第40:生命が留まる最後の世界
なんだあれは……たった数秒で二人がやられた、w今残っているのは俺、リビィ、キャッツアイ、そしてナーガ、ルシリア、ベリアルの六名。
リビィに至ったは完全にビビっている、つまり戦えるのは五人だ、だが、勝てるのか?目の前の相手に勝てるのか。
「どうか抵抗はなさらないでください。何も残らないのはあまりにも悲しいですから……せめて、永遠の安らぎを得られた方が美しい姿でご家族のもとに戻れるよう、私もそう願っています。」
その言葉に侮辱や皮肉はない、本心で可哀想だと思っている、だからこそイカれている。
「にゃはは……やばいにゃねぇ」
キャッツアイの言葉が右耳に入る、確かにやばい。
勝てる可能性が微塵も見いだせない。それでもやるしかない、外の世界まで目前だから。
「おい!俺が前線を張る!お前ら支援しろ!
生きたいなら、死ぬ気でやれ!!」
しかし俺が言う前にベリアルは動き出した、大きな鎌を振り上げる
「消滅の女神」
道中灰色の光はベリアルの体を貫いた。だが、動きは止まらない。傷ついた体を押してなお、その巨大な鎌を振り下ろす。
しかし聖ルシアは微笑みながらその一撃を受け止めた。彼女の前で輝く黄色の光が、ベリアルの攻撃を完全に遮断している。
「ん?!」
ベリアルの目に驚愕の色が浮かぶ。
「魔族如きが私に触れようとするのは烏滸がましいですよ。」
その言葉に、ベリアルは冷静さを取り戻したかのように動き出し、包帯を外した。露わになる『死滅の魔眼』──俺も知る、制御不可能なほどの危険な代物だ。だが、何も起こらない。
「……どういうことだ……!」
一番驚愕しているのはベリアル自身だった。自身の切り札が何の効果も示さない状況に、動揺を隠せない。
その隙を見逃す聖ルシアではなかった。
「そこまでです、魔族――」
彼女が放つ巨大な光のエネルギーが、一直線にベリアルを貫く。その衝撃でベリアルは遥か彼方に飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「やばいどころの話じゃないな……」
俺は思わず息を呑んだ。聖ルシアの力は、俺の想像を遥かに超えている。
「協力はしたくないが……仕方ないにゃ。」
「クシシ……クシシ」
「仕方ないわね〜どうせ逃げたところで居場所は無いしね〜」
ナーガとリビィも武器も構えた、聖ルシアはそんな彼らを一瞥すると、思わず見とれてしまいそうな美しい笑顔を返した。
「そうですか……それがあなた方の選択なのですね。
愚かですね……命を粗末にすることは、神への何よりの冒涜です。」
「うるせぇ!!」
俺はそう言って走り出す、意図的に大声を上げ注意を集める、あいつとまともに渡り合えるのは俺だけだ。
「破壊光線!!」
俺は全力で破壊光線をぶっぱなした。あの聖ルシアの圧倒的な力を前にしても、一歩も引くつもりはない。
「聖法十法:聖天光咆放」
聖ルシアもまた、光の法術を即座に放つ。その光線は俺の破壊光線と激突し、凄まじい爆音と共に相殺された。周囲には眩しい閃光が一瞬だけ広がり、次の瞬間、俺はその爆発の衝撃を突き抜け、聖ルシアの至近距離にまで飛び込んだ。
「これで終わりだ!」
俺は拳にありったけの殺意と力を込め、彼女に殴りかかった。
しかし――違和感。
目の前の聖ルシアは微笑んでいた。その微笑みは、まるでこの状況を完全に掌握しているかのような余裕を漂わせている。俺は構わず何度も拳を振り下ろした。十回、二十回、三十回……。だが、彼女の微笑みは一向に揺らがない。聖ルシアの顔面は俺の拳を受けるたびにぐちゃぐちゃになっていき、最後の一発で彼女の身体は彼方へ吹き飛んでいった。地響きと共に遥か遠くで塵が舞い上がるのが見えたが、俺の全身は疲労で重く、今はその場に立っているのがやっとだった。
「にゃは~強いにゃね~」
後ろから軽い口調の声が聞こえた。ナーガかリビィだろうか。しかし、今の俺にはそれを確認する余裕もなかった。
「はぁ……はぁ……」
荒い息を吐きながら、俺は聖ルシアの姿が完全に見えなくなったことを確認する。これで終わった……そう思いたかった。
「おい、お前ら、大丈夫か……」
振り返りながら仲間たちの安否を確かめようとした瞬間、俺の視界に嫌なものが映った。
あれは……。
「ああ、良いパンチですね。」
聖ルシアは冷たく微笑みながら言った。
「ですが、私を殺したいなら……そうですね、あと数百年は鍛えてください。」
彼女の手が静かに動き、次の瞬間――
「消滅の女神。」
白い光線が俺を直撃した。直撃した瞬間、何の外的なダメージも感じない。
だが――
「──ッ?!」
異変に気づくのはすぐだった。胸に広がる感覚、喪失感。『破壊光線』が……無い?
スキルを……消したのか……。スキルは俺の武器だ。その一つが消されるということが何を意味するのか、すぐに悟る。
「気を付けろ!こいつ、スキルを消す能力を保有している!」
俺がそう叫ぶと、ルシリアが冷静に状況を見据え、ぽつりと呟いた。
「そうか……そういうことか。ウロボロスが倒れた理由、いや……死んだのは、スキル――いや、もっと言えば“特徴”そのものを消されたからか。」
その言葉を聞いた瞬間、聖ルシアの唇に薄い笑みが浮かんだ。彼女は何も言わず、楽しむように俺たちを見下ろしている。
ああ、そうか……だからベリアルの『死滅の魔眼』も効果を発揮しなかったのか。
俺はルシリアの言葉でようやく理解する。あの圧倒的な『死滅の魔眼』が発動しても、何も起こらなかった理由。それは効果を無効化されたのではなく、そもそもその“存在”が消されていたからだ。
「ふふ……正解。」
聖ルシアは満足そうに微笑むと、軽く肩をすくめて言葉を続けた。
「私は他人のスキルや特徴を消すことができるの。それが私の能力。力を持たない者たちを守るためにね。」
「クソが……化け物が」
俺は低く呟きながら、じっと聖ルシアを睨みつけた。『破壊光線』という切り札を失い、今手持ちのスキルだけで、この化け物じみた存在に勝てるのか――正直、自信はない。だが、諦めるわけにはいかない。
聖ルシアはそんな俺の葛藤を嘲笑うかのように、慈愛に満ちたようでいて冷たさを含んだ声で言葉を放った。
「貴方達は愚かです。だからこそ、今ここで私が天罰を下しましょう。その名は──“絶望”。」
その瞬間、聖ルシアの周囲に光の柱が立ち上がり、空間全体が不気味な静けさに包まれる。俺の背筋に嫌な汗が流れる。この感覚……何かが起こる。
「これより10分間、私の絶望に耐えてみせなさい。それができれば、神はきっと貴方達を赦し、情けをかけてくださることでしょう。さあ──断罪の時です。」
その言葉と共に、周囲が一瞬にして異界のような空間に変貌する。聖ルシアの結界が視覚的にも感じ取れるほどに強固で、その中から放たれる光が不気味な威圧感を放っている。
「くそ……こんなもんに耐えられるかよ!」
俺は拳に力を込め、その結界に渾身の力で叩き込む。衝撃波が空間を揺らし、振動が波紋のように広がっていく。しかし――
「……無駄です。」
聖ルシアは静かにそう言い放つと、結界は俺の攻撃を全て吸収してしまう。俺の拳がどれほど強かろうと、どれほど殺意を込めようと、その結界に傷一つ付けることができない。
耐えるしかない……本当にそれしかないのか?
焦燥感に駆られながら、次の一手を考える。スキルを封じられ、破壊力に頼る戦術が封じられた中、まだ戦う方法はあるのか――。
もっと速く、もっと強く……!拳を繰り出す。だが、聖ルシアの微笑みは揺らがない。それどころか、彼女の余裕すら感じる表情に苛立ちを覚えた。
「素晴らしい熱意ですね。ですが、それでは足りません。」
聖ルシアが片手を軽く振ると、俺の拳が反発力に弾き飛ばされる。その衝撃で俺は数メートル吹き飛ばされ、地面に転がった。
「くそっ……!」
遠くでその激闘を見守っていたルシリアは冷静な瞳の奥に深い決意を宿していた。彼女の頭の中では、この戦いに勝つための策が次々と組み立てられていく。
(アルセリオンの力だけでは、いや、彼の技術をもってしても、この戦いを乗り越えるのは難しい……ならば、この私が一歩踏み込むしかない。)
ルシリアは手元に現れた『叡智の本』を広げた。黄金の光を放つ本のページには、無数の情報と方程式が流れ込んでいる。それは単なる知識の集積ではなく、世界の理そのものを解析し、組み替える力――ルシリアの固有スキル『叡智の本』だ。
彼女の目が鋭く輝き、次の瞬間、全身から魔力の奔流が溢れ出す。
「行きます……!六属性!!」
その言葉と共に、彼女の前に六つの異なるエネルギーが具現化する。燃え盛る炎、渦巻く水流、雷光の閃き、吹き荒れる風、地を裂く岩塊、そして全てを凍らせる氷――それぞれが一つの完璧な魔法として収束し、聖ルシアに向けて放たれた。
六属性のエネルギーが織り成すオーロラのような光が空間を覆い、聖ルシアに迫る。だが、彼女は微笑みを浮かべたまま、その輝きの奔流を見つめていた。
「魔法無効……それに頼るかと思ったのですが、なるほど――これはオリジナル魔法ですね。」
聖ルシアは一歩も動かずにその場に立ち尽くし、次の手を考えるかのように冷静に言葉を放つ。
その一方で、ルシリアの中には焦りもあった。聖ルシアの持つ絶対的な防御力を突破するために、自らの創造力の限界を試そうとしている――だが、それすらも打ち砕かれる可能性が頭をよぎる。
(アルセリオン、私は信じています……あなたが突破口を見つけることを……!)
しかし、オリジナル魔法は聖ルシアの目の前で消えた。
「嘘……なんで」
「その顔、いいですね」
絶望に歪んだ顔を見て聖ルシアは恍惚の笑みを浮かべる。
「炎球!」
リビィが隣で炎を放つ。それは間違いなく聖ルシアに命中する、はずだった。だが次の瞬間、不思議な現象が起きた。
「……な、なんだ!?」
なんとリビィが自分の放った炎に苦しみ始めたのだ。灼熱の炎が彼女の体を包み込み、その中で苦しみもがいている。
「あぁぁぁぁ……!」
その光景に俺たちは言葉を失った。一体何が起きているのか理解できない。呆然としている俺の隣で、ルシリアも困惑の表情を浮かべている。
「おい!気を確かにしろ!」
俺は咄嗟にルシリアに声をかけた。すると、ようやく彼女はハッとしたように顔を上げ、再び戦闘態勢を取る。
だが、状況は最悪だ。リビィは戦線離脱、残っているのはキャッツアイ、ナーガ、そして俺の三人だけ。この圧倒的な力を前に、絶望的としか言いようがない。
「消滅の女神!!」
聖ルシアが再び力を発動する。白い光線が俺を捉えた瞬間、身体が異様な感覚に包まれる。力が……抜けていく。スキルが、一つまた一つと消えていくのを感じた。
「クソッ……!」
俺は拳を握りしめるが、何もできない。聖ルシアの威圧感が全てを飲み込んでいく。このままでは、本当に終わってしまう──。
「にゃはは〜これはやばいね。」
キャッツアイは苦笑しながら呟いた、現状の状況は最悪だ、これ以上戦闘が続けば負けるのは明らかだ。
とはいえ、逃げるのは一苦労かかるだろう。
「私が……転移魔法を起動する!耐えてくれる?!」
ルシリアの発言、転移魔法でゼルクトの所まで逃げると言うことだった、無論俺達に断わる選択肢はない、それどころか希望が見えた。
「にゃも〜少し本気出すか」
「では、私も」
ナーガは三股の禍々しい色の槍を出し、キャッツアイもマジシャンが使うような黒いスティックを出した。
「まだ抗うおつもりですか……では、延長と参りましょう。幸い、この後は久しぶりに予定が空いていますので。」
俺は駆け出した、ナーガが助太刀するような『蛇神毒牙』で援護する、俺の後ろに紫いろよ蛇が二匹迫る
「カバ〜するにゃよ!」
キャッツアイは『幻術』を使い、俺達の姿を消させる。
「即興にしてはなかなか見事な動きですね……。ですが、貴方達の様子からして、特に親しい仲間というわけでもなさそうに見えるのですが、まぁ、いいでしょう。それにしても、なぜここに来たのですか?何か後ろめたい事情でもあるのですか?魔族の領土から逃げ出したい、あるいは何か罪を犯してしまった……?
逃げても意味はありません。大切なのは、己の弱さと向き合うことです。弱さを認めたその時こそ、本当の意味で成長できるのです。」
「そうやって上から講釈垂れてんじゃねぇよ!!」
俺の叫びと共に動き出した作戦は、完璧な連携で展開された。キャッツアイの『幻術』により、俺の姿は完全に聖ルシアの視界から消えている。その間にナーガが前方から『蛇神毒牙』を発動。毒のオーラを纏った蛇の牙のような攻撃が聖ルシアに襲い掛かる。
聖ルシアの注意がナーガに向いた瞬間、俺は迷いなく背後から飛び込んだ。
「くらえ!!」
全力の拳を聖ルシアの背中に叩き込む。同時に、ナーガの毒牙が正面から彼女を襲い、挟み撃ちとなる。激しい衝撃音と共に毒の霧が広がり、聖ルシアの体が大きく揺れた。
「手応えが……ある!」
俺の拳に伝わる感触は確かだった。防御を突破した。ナーガの毒も相まって、確実にダメージを与えたはずだ。
だが、背筋にゾッと鳥肌が立つ。
「いい連携出した、しかし私には勝てません」
「有り得ねぇ……」
思わず漏れた言葉。確かに聖ルシアに触れた感触があったのに、どうして無傷なんだ?
「私は常に考えています──貴方達、一人一人にとって何が“絶望”なのかを。
私の目的は“勝つこと”ではありません。
私の目的は、貴方達に“絶望”を与えることなのです。」
聖ルシアが俺に向かってゆっくりと歩み寄る。俺は思わず後退した。
「生物が恐れるもの──それは、本能的に自分より格上だと感じる存在。そして、理解不能で、何をするか分からない、目的すら掴めない存在です。」
やばい……これはマジでやばい。勝てない、俺の能力開示も効かないってことは、相手は圧倒的に格上ってことだ。
「貴方の目に恐れが浮かんでいますね。それが恐怖です。そして今、貴方は心の中でこう思っている──“勝てない”と。
それこそが絶望なのです。」
「完成したわ!」
その瞬間、希望の光が差し込んだ。ルシリアの転移魔法がついに完成したんだ。距離が一番遠いのは俺。全力で駆け抜ける。
「させませんよ……」
「にゃはは!!」
キャッツアイが妨害するように『幻術』を展開した。
「神なる目は真実を映し出す」
聖ルシアの目が光り輝く、それは万物を見通す目。
「吹き飛ぶにゃ!」
キャッツアイは思っきり蹴飛ばすと聖ルシアは吹き飛んだ。
(──ッ?!)
その時キャッツアイは『反射作用』を使用する、
今攻撃を受けたのだ。
キャッツアイ、ナーガは既に魔法陣に入る、後は俺だけだ。
「させませんよ……
聖天十法:光臨の輪!」
光の輪が俺を捕まえる、身動きが取れない。
「アルセリオン!!」
ルシリアは俺の方を助けに行こうとする、しかしそれを止めたのはナーガ、キャッツアイ、リビィだった。
「アルセリオン、悪いね結局自分の命が一番可愛いからさ」
キャッツアイは強制的に魔法を発動させた
「待って!アルセリオン!!」
ルシリアの声が響くと同士に転移魔法が消える。
夕陽が俺達を差し込む……
「いつの間にか、夕陽が空に浮かんでいますね。
それだけ私達が戦いに没頭していた、ということでしょうか。」
俺は膝をつき下を向く、身体は動かない。
「可哀想ですね……仲間に見捨てられ、最後は一人で命を落とすとは。なんとも憐れです。しかし、これは罰なのです。
己の弱さから逃げ続け、本質を見失った結果に過ぎません。
人は一度幸せを手にすれば、より上質な幸せを求め続けるもの。しかし、幸せの本質とは妥協にあるのです。この言葉を、どうか来世で生かしてください。
消滅の女神!!」
無数の白い光線が俺に直撃する、多くのスキルが消滅していく……あぁ、せっかく俺獲得したスキルがほぼ消えた、!クソ……クソ……クソ……クソ……クソクソクソクソ!
「今、貴方はこう思っているでしょう──『私なんかいなければよかった』と。あるいは、『そもそもここに来なければ』『脱獄なんて考えなければ』と。
そしてさらに、『あの時、ああすればよかった』『こうしていれば』と、過去の選択を悔やんでいるはずです。
振り返ってみてください。もし、たった一度でも別の選択をしていたなら、貴方は私と出会うことすらなかったかもしれないのです。」
ああ、そうだ……脱獄なんて考えなければ、アガレスの場所でずっと牢屋に大人しくしてれば……結果は変わったかもしれない。
「全ての選択を間違え続け、己の罪からも逃げ続けた結果が、今の貴方です。これこそが、運命というものなのでしょうね。」
本当に、この女はイカれている。なのに、どうして泣きそうな目をしているんだろうか。理不尽だ。許せない。胸の奥が怒りで煮えたぎる。自分が何をしたというのだ。何もしていない。関係ないはずだ。それなのに、全てを奪われたかのような表情を見せる彼女が、余計に憎らしかった。
「しかし、私がここにいます。神に仕えし聖女である私が。
今こそ、貴方に救いの手を差し伸べましょう。絶望は十分に味わったはずです。己の罪を断罪し、新たな生を歩んでください。
私は貴方を信じています。どうか、神の加護が貴方にあらんことを。」
聖ルシアの周りに、柔らかな光が差し込んでいた。それはまるで天から降り注ぐ祝福そのもののようで、思わず目を奪われる。光の中に浮かび上がる彼女の姿は、現実のものとは思えないほど幻想的で、同時にどこか儚さを感じさせた。その存在自体が、美しさと儚さの象徴であるかのようだった。
「世界の礎となりなさい!
生命が留まる最後の世界」
それは圧倒的なまでの理不尽だった。抗うことすら許されず、俺の身体は次第に硬直し、石像のように動かなくなっていく。視界の端には、無数の花々が咲き乱れていた。鮮やかな色彩と優美な香りが、抗いがたい誘惑となって心に染み込んでくる。美しい。思わず、すべてを委ねたくなるほどに。
……だが、分かっていた。
あぁ……ダメだ、これは──。
頭の中で警鐘が鳴り響く。美しさの裏に潜む、底知れぬ危険の気配が俺を蝕んでいった──。
♢♢♢
聖ルシアは目の前の存在を見つめる、完全に動かなくなる。彼女が保有する世界系の権能『生命が留まる最後の世界』は抗う事も許されない圧倒的な暴力だった。対象者一人に寄生し、そこから多くの自然を生み出す、世界にとって完全なる家庭となるのだ。
アルセリオンの周りは先程は無かった多くの花や緑が生い茂る。聖ルシアが乗っているウルボロスにも影響が出たのか、苔が生えていた。
「最後の最後に、ようやくこの世界に貢献できて良かったですね……。
貴方にとって何が最善か、何が悪行かを、今この瞬間に悩んでいるのでしょうか。
ですが、悔い改めるその時が来るまで──貴方の罪が許されるその刻が来るまで、しっかりと向き合い、悩み続けるのです。」
聖ルシアは静かにその場を去っていく─。