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アルセリオンの神話  作者: SR
世界創世編
3/25

第1話:最強の生物 誕生

 俺は目を覚ました。頭が重く、視界はぼんやりとしていて、自分が今どこにいるのか全く分からない。周りを見渡すと、360度すべてが海。


「……なんだここ」


 違和感が胸をよぎる。何かおかしい。記憶が断片的に浮かび上がってくる。俺には、前世の記憶がある。

 いや、それどころか、俺は確かに死んだはずだった。


「そうだ、あの時俺は……」


 前の世界で、何が起きたのか。事故か病気か、それとも別の何かだったか。思い出そうとすると頭がズキズキ痛む。

 だけど、確かに俺は死んで、何もない闇の中に消えた……そのはずだった。


 転生したってのはいい。まぁ、前世のクソみたいな人生よりはマシかもしれない。だけどさ……なんでこうなった!?


 普通さ、人間に転生するだろ!? で、特典付きのチート能力とか手に入れてさ、無双するやつじゃん!?


「おめでとう! あなたは人外に転生しました!」っていうノリだったら、ドラゴンとか、せめてスライムとかあるだろ。

 だけど、俺が見てるのはなんだ? 白い球体だぞ? 完全に磨き上げられた大理石じゃねぇか。転生先でインテリアになるってどういうことだよ!


 しかも、なんで俺、自分の姿を客観的に見れてんだ? 普通さ、自分の体を見るときは手を動かすとか、顔を触るとかそういうもんだろ? でも今、俺を見下ろしてんだよな……俺が。いや意味わかんねぇよ!


 動こうとしたらふわっと浮かぶだけ。声を出そうとしたら変なエコーがかかるし、これじゃただの喋るヨーヨーじゃねぇか! いやもう、誰か説明してくれよ、この状況。


 はぁ〜どうしようかな〜。


 とりあえず体は動く。意識もあるし、思考もできる。

 けど、問題は


「俺以外なんも生物がいないんだよな〜……」


 叫んでみても、反響ひとつ返ってこない。

 殴っても砕けるものすらない。

 漂ってるのか、立ってるのか、座ってるのかも分からない。

 感覚が狂う。時間の流れすらない。


 いや、あるのかもしれない。

 ただ、俺以外にそれを認識してる奴がいないだけで。

 

「……これ、マジで孤独の極みじゃね?」


 声に出しても、自分の声がただ響くだけ。


「俺……なんでこんなとこに居るんだ?」


 記憶も曖昧。

 でも、自分の“存在”だけは確かにある。

 なら、ここは“終わり”じゃない。


 むしろ“始まり”か──


 そう思った俺は、何の目印もない海を、ただ泳いだ。


 どこに向かっているのかも分からない。

 どこまで続いているのかも、そもそもこの世界に「終わり」があるのかも。


 それでも俺は泳ぎ続けた。


 何日だ? 何十日? 何年?


 感覚はもう曖昧だ。

 眠って起きて、泳いで、沈んで、また浮かんで……

 それを繰り返すだけの無限ループ。

 水の味も、温度も、変わらない。

 生き物の影ひとつ、痕跡すら見当たらない。

 “俺しかいない”という現実が、じわじわと精神を削っていく。そんな時だった。

 ふと。どこか遠くで、波の揺らぎを感じた気がした


 その場所は──


『熱水噴出孔』だった。


 岩盤の裂け目から、黒煙のような熱水が、ゴゥゴゥと音を立てて吹き出している。

 水温は異常に高い。周囲の水との温度差で白く濁り、視界は悪いが……確かにここは違っていた。


 俺は知っていた。

 いや、どこかで読んだ記憶がある。

 ここは、生命の起源と呼ばれた場所。

 地球でも、太古の生命がここから生まれたんじゃないかって、言われていた。


 けれど──生き物は、生まれなかった。


 どれだけ熱水が吹き出そうが、

 どれだけ海が揺れようが、どれだけ“始まりの地”っぽくても……何も起きなかった。


 ……暇だった。

 というより、孤独に飽きていた。だから俺は、ふと、自分の細胞をひとつ切り離した。


 ぷかりと浮かぶ、それはほんの小さな白い点。

 だけど、俺の中身を、全て凝縮したようなもの。

 そして俺には、能力がある。


 存在コード:『情報』だ。俺の肉体や精神、さらには記憶、概念、感情に至るまで……

 “あらゆる情報”を、自在に抽出・改変・付与することができる能力だ。言ってしまえば、俺は“生命のコード”を編集できる。


 もしくは、“存在という概念”そのものを再構築できるスキル。このスキルがあれば、俺一人で、生命を作れる。この世界の始まりを、俺の手で創れる。


 最初の生

 名を『真祖:原初の個体(・オリジンオリジナル)』とする。俺が切り離した細胞に『情報』を書き加え、 《生命》という曖昧で壮大なテーマに、最初のアウトラインを刻み込む。


 だが──万能ではない。


 俺の能力『情報(インフォ)』は強力だが、あくまでも「情報の編集・干渉」だ。


 生まれた存在が環境に適応できなければ即座に消える。進化を拒み、変化を恐れれば、そこで終わる。


 この海は──何も無いように見えて、過酷だ。

 深海圧、毒性、水温、微細な振動、光の届かない闇、

 そして「俺のような存在」が既にひとり居るという異常。

 淘汰されるか、進化するか。

 この世界に存在するとは、情報の証明”であり、“結果”だ。


『真祖:原初の個体(オリジン・オリジナル)』は、

 ほんのわずかな鼓動とともに、波紋の中で蠢き始めた。

 最初の“生命”が生まれた。

 この海に、確かな“他者”が刻まれた。

 さて、どうなるやら。

 “最初の子”が生き残るとは限らない。

 でも、もしこの個体が適応し、進化し、広がるとすれば……この世界はきっと、俺の子孫で溢れ返る。

 そんな悪くない未来を想像しながら、俺はその動きを見守るのだった。

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