生きてるって言えるのか?」
泳ぎ回ってるくせに、目に光がない。感情がない。
それは、見ていて気持ち悪いくらいだった。
魂が必要だ──
そう思っても、魂を作るってのはそう簡単じゃない。俺でも一応できるにはできるけど、いろいろ“めんどくさい”。
それなら、魂を生み出す存在を先に作った方が効率がいい。でもまぁ、今の俺はヒマだった。だから。
「……仕方ねぇな」
俺は自分の能力『情報』を使った。この能力は、あらゆる存在の構成・本質・因子を理解・改変・構築する。俺自身の“魂”を分割し、一片を抜き取る。
それは、ひどく熱くて、冷たくて、どこか懐かしい感触だった。
「このくらいなら死にはしねぇよな……たぶん」
その魂の一片に『自律性』『意思』『発芽因子』を宿すよう情報を書き換える。いわば、魂の種。
俺の一部をもとに、魂を芽吹かせる“触媒”
俺の魂から生まれた名前は『魂核の原型』はそして与えた能力は『魂創造』
魂を持たぬ“殻”ばかりの世界に、初めて「命の核」をもたらす存在。その力は、ただ魂を生み出すのではない、魂に「意味」と「衝動」と「個」を宿す。
生き物に「生きる理由」を与えるのだ。
そしてこの能力『魂創造』は、本来なら俺にしか扱えないはずのもの。
俺は『魂核の原型』の動きをぼんやりと見つめながら、退屈を感じていた。今はまだ小さく、何もできないが、いつかこの存在が何を成し遂げるのか、まるで未来の絵を見ているような期待感が胸を満たす。
「さて、俺はまた少し休もうか……」と呟き、静かな海の底に身を沈める。眠りの中でさえ、情報は流れ、世界は動き続けているのだ。