第3話:増える生き物達
あの日から何日が経っただろうか──いや、もう“日”という感覚すら曖昧だったかもしれない。
俺は、ただ“動いて”いた。無限の海を彷徨いながら、変化を探し、兆しを探して。
そして──それは、突然だった。
水の流れが、わずかに乱れた。
視界の端で、何かが“泳いだ”気がして、俺は即座に気配を探る。
──居た。
「……うそ、だろ」
そこに居たのは、見慣れない魚。
しかも、明らかに“俺の作ったもの”とは異質だ。自然発生……いや、それは違う。何者かが“作った”、それとも……?
「我が神よ!!」
突然、そんな声が響いた。
俺はキョロキョロと辺りを見回す──誰だ?
すると、水の中に“人間の姿”をした女性が立っていた。いや、泳いでいた、というべきか。長い髪、整った顔立ち──まるで神話から抜け出してきたような容姿。
「お前……誰?」
思わず問いかけると、彼女は目を輝かせて叫んだ。
「酷いです!原初個体ですよ!私です!我が神の記憶から、“人”という存在の情報を解析し、擬態してみました!どうですか!?綺麗でしょうか!?可愛いでしょうか!?抱いてみますか!?」
全身が淡く発光していて、水中に光の波紋が広がっていく。髪は綺麗に揺れ、目は宇宙を切り取ったかのような煌めきを宿していた。
「お、おう……すごいな……」
「っていうか、俺もやりたい、それ……」
正直、羨ましかった。
だって俺は人間になりたかったのに、どう頑張っても無理だったんだぞ。
それを初めて作った細胞が、先に人型になるとかズルくないか!?俺が本体だぞ!?
「じゃあ、私がサポートして差し上げましょう♡」
「う、うむ……たのむ……!」
こうして俺は、原初の個体と共に、“人”になるための進化を本気で模索し始めた。
最古の神と、最初の創造物──この奇妙なコンビの誕生だった。
♢♢♢
太古の星──
あの“何か”からこぼれ落ちた100個の細胞は、それぞれが独自の進化を辿っていた。
時間の概念すら存在しなかったその世界で、ただひたすらに変化と適応を繰り返す。
ある細胞は重力そのものに干渉し、
ある細胞は絶対零度の因子を宿し、
ある細胞は概念そのものを喰らう存在に、
ある細胞は知性の極致を目指して姿を変えていく。
それぞれが「正解のない進化」を歩み、
やがて、“神”としか呼べないような力を持つようになっていった。彼らはまだ互いに出会っていない。
けれど、その存在同士が交わる日はそう遠くない。
人も、生き物もまだまだ存在してない原初の時代が今動き出す──。