第3話:お風呂の時間 ぷかぷかタイム
「ってことがあったのよ!」
夜、食卓の明かりがほのかに揺れる中、お母さんはドンッとお皿を置いた。音が響いて、部屋の空気がピリッと張りつめる。
「だから、私じゃない! アルセリオンっていう白い丸々の子が、食べたの!!」
「だったら、その白い丸っこい奴を出しなさい!」
「だ!!か!!ら!! その子、私の身体の中にいて、出てこないの!!」
「はぁ〜……また、それ、話が並行なのよ」
「並行って何!」
ドンッと私は椅子に座り込み、頭を抱える。
目の前のテーブルには、食べかけのリンゴが置かれているのに、まるで犯人扱いされている気分。最悪。
「まぁ、まぁ、二人とも落ち着いて」
「アスタ!! 貴方も何か言ってやりなさいよ。大体、貴方が不甲斐ないから、この子はちょっとわがままになったのよ!」
「つっても、あれだろ。ルチア、食べてないんだろ?」
お父さんが優しい目で私を見つめる。
その目に、なんだか少し安心する自分がいた。
「うんうん、食べてない!!」
「じゃあ他に誰が食べるのよ」
「だ、か、ら、アルセリオンが食べたの! 私は知らないんだから!!」
私は両手をぱっと広げて、全力で訴えた。
顔が真っ赤になるくらい必死だった。
「だったら、そのアルセリオンって子を連れてきなさいよ。お尻ひっぱたくから!」
「いいよ! 連れてくるよ!!」
私は勢いよく立ち上がって叫んだ。
「アルセリオン!! 出てきて!!」
――いるはず。
だって、昼間はちゃんといたんだ。
私の肩から出てきて、りんごだって食べた!
でも、何度呼びかけても返事がない。
部屋の空気が静まり返る中、お母さんのため息だけが響く。
「……アルセリオン?」
肩を叩いても、頭を揺らしても、どこにも気配がない。……隠れてるんだ!! 卑怯者!
「出てきて!!」
私は頬をふくらませて叫んだ。
お父さんは苦笑いし、お母さんはこめかみを押さえていた。
お風呂の時間になった。
湯気がふわっと広がる中、私は湯船の縁に腰を下ろした。
結局、お母さんは信じてくれなかった。
私のせいじゃないのに……。
胸の奥がじんわり苦くて、湯の温かささえ心に届かない。
その時だった。
『よっ』
突然、肩のあたりから声がした。
「――っ!!!」
思わず振り向くと、湯気の中に白い球体がふわりと浮かんでいた。
「あっ、貴方ね!! 貴方のせいで私、恥かいたんだよ!」
私は指をびしっと突きつけた。
「今から――汚名返上に行くよ!!」
アルセリオンはくるりと一回転して、まるで面白がるようにかすかに光った。
『悪いけど、それはできない願いだ。前にも言ったろ、少しは同居させてもらうって』
「だから、それが身勝手なのよ!」
『俺が死んでもいいなら、出してもいいぜ』
「……分かった、さよなら」
『おいおい、待て待て! そんなすぐに出すとは思わないじゃん!』
ひょこっとアルセリオンは私の体内へ戻って隠
れた。
「ちょ、ちょっと! 本当にどこにいるのよ!」
立ち上がってみても、肩にも背中にも、どこにも姿がない。
『気になるか?』
耳元で声がした。
そして――私の胸元から、アルセリオンがふわりと現れた。
「……なる!」
『教えない』
「うぅぅ!! もう!!!」
私は顔を真っ赤にして湯船の中でバシャッと水をはね上げた。
「ルチア?! どうしたの?!」
脱衣所の向こうから、お母さんの声が響いた。
あ……今なら言えるかも──。
でも、待てよ。どうせまた信じてもらえないに決まってる。
『言わないのか?』
アルセリオンの声が、胸の奥でくすぐるように響く。
「どうせ、貴方また隠れるでしょ」
『もちろん』
悪びれる様子もなく、白い球体は湯気の中でくるくると回った。
その無邪気な様子に、私はぷくっと頬をふくらませるしかなかった。
絶対に、絶対に一皮剥かせてあげる!!




