表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/57

第4話:敵対組織

 グレイスは今、俺を含む魔狼たちをズラリと集めていた。

 ……いや、なんで俺がいきなり“幹部席”なんだよ。意味がわからん。

 周りを見れば、確かに他にも幹部らしき狼が数名いる。全員顔が怖い。


「先程、我が手下から通達が入った。敵軍が侵入している」


 グレイスの低い声が響く。

 そういえば、ジギーも前に何か言ってたな……魔狼たちは、今“敵対組織”と戦ってるらしい。

 何と戦ってるのか俺にはサッパリだが。


 というわけで、隣のタンに小声で聞いてみた。


「なぁタン、敵ってどこの誰だよ?」


 タンはニヤッと口角を上げ、牙をキラリと光らせた。


「へへ、教えてやるぜ。」


 ……なんか、めっちゃ悪役みたいな言い方しとる。


「この辺一帯を仕切ってるのが、うち“魔狼連牙団”。で、最近縄張りに土足で入ってきたのが“獣鬼衆”。あいつら、新参者のクセに態度だけは一丁前でよぉ、急に俺らの領域に侵入してきて、ズンズン縄張りを広げてんだ」


 と、タンは自慢げに尻尾を揺らしながら説明してくれる。どうやら獣鬼衆というのは、鬼と獣のハーフらしい。


「個体差はあるが、平均して強ぇ。つーか鬼より頑丈で、獣より速ぇ。ま、めんどくさい連中だわ」


 ……なんだそのチート種族。

 ここファンタジー世界だよね?バランス調整して?


「そんで、奴らが森の奥からじわ〜っと勢力伸ばしつつあってよ。この森の支配者であるグレイス様が“ふざけるな”って怒ってんだわ」


 そりゃ怒るだろうな。俺だって自分の縄張りに知らん奴が勝手に家建て始めたらキレる。

 いや、キレるどころか泣く。


 そんなこんなで、魔狼達は今まさに戦闘真っ只中だ。

 そして、今日、俺の初陣が決まった。


 討伐命令、メンバーは俺とタン、それから手練れの魔狼数名。


 ……いや急展開すぎん?まだ心の準備できてないんだけど。


「アルセリオン、無理強いはしない。どうする?」


 と、グレイスが振り向く。声は低いが意外と優しい。

 ボスの圧で押し切るタイプを想像してた俺の偏見を返してほしい。


 とはいえ、俺の答えは決まっている。


 行く。行かせてもらう。ついでに隙あらば逃げる!


 うん、俺は魔狼として生きる気ゼロだ。擬態解除して人型に戻って、ヴァルセリオン探して、とっとと合流したい。


 本当はスキル『遠吠え』で位置共有して呼び出せれば一番いい。でも、このスキル魔狼達半径10kmに届く。

 このスキル、魔狼限定版の超拡散サラウンド。


 半径10kmの魔狼全員に、爆音で届く。


 もし俺が本気で叫んだら、


『ヴァルセリオーーーン!!どこだぁぁ!!』


 ……って、美しい大自然の森に俺の情けない声が轟き渡り、その瞬間、

 100匹規模の魔狼が同時に振り向く地獄絵図が完成する。想像しただけで吐きそうだ。


 陰キャの俺にはキツすぎる。ので、やめることにした。

 そして作戦決定から出発までの流れは、驚くほど早かった。


 月の光が森を斜めに切り裂き、白銀の影を作っている。その中を、俺たち魔狼部隊は風を切って駆けていく。


 先頭を走るのは、漆黒の毛並みを揺らすグレイス。

 その後ろに副将級の魔狼たちが続き、俺とタンは中腹だ。


「遅れるなよ、アルセリオン。……あ、でもお前足速いから大丈夫か」


 タンが軽く笑う。いや、速いけど。

 陰キャは“集団行動”が一番キツいんだよ。


 とはいえ、現場に着いた俺たち魔狼一行は一瞬で空気を読んだ。


 ……目が、全員めっちゃ死んでる。


 月に照らされた目的地には、すでに何体もの魔狼が倒れていた。

 そこに“ただ一人”、場違いなほど楽しそうに立っている奴がいた。


「ハァッハッハッ!!軟弱な犬コロどもだなァ!

 おいおい、もっと俺を楽しませろよォォ!!」


 血飛沫を浴びながら笑うそいつは、鬼と獣が合体したような異形の存在だった。


 グレイスが、低く唸るように呟く。


「あれは……獣鬼衆”五鬼の一人。

 渇呪ノ鬼(かつじゅのおに) 嘯牙(ショウガ) ……!」


 紫と黒の不気味な肌、逆立つ髪、異質なオーラ。この場だけ世界の色が違うような怪物感。


 グレイスが険しい表情で続ける。


「あいつは悪魔と契約している。油断するな……!本気で強い!」


 いや、グレイスがそんな顔する!? マジかよ!

 でも俺は内心で、つい数値化(パラメーター)を確認してしまう。


 嘯牙:3580


 ……うん、普通に強いな。


 ん? ちなみに俺の数値化(パラメーター)は?


 1万超え……いや、俺の方が強いんかーい!!

 とはいえ、油断は禁物。こういう時に限って事故るのがテンプレだ。


 でも、精神的にはちょっと余裕が生まれた。いや、数字だけで安心するの陰キャの悪い癖だぞ俺、嘯牙(しょうが)は俺たちに気付くと、ニタァ……と笑った。


「お? まだ残ってたのかァ……?

 へぇ、そこの白いの。お前、中々ウマそうじゃねぇか……? 」

「下がれ、ここは俺がやる」


 黒き外套を翻し、グレイスが静かに前へと進み出た。その足取りには、一切の迷いがない。


「おやおや、いきなり“大将”のお出ましかよ。」


 嘲るような声とともに、嘯牙(しょうが)が闇の中から姿を見せた。口元には残忍な笑み。まるで獲物を前にした獣のようだ。


「貴様は……この俺が殺す!! 同胞を、よくも……!」


 怒りで震える声。だが、その激情を見た瞬間、グレイスは低く、冷たく笑った。


「おいおい、俺の前で怨念は悪手だぜ?」


 その言葉の次の瞬間、空気がひしゃげた、嘯牙の身体がみるみる膨張し、骨が軋む音が響く。皮膚が黒く変色し、背骨が隆起し、化け物めいた影が立ち上がった。


「お前の呪怨、全部……喰ってやる」


 その声は地鳴りのようだった。

 そしてグレイスの周囲に、黒紫の靄が渦巻き始める。

 それはただの霊気ではない。嘯牙が抱えてきた数多の怨念、殺された者たちの断末魔、恐怖、無念。具現化した呪怨そのもの。


「殺す!!」


 咆哮が戦場を裂いた瞬間、

 グレイスと嘯牙(しょうが)の激突が始まった。


 グレイスは一陣の疾風のように走る、高速で地を蹴り、影の残像を幾重にも刻みながら嘯牙の死角へ回り込む。

 その鋭い爪が幾度も閃き、エネルギーを帯びた咆哮が波のように叩きつけられる。


 だが、そのすべてが「効かない」。


 嘯牙の肉体はまるで鉄塊。

 いかなる一撃も傷一つつけることすらできず、ただ空気を震わせて終わった。


 さらに最悪なことに、グレイスが攻撃に使った爪が、じわりと暗黒に染まり始めていた。


「クク……わかるか? 呪力だよ。呪力。」


 嘯牙は愉悦に濡れた笑みを浮かべる。


「これは(エネルギー)の一種だ。

 俺は悪魔と契約し、魔力を得た、それだけじゃない。

 俺の固有スキルは『呪飲(じゅいん)

 さらに、(エネルギー)を二つ持っている。

 魔力と、呪力。……意味がわかるか?

 つまり俺はな、常識の枠で測れる存在じゃないってことだ!!」


 嘯牙は両腕を広げ、全身を黒い霧で包みながら宣告した。


「俺は、死なねぇ。呪いも魔力も、ぜんぶ喰って強くなるんだよ!!」


 厄介極まりない。あれは、深海の怪物に匹敵する強さだ。

 グレイスの前足は黒い痕に侵され、明らかに動きが鈍っている。呪力の侵食、このままではまずいな。


「貴様達を決してこれ以上この森に入れぬ!我ら魔狼族の誇りにかけて!!」


 咆哮とともに、グレイスの体毛が逆立ち、森の空気が震えた。前足の黒い染みが広がっているにもかかわらず、彼は一歩も退かない。その姿勢が腹立つほど勇ましく、そして、心を奮わせる。


「現実は残酷って事を俺が教えてやる。対価はてめぇらの命だぁぁッ!!」


 嘯牙しょうがは足を地面に叩きつけ、裂けた地面から黒煙が噴き上がる。次の瞬間、巨体とは思えぬ速度でグレイスへ突進した。大地が衝撃で揺れ、木々が裂け、黒い呪力が尾を引く。


『呪力、魔力を複合したオリジナル魔法と仮定されます。』


 久しぶりに情報の秘書(アシスタント) が警告を鳴らし、視界に赤文字が走った。

 嘯牙の拳が振り下ろされる。形容しがたい重圧、まるで巨大な岩塊がそのまま落ちてきたような一撃。


「ぐっ……!」


 グレイスは紙一重で横へ跳んだ。だが遅れた。拳から撒き散らされた呪力が触れた瞬間、空気が腐蝕し、地面が黒く融ける。避け切れてもなお、影のように追尾する呪圧が擦り、グレイスの身体をさらに黒く汚染した。


「ハハァッ!いいねぇ、その必死な感じよ!!もっと呪ってこいよ!!俺の”呪飲”で全部喰ってやる!!」


 嘯牙の全身が膨張し、皮膚の下を黒い血管のような筋が脈打った。呪力と魔力、その両方を吸収して肥大化している。もはや魔物というより災厄。


 グレイスは呼吸を荒げながらも一歩前へ踏み出す。その眼には恐怖も迷いも無い。


「魔狼族の誇り……!この森を……家族をッ!!お前なんかに……!」


 吠えた。次の瞬間、グレイスの身体から青白い光が爆ぜ、残像すら見えぬ速度で嘯牙へ襲いかかった。


 だが。


「遅ぇんだよッ!」


 嘯牙の黒い腕が横薙ぎに振るわれ、衝撃音が森を裂いた。


 グレイスの巨体が吹き飛び、幹を複数へし折りながら転落した。黒い煙が傷口から噴き出す。呪力の浸食が進んでいる。


「ぼ、ボス……」


 タンの声は震えていた。無理もない。

 嘯牙の全身から吹き荒れる呪力は、あたりの空気を黒く塗りつぶし、森そのものを悲鳴させている。俺も肌が焼けるような感覚を覚えた。あれは……普通の魔物の域じゃない。


 他の仲間たちも、誰一人声を出さない。ただ、息を潜めてこちらを見ている。分かる。誰が見ても“終わり”の光景だ。


 嘯牙(しょうが)の影が地を裂くように迫る。

 大気が震え、呪力と魔力が混ざり合った瘴気が渦を巻く。


 俺は一歩、前に出た。


 グレイスも仲間も、皆が息を呑むのが分かる。


「アルセリオン……逃げろ……お前じゃ勝てない……!」


 ボス格のグレイスですら声を震わせていた。

 その黒く染まった前足は、呪力の侵食で痙攣している。


「俺は随分と評価が低いようだな。」


 肩をすくめて睨み返す。嘯牙の口端が釣り上がった。


「クク……白い犬ころ。綺麗な毛並みだなぁ。

 よし、決めた。お前の毛皮を俺の服の装飾にしてやる。光栄に思え!!」


 ……いや、盛大に不名誉なんですけど。


 だが、次の瞬間には笑っていられなかった。


 嘯牙の足元が爆ぜた。

 巨体とは思えぬ速度で、黒い残像を引きながら俺へ迫る。


「来るぞ、気をつけ──!」


 仲間の警告が届くより早く、拳が突き抜けるように振り下ろされる。


 ズガァァンッ!!


 地面がえぐれ、大量の土砂が周囲に降り注ぐ。

 直撃なら、グレイスすら原型を残さない。


「へぇ、避けたか。じゃあこれはどうだ……!」


 嘯牙の腕が膨張した。

 呪力の奔流が渦を巻いて纏わりつき、まるで黒い竜巻のようだ。


「死ねぇぇぇ!!呪魔衝撃(カース・インパクト)!!」


 黒い殴打が大気を裂き、一直線に俺へ飛び込んできた。


 仲間の叫び声が遠くなる。


 タンも、グレイスも、他の魔狼族も、皆が絶望の色を滲ませて俺を見ていた。


 だから、俺はゆっくり息を吸う。


「……仕方ねぇな。俺の番って言ったろ?」


 白銀の毛並みが逆立ち、空気が震えた。俺は擬態を解除する、白い180cmに二足歩行の生物、見た目は完全に化け物だ、白い角に白いしっぽ、赤い眼光だ。


「な、何だこの姿は」


 グレイスが震え混じりに呟いた。タンたち魔狼族は本能で察したのだろう。

 彼らは背中の毛を逆立て、低く、警戒の吠え声を漏らす。


 グルルルル……ッ!!


 周囲の空気が急激に重くなる。

 視界の輪郭が揺らぎ、音が遠ざかるような感覚──


「ほう?なんだそのおぞましい姿は」


 嘯牙の口元が裂けるように吊り上がった。


 俺は…転生してから、どこか壊れてしまった。

 喧嘩なんて必要ないと思っていた前世とはまるで別人だ。

 今は、身体の奥底が戦いを、破壊を、暴力そのものを、求めている。


 俺の身体は“肉体”という概念が希薄だ。

 存在の構造そのものが【情報】でできている。

 だからこそ、常識の形に縛られない。


 白い毛並みが波打ち、光の粒となって再構築される。

 脚へ流れる情報が圧縮され、次の瞬間には別物のような質量と圧力を帯びた。


「……ッ、アルセリオン……まさか、お前……」


 グレイスが一歩、俺から下がる。


 俺はゆっくりと嘯牙に視線を合わせた。

 呼吸一つで大地が震え、霧散した情報の欠片が青白い閃光を帯びて渦巻く。


「来いよ」


 声が自然と低くなる。


「上等だッ!!」


 闇色の呪力が地面を腐食させながら迫る。

 その瞬間、俺は脚を軽く踏み込んだだけだった。


 キンッ!!大地が抉れ、空気が悲鳴を上げる。

 視界から景色が消え、瞬きより早く嘯牙の目前へ。


「なっ――!」


 音すら追いつかない速度。


 俺は拳を、ただ前に突き出した。衝撃が走る。

 闇色の肉体が波打ち、嘯牙の巨体が森の奥へ吹き飛んだ。


「……評価、低すぎなんだよ」


 俺はゆっくりと拳を握り直し、肺の奥から静かに息を吐いた。その瞬間、空気が、圧し潰された。


 大地がたわむように沈み、周囲の木々の枝がピシリと裂ける。

破壊圧縮クラッシュ・コンプレッション

 圧力を一点に叩き込むスキル。ほんの一欠片だけ込めただけ。…にもかかわらず。


 嘯牙(しょうが)の巨躯は、爆ぜるように消えた。


 一撃。

 たったの、一撃だった。


 黒い呪気が霧散し、残ったのは血とも灰ともつかない細かな破片だけ。

 あまりにも脆い。いや、俺が強すぎるのか。


「な……何が、起きた……?」


 グレイスは声を失い、タン達は背を逆立てたまま後ずさる。完全に本能で理解したのだろう。

 “いま目の前にいるのは、魔狼でも魔物でもない。もっと別の、情報で形作られた怪異だ” と。


 俺は彼らを横目に、淡々と歩き出した。

 爆散した嘯牙が落とした“情報”がまだ森の深部に漂っている。


「……スキルと呪力だけ、もらってくぞ」


 指先を軽く払うたび、黒い粒子のようなデータが吸い込まれていく。

 確かに“呪力”の概念は奪えた。

 だが“魔力”はだめだった。契約起源の媒体は情報形式が違うらしい。


「くそ、便利なのは奪えなかったか。……まあいい」


 あまりに綺麗に砕きすぎたせいで、奴の肉体の情報がほとんど残っていない。

 手加減? うん……する必要はあるな。


 俺の拳一つで、一個体の存在情報が“欠片”にまで分解されるのだから。


 森に静寂が戻る。

 風さえ、俺を避けて吹いているようだった。


 次は、多少残る程度に殴るか。


 さてと、どうやってこいつらに弁明しようか、まぁ、いいか。

 する必要ないないなとか思っていると、まさかの、まさかの光景が広がっていた。

 俺の前で、魔狼族が――族長のグレイスまでが――頭を垂れている。


 えぇ……なんでだよ。なんでそうなる。


「救世主様……いや、神よ……!」


 その言葉が森全体に響いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。


 タンなんて涙目で尻尾を振りながら震えているし、

 周りの魔狼は恐怖と感謝で混ぜたような複雑な顔をしている。


 グレイスはゆっくりと顔を上げた。

 その瞳には、戦士の誇りではなく、崇拝が宿っている。


「嘯牙を……あれを一撃で……。

 しかも呪力をも無効化し、粉砕するなど……

 あれはもう、我らの理では説明がつかぬ……」


 いやいやいや、そんな大げさな。


「アルセリオン様……どうか我らを導いてください。

 あなた様こそ、“魔狼の上に立つ者”……」


 おい待て、勝手にトップに据えるな。

 俺はリーダーとかそういうのは向いてねぇんだよ……!


 助けてくれヴァルセリオン!!!




 そんなヴァルセリオンは一人不敵に森で笑っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ