第2話:深海の世界
ぐーぐーぐーグーグー侍──俺は今、世界の創造主でありながら寝ている。
なんせやることがねぇ。
最初の生命体も誕生したし、
この海も広げたし、
『情報』もだいぶ撒いたしな。
退屈。
暇すぎて夢の中で新種族考え始めたけど、
目覚めたときには全部忘れてるっていうね。
いや、ある意味これが“神”の生活か?
ちなみに、俺は人間になりたいと思ったことがある。けど──無理だった。
最悪だよ、マジで。
いけると思ったんだよ?スキル『情報』だぜ?万能に近いって言われてる能力だ。
けど、ダメだった。
多分、いや、ほぼ確実に“曖昧すぎた”んだと思う。
「人間になりたい」って、それだけ。
どんな見た目で、どんな思想で、何を得て、何を失うのか、何も決めてなかった。
その時、何かが動いた。
俺が細胞から創り出した存在たち──その中で最初に動いたのは、『原初の個体』だった。その身体が、確実に、そして間違いなく変わっていく。
変化は徐々に、しかし確実に進み、生命の鼓動が宿り始めていた。
これは、始まりの第一歩。俺が生み出した“最初の命”が、自らの意思を持ち始めた瞬間だった。
俺は『情報』を駆使し、その『原初の個体』に俺の言語を分け与えた。
そうすればこいつも、喋ることが可能になるはずだ。
言葉を獲得することで、意思疎通ができ、俺と同じ世界を共有できる。
「私……は」
女性の声が、微かに、しかし確かに響いた。
どうやらこの『原初の個体』は、ランダムに生成された声を持っているらしい。
「やぁ、俺は……名前どうしようかな」
「我が神よ……」
「お、おう」
ちなみにこいつも細胞だけの存在だ。
「よし、お前に命令を下す。生き物を増やしていけ。俺の能力を分け与える」
「……わかり、ました」
彼女いや、『原初の個体』はうっすらと目を閉じ、俺の言葉に応じた。
言葉という概念さえまだ不確かな中、それでも彼女は確かに”理解”していた。
俺は自らの『情報』の中から、ひとつの能力だけを切り離す。
『管理者権限細胞操作』
これは生命創造の基礎にして極意。
細胞を自在に組み換え、分裂させ、進化させることを可能にするスキル。もともと万能ではないが、生き物を「創る」には十分すぎるほどだ。
俺はそれを掌に宿し、彼女の中心核に触れた。
「──転写、完了。
これでお前も“生み出す”ことができる」
静かに光が広がる。
彼女の細胞が、ほんの少しだけ色を持ち始める。
それは進化の兆しでもあり、世界に変化をもたらす種でもあった。